静かな時間が、先に流れてきた【イベント】
2026.04.12
工房に流れる時間と、文化が交わるひととき
皆さんこんにちは。
いつも紅型を通して、琉球文化に触れていただく機会をいただき、本当にありがとうございます。
皆さんの中にある「知りたい」「触れてみたい」という好奇心が、
私たちのものづくりの原動力となり、日々の挑戦を支えてくれています。
そのことに、心より感謝申し上げます。
沖縄はこの季節、少しずつ空気の表情を変えてきています。
かつて感じていた、しっとりとした穏やかな気候とはまた違い、
どこか力強く、輪郭のはっきりとした空気。
けれど、それもまた「今の沖縄」なのだと感じています。
湿度を含んだやわらかな風と、
強い日差しが織りなす光のコントラスト。
その中にある微細な変化が、私たちの感覚を静かに揺さぶります。
そうした自然の移ろいは、
染めの色や、布に宿る気配にも確かに影響を与えています。
さて、来週4月19日、
工房では「箏と紅型」というテーマを軸にした時間を迎えようとしています。
この日に向けて、日々コツコツと準備を進めています。
今回の時間は、単なる催しではなく、
芸能と工芸が交わる、小さな文化の場として整えています。

当日は、演奏と舞の時間が設けられています。
箏の演奏には町田倫士さん、
そして素踊りには高井賢太郎さんが出演されます。
音と身体の表現が、空間に立ち上がるその瞬間、
私たちが日々向き合っている「型」や「所作」と、
どこか深いところで響き合うものがあると感じています。
工芸における「型」は、単なる形式ではなく、
時間をかけて磨かれ、受け継がれてきた思考の蓄積です。
一方で、芸能における「型」もまた、
身体を通して継承される文化の記憶です。
異なる領域でありながら、
その根底には共通するものがある。
そのことを、実際の空間の中で感じられる時間になるのではないかと思っています。
そして、演奏の後、
夕方18時頃からは、残れる方々とともに、
ささやかな懇親の時間を持てればと考えています。
特別なことをするわけではありません。
簡単な食べ物と飲み物を囲みながら、
ゆっくりとした時間を共有する。
工芸の話でも、芸能の話でも、
あるいは日常のささやかな出来事でも構いません。
それぞれが感じていることを持ち寄り、
自然と会話が生まれ、
そこからまた新しい気づきが生まれていく。
そんな時間になればと思っています。
この場所について、少しだけ触れさせてください。
ここは、私の祖父である城間栄喜(14代)が晩年を過ごした住まいでもあり、
50年以上前に建てられた建物をもとに、
当時の建具やガラスなどをできる限り活かしながら、
現在は文化を伝える場として整えてきました。
戦後、祖父がこの地に拠点を移してから約70年。
当時の職人たちは、染めの仕事とともに、庭に木を植え、手入れをし、
時にはシーサーをつくりながら、この場所そのものを育ててきました。
そして今もなお、工房の職人たちが日々この庭を整え、
静かにその時間を受け継いでいます。
この庭を一望できるこの空間もまた、この場所の大切な一部です。
かつてこの家には、工芸のこれからを考える人々が集い、
時代の変化の中で何を残し、どうつないでいくのか、
多くの対話が重ねられてきました。
職人だけでなく、文化に関わる方々や、お客様、取引先の方々など、
さまざまな立場の人が交わり、言葉を交わしてきた場所でもあります。
昭和から平成、そして令和へと続く変化の中で、
ここには多くの時間と記憶が積み重なってきました。
大きな場所ではありませんが、
だからこそ、この空間の中で生まれる一つひとつの時間を大切にしながら、
工芸や文化に関心を持つ方々と、静かに言葉を交わしていけたらと思っています。
工房という場所は、
作品を生み出すだけの場ではありません。
人が集まり、交わり、
時間を重ねることで育まれていく場所です。
その中で生まれる空気や関係性が、
やがて作品へとにじみ出ていく。
だからこそ、こうした時間を大切にすることが、
ものづくりそのものを深めていくことにつながるのだと感じています。
天気予報は、今のところ晴れ。
沖縄らしい、少し湿度を含んだやわらかな空気の中で、
光と風がゆるやかに流れる一日になるのではないかと思います。
その空気の中で、
音と身体、そして染めが交わる時間。
4月19日という一日が、
ただの出来事として過ぎていくのではなく、
誰かの中に静かに残る記憶となれば嬉しく思います。
そしてその記憶が、
文化やものづくりへの関心を、
さらに深めるきっかけとなれば幸いです。
皆様とお会いできることを、心より楽しみにしております。
どうぞ、良い時間を共に過ごしましょう。

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城間栄市プロフィール
紅型に、時間と祈りを宿す
私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。
布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。

生い立ちと紅型との距離
1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。
幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。
本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。
外の世界で学んだこと
2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。
異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。
この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。
受賞・出展についての考え方
これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。
こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。
一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。
制作について
制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。
代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。
新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。
今、そしてこれから
現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。
これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。
これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。
おわりに
公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。
Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。
どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。
この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

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