イベントの進捗報告「静かに集まって、なぜか笑う。」

「紅型 × 落語 ― 出会いが色と物語を連れてくる」

 こんにちは。いつも紅型を通して琉球文化に関心を寄せてくださり、心より感謝申し上げます。
 今日は、来年1月17日に開催を予定している「紅型 × 落語」という新しい試みについて、少し長めにお話を綴ってみたいと思います。

 紅型と落語。
 一見するとまったく異なる世界のようですが、どちらも “人の営みを色や言葉に乗せて伝える” という深い共通点を持っています。

 そして今回、このふたつをゆるやかに掛け合わせてみる企画が、ありがたいことに大変多くの反響をいただき、開催前にもかかわらず予約はほぼ満席に近づいています。
 紅型の愛好家、落語を支えてきたファンの方々、そして「この組み合わせってどんな世界になるんだろう?」という好奇心で申し込んでくださった皆さまが、同じ場所へ向かって集まろうとしている——その静かな高まりを、今ひしひしと感じています。


 そもそも私が文化イベントを始めたのは、2024年からのことです。会場として選んだのは、祖父・城間栄喜(14代)が亡くなるまで暮らしていた家。
 この家は、戦後の焼け野原から紅型をよみがえらせた祖父の思いが、今も静かにとどまる場所です。

 38歳で敗戦を迎え、生きること自体が不安定だった時代。
 祖父は多くの職人や学識者と交流しながら、
 「紅型は必ず沖縄の未来を照らす文化になる」
 という願いを胸に抱き、歩みを続けていました。

 私はその場所でイベントを行うたび、部屋の光や風の流れ、庭に落ちる影の形に、当時の対話や祈りの気配が重なって見える時があります。
 言葉として残らなくとも、この家そのものが「文化を未来へ渡すための磁場」のように働いているのでしょう。


 今回の紅型 × 落語も、その“磁場”の中で生まれた企画のひとつです。

 落語には、人の日常の喜怒哀楽が凝縮されています。
 紅型もまた、人の心の揺らぎを色や構図に溶かし込みながら表現する工芸です。

 その二つが同じ空間で響き合うとどうなるのか——
 開催前でありながら、すでに多くのイメージが心の中に立ち上がっています。

 落語家の語りの“間”と、紅型の図案に残る“余白”。
 噺の流れに寄り添う登場人物の情感と、色が少しずつ重なり合っていく紅型の時間。
 それらが互いにほんの少し視線を交わすことで、作品にはまた違う物語が生まれるのかもしれません。


 このイベントが面白いのは、紅型の世界から来る方と落語のファンの方が、同じ場の中で混ざり合う点にあります。
 互いに知らなかった文化を、同じ温度で体験する。
 そこには “新しい文化の入口” のような空気が生まれます。

 沖縄という島は、古くから多文化が出会い、ぶつかることなく静かに溶け合ってきた場所。
 中国、東南アジア、日本、海を越えて流れ着くものが、風のようにこの島に触れ、独自の美意識を形づくってきました。

 紅型がその影響の結晶であるように、今回の落語との出会いも、
 「異なるものを柔らかく受け入れる島の感性」
 が後押ししてくれているのだと感じています。


 イベントを準備する中で、私は「場をつくる」ということの大切さをあらためて思います。

 一つひとつの企画には試行錯誤があり、改善すべき点も当然あります。
 しかし、それでも文化は「人が集まり、同じ時間を共有する」ことで静かに熟していくものです。

 祖父の家には、かつて多くの人が出入りしていました。
 琉球文化への思いを語り合い、時に酒を酌み交わし、
 未来を見据えるための小さな火をそれぞれ心に持ち帰ったのでしょう。

 その営みの延長線上に、今の私たちがあります。
 文化とは、ひとつの時代が守るものではなく、
 世代と世代の間でゆっくりと手渡されていくものだと、最近よく感じるのです。


 2025年の沖縄は、戦後80年を迎えます。
 私の父は終戦時10歳。被災し、母を失い、疎開先の熊本から命がけで戻ってきました。
 それでも父は手を止めず、92歳になろうとしている今も紅型の仕事を続けています。

 その姿を見て育ちながら私は思うのです。
 文化は「強い意志」で残るのではなく、
 「続けるしかなかった人の暮らし」の中で静かに育つものなのだ、と。

 だからこそ私は、イベントを行うときに
 “ただ形としての文化を提示する” のではなく、
 “人の営みが積み重なってできた文化” を感じられる場にしたいと思っています。


 これから、4月・7月・10月・翌1月と、季節ごとに新しい企画を準備しています。
 4月は琴と紅型を掛け合わせた会を予定しています。
 琴の透明な響きと、紅型の柔らかな色彩が交差するとき、きっとまた違う景色が立ち上がるでしょう。

 文化は固定されたものではなく、出会いによって形を変えます。
 だからこそ、こうした試みが未来へ向けた小さな一歩になればと願っています。


 最後に。
 今回の紅型 × 落語の企画が、まだ開催前であるにもかかわらず、
 多くの反応と期待をいただいていることに、心から感謝しております。

 この道がどこへ続くのかは、私にもまだ分かりません。
 けれど、祖父の家で風が通り抜け、
 職人とお客さまが同じ空気を吸い、
 落語家の声と紅型の色が重なる瞬間——
 そこに生まれる“静かな灯り”を信じたいと思っています。

祖父栄喜が住んでいた家

 文化はいつも、そんな小さな灯りから始まるのです。

 当日、皆さまとその灯りを分かち合えることを、心より楽しみにしております。

イベントの前に、場所のことを少しだけ。↓↓↓

栄喜の未来日記   

日常の中にある紅型ー伝統と未来をつなぐ物語

布が記憶となった時――紅型に刻まれた首里城の物語

I紅型に、時間と祈りを宿す

私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。

布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。


城間栄市プロフィール 生い立ちと紅型との距離

1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。

幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。

本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。


外の世界で学んだこと

2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。

異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。

この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。


受賞・出展についての考え方

これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。

こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。

一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。


制作について

制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。

代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。

新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。


今、そしてこれから

現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。

これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。

これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。


おわりに

公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。

Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。

どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。

この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

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