工房の朝に流れるやさしいリズム【工房時間】

皆さん、こんにちは。

紅型を通して琉球文化に関心を寄せていただいていることに、心より感謝しています。
最近では、ホームページやSNSをご覧いただいたという声をいただく機会も増え、
私たちの日々の取り組みに目を向けていただけていることを、とても嬉しく感じています。

今回は、少しだけ視点を変えて、
私たちの「日常の風景」をお届けしたいと思います。

普段、作品として完成したものを目にしていただくことは多いのですが、
その裏側にある時間や空気は、なかなか伝わる機会がありません。

そこで今回は、工房の朝の様子を、いくつかの場面として切り取ってみました。

まだ空気がやわらかく、光も強すぎない時間。
庭に出ると、静けさの中に小さな音が混ざり始めます。

箒で地面を掃く音。
風に揺れる葉のかすかな気配。

私たちは、まず庭を整えることから一日を始めます。

それは単なる掃除ではなく、
場を整えるという行為でもあります。

外の空間が整うと、不思議と内側の意識も整っていく。
そんな感覚があります。

その後、工房の中に入り、道具や作業場を整え、
それぞれの持ち場へと向かっていきます。

こうした一連の流れは、特別なものではなく、
長い時間の中で自然と積み重なってきた習慣でもあります。

そして、私たちの一日は、朝礼から始まります。

実は、私が代表になった当初、
この工房には朝礼という習慣はありませんでした。

それぞれが自分のタイミングで仕事に入り、
それぞれの段取りで一日を進めていく。

そういった形が、長く続いていた場所でもありました。

コロナ禍をきっかけに、
私は「一日のはじまりを共有する時間」を持ちたいと考え、
朝礼を始めることにしました。

しかし最初は、すぐに受け入れられたわけではありません。

「本当に必要なのか」
「作業の時間が減るのではないか」

そういった声もあり、
なかなか浸透しない時期もありました。

それでも続けていく中で、
少しずつ変化が現れてきました。

一日一度、みんなで顔を合わせ、
その日の流れを確認し、
それぞれの状態を感じ取る時間。

ほんの短い時間ではありますが、
その積み重ねが、場の空気を整えていきます。

また、朝礼では軽く体を動かす時間も設けています。

ものづくりは、どうしても同じ姿勢が続き、
身体への負担が大きくなりがちです。

だからこそ、日々の中で少しずつ身体を整えることも、
大切な仕事の一部だと考えています。

そして、私たちはその時間の中で、
工房の理念を共有しています。

「ものづくりを通して琉球の想いを守り、
心と財布を豊かにして、未来の沖縄を守る」

この言葉は、日々の作業の中で忘れがちな、
自分たちの立ち位置を思い出させてくれます。

忙しさの中で、目の前の作業だけに意識が向いてしまうこともありますが、
その先にある意味を、静かに確認する時間でもあります。

今回、朝の風景をあらためて見つめてみて感じたのは、
この時間には、言葉では説明しきれない美しさがあるということでした。

普段は当たり前に過ごしている時間も、
少し視点を変えて見ることで、
まったく違った表情を見せてくれます。

光の入り方、
人の動き、
静けさの中にある緊張感。

それらが重なり合い、
ひとつの空気をつくっています。

これからは、こうした何気ない時間も、
写真や映像として残していけたらと考えています。

完成された作品だけでなく、
そこに至るまでの時間や空気もまた、
私たちの大切な一部だからです。

もし機会があれば、
ぜひこの朝の空気を感じに来ていただけたら嬉しく思います。

特別なことが起きるわけではありません。

ただ、静かに一日が始まっていく。

その時間の中に、
私たちが大切にしているものが、
確かに流れているように思います。

城間栄市プロフィール 

紅型に、時間と祈りを宿す

私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。

布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。


生い立ちと紅型との距離

1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。

幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。

本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。


外の世界で学んだこと

2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。

異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。

この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。


受賞・出展についての考え方

これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。

こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。

一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。


制作について

制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。

代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。

新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。


今、そしてこれから

現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。

これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。

これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。


おわりに

公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。

Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。

どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。

この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

LINE公式 https://line.me/R/ti/p/@275zrjgg

Instagram https://www.instagram.co