島の光と暮らす【工房時間】
2026.06.28
















沖縄の光を集める
皆さん、こんにちは。
いつも城間びんがた工房、そして紅型を通して琉球文化に関心を寄せていただき、本当にありがとうございます。
最近、ホームページの写真を整理する時間がありました。
何年も前に撮影したものから、ここ数日の何気ない一枚まで、気がつけばずいぶんたくさんの写真が残っています。
工房の前の道。
朝の空。
夕方の西日。
庭先に咲いていた花。
何気なく撮った影。
作品ではありません。
観光地でもありません。
「あとで消そうかな」と思いながら残していた写真ばかりです。
それを一枚ずつ眺めているうちに、不思議なことに気づきました。
どの写真も、何を撮ったのかより、「どんな光だったのか」が先に目に入ってくるのです。
あの日は少し曇っていた。
この日は夕立のあとだった。
台風が近づいていた頃だから、空気が少し青かった。
そんなことまで思い出します。
写真というのは、景色よりも、その時の空気を残してくれるものなのかもしれません。
私は二十代から染めの仕事をしています。
図案を描き、型紙を彫り、色を重ねる。
そんな毎日を何十年も繰り返してきました。
でも、色について考える時、不思議と顔料や染料のことよりも、先に空を思い出します。
朝の光。
夏の強い日差し。
雨上がりに植物が急に鮮やかになる瞬間。
沖縄では、一日の中でも色が何度も変わります。
海もそうです。
同じ海なのに、午前中と夕方ではまるで別の海に見える日があります。
フクギの葉も、ハイビスカスも、月桃も、太陽の位置が少し変わるだけで違う色になります。
そういうことを、昔は特別なことだと思っていませんでした。
毎日見ている景色だからです。
だから誰かに説明することもありませんでした。
ただ、その中で暮らしていました。
今になって思うのです。
もしかしたら私は、色を勉強してきたのではなく、この島の光を見続けてきただけなのかもしれない、と。
職人という仕事は少し不思議です。
何かを覚えようとして覚えることもありますが、それ以上に、毎日見ているものが知らないうちに手へ移っていくことがあります。
だからでしょうか。
昔撮った写真を見返していると、「この色、今でも描いているな」と思うことがあります。
写真の中にある光が、そのまま作品のどこかに残っているのです。
今回ホームページに掲載した写真も、そんな気持ちで選びました。
きれいな写真を集めようと思ったわけではありません。
ただ、この工房のまわりにある光を並べてみたくなったのです。
朝の工房。
夕暮れの空。
雨上がりの葉っぱ。
夏の影。
何十年も前の写真も、その日の光だけはちゃんと残っていました。
考えてみると、光そのものには形がありません。
持ち帰ることもできません。
けれど植物は光で育ち、人はその景色を見て育ち、その土地の色を覚えていきます。
私たちが布に染めている色も、どこかでこの島の光につながっているのかもしれません。
そんなことを思いながら、最近は古い写真を眺めています。
もし今回の写真ギャラリーをご覧になることがありましたら、「何を写した写真なんだろう」と見るよりも、「どんな光だったのだろう」と眺めていただけたら嬉しく思います。
きっと、その一枚一枚の中に、その日の沖縄が静かに残っているはずです。
今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

城間栄市プロフィール
紅型に、時間と祈りを宿す
私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。
布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。

生い立ちと紅型との距離
1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。
幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。
本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。
外の世界で学んだこと
2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。
異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。
この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。
受賞・出展についての考え方
これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。
こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。
一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。
制作について
制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。
代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。
新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。
今、そしてこれから
現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。
これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。
これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。
おわりに
公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。
Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。
どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。
この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

LINE公式 https://line.me/R/ti/p/@275zrjgg
