工房の小さな風景【工房時間】

皆さん、おはようございます。

いつも城間びんがた工房、そして紅型を通して琉球文化に関心を寄せていただき、本当にありがとうございます。今回掲載している写真は、作品そのものではなく、普段私たちが仕事で使っている道具たちを中心に撮影していただきました。色の入ったコップ。長年使い込まれた筆。色を混ぜる皿。染料の跡が残る作業台。一見すると、何の変哲もない風景に見えるかもしれません。しかし私たちにとっては、その一つひとつが毎日の仕事を支える大切な存在です。普段、工房へ来られる方は完成した作品をご覧になります。そして「きれいですね」と言ってくださいます。もちろんそれはとても嬉しいことです。ただ、実際の仕事の時間の多くは、完成品を眺める時間ではありません。色を作る時間。筆を整える時間。型紙を確認する時間。道具を片付ける時間。そういった細かな積み重ねがほとんどです。私自身、若い頃は作品そのものに意識が向いていました。どうすれば良い図案になるのか。どうすれば面白い表現になるのか。そんなことばかり考えていました。けれど年齢を重ねるにつれ、少し考え方が変わってきました。良い仕事は、作品だけで作られるものではない。その前後にある時間によって支えられている。そんなふうに思うようになったのです。例えば筆一本でもそうです。新品の筆が必ずしも良いわけではありません。長く使うことで、自分の手の癖を覚え、少しずつ仕事の相棒のようになっていきます。型紙を彫る小刀も同じです。毎日研ぎながら使うことで、少しずつ自分の感覚と馴染んでいきます。だから職人たちは道具を大切にします。高価だからではありません。一緒に仕事をしてきた時間がそこにあるからです。今回の写真を見ていると、私はそんなことを思い出します。色が付着したコップの縁。絵皿に残る染料の跡。木の机に刻まれた小さな傷。それらは決して作品ではありません。しかし、その痕跡の中には、これまで積み重ねてきた仕事の時間が残っています。沖縄の伝統工芸というと、どこか特別な世界のように感じられることがあります。けれど実際は、とても日常的なものです。朝工房へ来て、掃除をして、道具を準備して、目の前の仕事に向き合う。特別なことをしている感覚はあまりありません。むしろ地味な作業の繰り返しです。ただ、その繰り返しの中に面白さがあります。昨日と同じように見えても、湿度が違う。気温が違う。布の状態が違う。色の入り方が違う。だから毎日少しずつ違う。その小さな違いと向き合うことが、ものづくりなのかもしれません。沖縄では昔から、自然と共に暮らしてきました。風を見て、雲を見て、海を見て暮らしてきました。私たちの仕事も少し似ています。色の様子を見ながら仕事をする。布の状態を見ながら仕事をする。道具の調子を見ながら仕事をする。何かを無理に支配するというよりも、相手の状態を見ながら付き合っていく。そんな感覚があります。今回の写真も、そうした日常の一場面です。作品ではありません。完成品でもありません。けれど、その向こう側には職人たちの時間があります。もし写真を見ながら、「こんな道具を使うんだな」「こんな仕事をしているんだな」と少しでも感じていただけたら嬉しく思います。私たちにとって皆さまの好奇心は、いつも大きな励みです。文化は作品だけで残るものではありません。興味を持ってくださる方がいて、見守ってくださる方がいて、初めて次の世代へつながっていきます。これからも日々の仕事を大切にしながら、一つひとつの手仕事と向き合っていきたいと思います。いつも本当にありがとうございます。

城間栄市プロフィール 

紅型に、時間と祈りを宿す

私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。

布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。


生い立ちと紅型との距離

1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。

幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。

本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。


外の世界で学んだこと

2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。

異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。

この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。


受賞・出展についての考え方

これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。

こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。

一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。


制作について

制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。

代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。

新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。


今、そしてこれから

現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。

これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。

これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。


おわりに

公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。

Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。

どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。

この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

LINE公式 https://line.me/R/ti/p/@275zrjgg

Instagram https://www.instagram.co