手仕事を通して、琉球の想いを守る【工房時間】

ものづくりを通して琉球の思いを守る

こんにちは。いつも城間びんがた工房のホームページをご覧いただき、本当にありがとうございます。今日は、工房の理念について、改めてお話ししてみたいと思います。

隈取りの様子

ちょうど今、沖縄では突然の通り雨が降りました。朝まで青空だった空が一気に暗くなり、バケツをひっくり返したような雨が降り注ぎます。そしてしばらくすると、何事もなかったかのように青空が戻ってくる。沖縄ではよく見る景色ですが、この自然の移り変わりを眺めていると、この島は本当に自然と共に生きている場所なんだなと感じます。

沖縄は小さな島々からできています。島は海によって隔てられていますが、実は海によってつながっています。潮が流れ、風が流れ、人が行き交い、文化が行き交う。島々の間には、目には見えない大きな循環があります。だからこそ沖縄には、古くからさまざまな文化が流れ着き、それを拒むのではなく、自分たちの暮らしに合わせながら受け入れ、新しい文化として育ててきた歴史があります。私は、その柔らかさこそが琉球らしさなのではないかと思っています。

私が工房を継いで十三年になります。その頃から工房の理念を考え始め、コロナ禍からずっと掲げてきた理念があります。

「ものづくりを通して琉球の思いを守る」

この言葉は、作品を守るという意味だけではありません。琉球の思いとは、島の暮らしそのものです。湿った空気。海から吹く風。強い日差し。突然の雨。植物の色。海の色。人と人との距離感。そうした日々の積み重ねが、紅型の色や文様になり、作品へと姿を変えてきました。私たちが守りたいのは、形だけではなく、その背景にある時間や暮らしです。

工房で仕事をしていると、「沖縄らしいですね」と言っていただくことがあります。私はその言葉がとても嬉しいのです。なぜなら、それは色だけを見ているのではなく、作品の奥にある空気まで感じてくださっているからです。沖縄の湿度。光。風。静かな時間。そうしたものまで伝わったとき、ものづくりはようやく文化になるのだと思います。

藍に入れている様子  着物など長いものは(役13メートル)2人で入れることが多いです
藍に入れて 乾かしている様子
琉球紅型訪問着「藍空」  部分

そして現在、私たちの理念はもう一歩先へ進みました。

「ものづくりを通して琉球の思いを守り、心と財布を豊かにして未来の沖縄を守ります。」

この言葉には、三つの時間が込められています。過去。現在。未来。

まず「琉球の思いを守る」。これは、これまで受け継がれてきた文化への敬意です。違いを受け入れながら育ってきた琉球の文化を学び、その思いをものづくりの中で考え続けること。それが私たちの原点です。

次に、「心と財布を豊かにする」。この言葉は、私自身、とても勇気がいる言葉でした。伝統工芸は、美しいだけでは続きません。職人も生活をし、家族を守り、次の世代へ技術を伝えていかなければなりません。だからこそ、価値を生み出し、その価値に対して正当な対価をいただくことも、文化を守るための大切な責任だと思っています。

正直に言えば、私は今でも自問自答します。「自分たちの仕事は、本当に社会の役に立っているのだろうか。」「誰かの豊かさにつながっているのだろうか。」そんな問いを何度も繰り返します。それでも、お客様からいただく一つひとつの言葉や、工房へ足を運んでくださる皆さんの笑顔に触れるたびに、この仕事には確かに人の心を豊かにする力があると信じられるようになりました。だから私たちは、「心」だけでなく、「財布」も豊かにする責任があると考えています。文化を未来へ残すためには、働く人が安心して暮らせることも欠かせないからです。

そして最後が、「未来の沖縄を守る」。私たちの父や祖父、そのまた前の職人たちは、それぞれの時代に合わせて図案を考え、色を工夫し、人々の暮らしに寄り添いながら紅型をつないできました。もし、「昔のままでいい」と考えていたら、紅型はここまで受け継がれてこなかったかもしれません。未来を見つめながら、その時代の人に届く形へと育て続けてきたからこそ、今の私たちがあります。

だから私たちもまた、未来の子どもたちへ手渡せる紅型を考えたいのです。「沖縄って素敵だな。」「この文化を残したい。」そんな気持ちが、子どもたちの中に自然と芽生えてくれたら、これ以上嬉しいことはありません。

理念とは、飾るための言葉ではありません。毎日の仕事の中で確かめ続けるものです。今日染める一枚。今日交わす一つの会話。今日迎える一人のお客様。その積み重ねが、理念を少しずつ形にしていくのだと思います。

工房では今日も、静かに仕事が続いています。筆を持つ人。布を張る人。染料をつくる人。作品を届ける人。誰か一人ではなく、多くの人の手によって、一枚の紅型が生まれています。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。皆さんがこのホームページを訪れ、作品を見てくださること。工房の日常に興味を持ってくださること。その一つひとつが、私たちにとって大きな励みになっています。皆さんの好奇心があるからこそ、私たちはこの工芸で生きていく挑戦を続けることができます。その光に、何度も背中を押されてきました。

これからも、工房の日々や沖縄の暮らし、そしてものづくりの背景にある思いを、少しずつ皆さんと共有していけたら嬉しく思います。いつも本当にありがとうございます。

Photographs by Keita Teruya
帯を色差ししています

城間栄市プロフィール 

紅型に、時間と祈りを宿す

私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。

布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。


生い立ちと紅型との距離

1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。

幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。

本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。

平成24年(2012年)
第47回 西部伝統工芸展 福岡市長賞

平成25年(2013年)
沖展 正会員推挙

平成26年(2014年)
第49回 西部伝統工芸展 奨励賞
城間びんがた工房 十六代継承

平成27年(2015年)
第62回 日本伝統工芸展 新人賞受賞
日本工芸会 正会員推挙

令和3年(2021年)
第56回 西部伝統工芸展 沖縄タイムス社賞

令和4年(2022年)
MOA美術館 岡田茂吉賞 大賞

令和5年(2023年)
第58回 西部伝統工芸展 西部支部長賞
「ポケモン×工芸展」出展
文化庁「日中韓芸術祭」出展

令和6年(2024年)
文化庁「技を極める」展 出展

令和7年(2025年)
「ポケモン×工芸展」全国巡回展(滋賀・静岡・東京・愛知・青森・長崎)

令和8年(2026年)
国際交流基金に作品が買い上げられる。
同作品は国際文化交流事業の一環として、

世界22か国のジャパンハウスを巡回予定。琉球紅型訪問着「雲を読む」

城間栄市作品



外の世界で学んだこと

2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。

異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。

この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。


受賞・出展についての考え方

これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。

こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。

一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。


制作について

制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。

代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。

新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。


今、そしてこれから

現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。

これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。

これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。


おわりに

公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。

Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。

どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。

この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

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