受け継がれるかたち【工房時間】

時間を染めるという仕事

皆さん、こんにちは。

いつも城間びんがた工房、そして紅型を通して琉球文化に関心を寄せていただき、本当にありがとうございます。

先日、NHK沖縄放送局の取材を受け、私たちの工房やものづくりの様子をご紹介いただきました。

つなぐ思い 沖縄戦と紅型 – NHKニュース

このような機会をいただけたことは本当にありがたく思っています。

しかし私自身は、「紹介された」という出来事以上に、その時間を通して改めて考えたことがありました。

それは、「私たちは何を未来へ渡そうとしているのだろう」ということです。

紅型は、およそ三百年という時間を受け継ぎながら今日まで続いてきました。

三百年という言葉は簡単ですが、その時間の中には、数え切れないほどの人たちの暮らしがあります。

時代が変わり、社会が変わり、価値観が変わる中でも、それぞれの時代の作り手たちは、自分たちにできる仕事を丁寧に積み重ねてきました。

栄喜14代の作品 石垣に棒を刺して 染色した糸を干している様子を図案化した作品 故平良敏子先生の芭蕉布の生地に染めた

その一枚一枚が、今日の私たちにつながっています。

工芸は、とても静かな仕事です。

大きな音を立てることもありません。

急激に世の中を変える力があるわけでもありません。

けれど、一枚の布に向き合い、一色ずつ染め、一日一日を積み重ねていくことでしか生まれない時間があります。

私は、その時間こそが工芸の価値なのではないかと思っています。

沖縄は、小さな島々からなる地域です。

かつて琉球王国だった頃、この島は日本や中国、そして東南アジアと海を通じて交流を続けてきました。

大きな国に囲まれながらも、この島ならではの価値を育て、必要とされる文化を生み出してきたからこそ、この土地は独自の文化を育むことができたのだと思います。

だからこそ私は、「何を守るか」よりも、「何を育て続けるか」を考えたいのです。

変わらないことだけが伝統ではありません。

時代に迎合することだけが進化でもありません。

その時代に生きる人たちと向き合いながら、それでも変えてはいけないものを静かに持ち続けること。

その繰り返しが、伝統工芸という営みなのではないでしょうか。

工房を預かる立場になってから、私はよく「あと何年、この仕事を続けられるだろう」と考えるようになりました。

決して悲観的な意味ではありません。

むしろ、どうすればこの工房の寿命を少しでも長くできるだろうか、と毎日のように考えています。

職人が安心して仕事を続けられること。

若い世代が技術を学びたいと思えること。

作品を通して誰かが沖縄を好きになってくれること。

その一つひとつが、未来へつながる小さな種になるのだと思っています。

私は答えを持っている人間ではありません。

むしろ、作品をつくるたびに新しい問いが増えていきます。

この色で良かったのか。

この文様は何を伝えるのか。

この仕事は百年後にも意味を持つのだろうか。

そんな問いを抱えながら、今日も型紙を彫り、図案を描いています。

だから、このホームページでも何か一つの結論をお伝えしたいわけではありません。

私は、沖縄という土地で育まれてきた時間や仕事、そして人々の営みを、静かに記録していきたいと思っています。

その文章を読んだ方が、それぞれの立場で何かを感じていただけたなら、それ以上に嬉しいことはありません。

今回の記事の最後に、これまで書いてきたコラムをいくつか掲載します。

祖父のこと父のこと。

「祖父の教えと父の設計図――清潔が守る三百年の色」【家族記憶】

色に込められた祈り~紅型がつなぐ過去と未来~【家族記憶】

謝罪から始まった本当の継承の瞬間【家族記憶】

祖父の未来日記(栄喜14代)【家族記憶】

火柱の海を越えて──びんがたに込めた祈り【家族記憶】

「売る」前に、描いていたもの【家族記憶】

職人たちの手。

「型紙と糊が織りなす紅型の物語」【工程紹介】

昨日を越えるための手【工房時間】

職人募集、終了しました。― 派手ではない仕事に、確かな誇りがある【工房時間】

工房の道具。

「サクッと気持ちいい刃の通り──職人が愛する島豆腐の力」【工程紹介】

「家族で受け継ぐ職人技──手作りの筆が生む紅型の世界」【道具解説】

「すり鉢 VS ミキサー!職人があえて昔ながらの方法を選ぶ理由」【道具解説】

藍染めの季節。

「染めの季節がやってくる – うりずんと藍の香り」【工房時間】

伝統工芸のリアル ~泥水の甕と私の学び~【家族記憶】

一つひとつは小さな出来事ですが、私にとってはすべて「時間を受け渡す」という同じ一本の線でつながっています。

私たちが普段親しんでいる泡盛は、長い時間をかけることで香りや味わいが深まります。

急いでつくることのできない豊かさがあります。

文化もまた、少し似ているのかもしれません。

人から人へ。

島から島へ。

時代から時代へ。

ゆっくりと時間を重ねながら、その土地ならではの味わいを育てていく。

私は、紅型もそういう存在であってほしいと思っています。

これからも、この小さな島で、一枚ずつ、一歩ずつ。

派手ではなくても、確かな仕事を積み重ねながら、沖縄という土地が育んできた時間を未来へ渡していきたいと思います。

いつもこの場所を訪れ、読んでくださる皆さま、本当にありがとうございます。

皆さまの好奇心が、この工房に新しい風を運び、私たちが次の一枚へ向かう力になっています。

また次の物語でお会いしましょう。

野牡丹
仏桑花

城間栄市プロフィール 

紅型に、時間と祈りを宿す

私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。

布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。


生い立ちと紅型との距離

1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。

幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。

本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。


外の世界で学んだこと

2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。

異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。

この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。


受賞・出展についての考え方

これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。

こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。

一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。


制作について

制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。

代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。

新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。


今、そしてこれから

現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。

これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。

これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。


おわりに

公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。

Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。

どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。

この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

LINE公式 https://line.me/R/ti/p/@275zrjgg

Instagram https://www.instagram.co