音楽が記憶になる場所【工房時間】

歌が残してくれた時間

皆さん、こんにちは。

いつも城間びんがた工房、そして紅型を通して琉球文化に関心を寄せていただき、本当にありがとうございます。

6月という季節になると、私は自然と立ち止まる時間が増えるような気がします。

沖縄では慰霊の日を迎える月でもあり、自分自身のこと、家族のこと、そして先人たちが大切にしてきたものに思いを寄せる機会が多くなります。

今年も梅雨らしい日が続いています。

濃い霧の影響で飛行機が着陸できないという話も耳にしますし、例年より早く台風の話題も聞こえてきます。

自然の大きな流れの中で暮らしていることを改めて感じる季節です。

そんな6月の中で、私にとって印象深い出来事がありました。

祖父・城間栄喜が暮らしていた家を活用したギャラリーで、シンガーソングライターのタテタカコさんのライブを開催したことです。

ギャラリーでのイベントは毎回そうなのですが、始まる前はいつも少し緊張します。

本当にここでやって良いのだろうか。

来てくださった方々に何かを持ち帰ってもらえるのだろうか。

そんなことを考えながら準備を進めています。

特に私たちはイベント会社でもありませんし、慣れた運営ができるわけでもありません。

一つひとつが手探りです。

だからこそ終わった後には、毎回新しい学びがあります。

今回のライブもそうでした。

振り返ってみると、不思議なほど自然な時間だったように思います。

まるで最初からその場所で行われることが決まっていたかのように。

タテタカコさんの歌声が古い家の空間に響き、その声が壁や柱に静かに染み込んでいくような感覚がありました。

そして40名を超える方々がその時間を共有してくれました。

歌を聴く人。

目を閉じる人。

静かに涙を流す人。

それぞれがそれぞれの形で、その時間を受け取っていたように感じます。

もちろん感じ方は人それぞれです。

同じ歌を聴いても、心に浮かぶ景色は違うと思います。

けれど、それで良いのだと思います。

むしろ、それぞれの人生があるからこそ、一つの歌がたくさんの意味を持つのかもしれません。

今回のライブは、私のパートナーである城間あずきが、「杜栄」の活動の一環として取り組んできた企画でもありました。

紅型の価値を知ってもらうこと。

人と人が出会う場所をつくること。

文化を通してコミュニケーションが生まれる場所を育てること。

そんな思いから少しずつ積み重ねてきた取り組みです。

決して大きなイベントではありません。

けれど、一つひとつの経験が確実に積み重なっていることを感じています。

そして私は今回のライブが、この6月という時期に行われたことにも意味を感じていました。

6月9日は祖父の命日。

6月23日は慰霊の日。

偶然と言えば偶然なのかもしれません。

けれど私自身は、この季節だからこそ響いたものがあったように思います。

先人たちが残してくれたもの。

今ここに生きる私たちが受け取っているもの。

そして次へ手渡していくもの。

そんなことを静かに考える時間になりました。

少し話は変わりますが、私は工房を運営する中で、いつも考えていることがあります。

それは、一人ひとりが自分の個性を発揮できる場所であってほしいということです。

現在、工房には20名近い仲間がいます。

それぞれ得意なことも違えば、考え方も違います。

だからこそ面白いのだと思っています。

誰かと同じである必要はありません。

むしろ違うからこそ、新しい価値が生まれることがあります。

そしてそれは、職人だけではなく私自身にも向けている言葉です。

自分の個性をどう生かすのか。

自分にできることは何なのか。

それを考え続けることもまた、私の仕事なのだと思っています。

ライブを見ながら、そんなことを改めて考えていました。

自分を信じること。

自分の役割を受け入れること。

それは時に勇気のいることです。

けれど沖縄という土地は、昔から様々な文化や価値観が交わりながら育ってきました。

違いを受け入れながら共に生きてきた歴史があります。

だからこそ私は願っています。

この場所が、それぞれの人の個性が生かされる場所であってほしい。

そして文化が人と人をつなぐ場所であり続けてほしい。

タテタカコさんの歌声が残してくれたものは、音だけではありませんでした。

それは、人が集い、思いを重ね、それぞれの人生を見つめ直す時間だったように思います。

そんな時間を共有できたことに、心から感謝しています。

城間栄市プロフィール 

紅型に、時間と祈りを宿す

私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。

布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。


生い立ちと紅型との距離

1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。

幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。

本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。


外の世界で学んだこと

2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。

異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。

この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。


受賞・出展についての考え方

これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。

こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。

一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。


制作について

制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。

代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。

新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。


今、そしてこれから

現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。

これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。

これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。


おわりに

公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。

Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。

どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。

この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

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