紅型を知ってもらうために:父が生み出した一枚のハンカチ

びんがたの新しいかたち──ハンカチから広がる琉球伝統工芸の魅力

いつも紅型(びんがた)への深いご関心を寄せていただき、誠にありがとうございます。皆様からいただくご声援や興味のまなざしが、私たちの活動の原動力となっていることを、改めて実感しております。かつて琉球王国と呼ばれた時代から300年以上受け継がれてきたびんがたの技法を今に伝えるため、私たちは日々、手仕事による作品づくりに励んでいます。


びんがたの背景と工房の取り組み

琉球王国から続く染色の歴史

琉球王国時代に育まれたびんがたは、中国や東南アジアなどとの交易による技術的な影響を受けながらも、沖縄独特の感性と気候風土の中で発展してきました。絹地を中心に、華やかな色彩と繊細な文様が特徴で、王族や士族の服飾品として広く愛されていたのです。
しかし、時代の変化や戦争の影響などで、一時はその存続さえ危ぶまれる時期もありました。私たち城間びんがた工房が**“過去から学び、未来へつなぐ”**という姿勢を大切にしているのは、まさにこの厳しい歴史を経てなお輝きを失わないびんがたの精神を、次世代へ継承するためでもあります。

手仕事へのこだわり

当工房が手がけるのは主に、着物や帯といった伝統的な衣装。ごく少量ですがタペストリーなどのインテリアアイテムも製作しています。使用する材料は、当時に近い形を再現できるように可能な限り昔ながらのものを厳選し、染料や糊、型紙など、そのすべてに職人の目と手が行き届くよう工程を管理しています。
一枚の生地を染め上げるには、何度も色を重ね、乾燥させ、また色を重ねるという地道な作業が必要です。さらに文様ごとに色を変えるため、複数の型紙を使い分けることも珍しくありません。こうしたプロセスを一つ一つ手作業で行うからこそ、仕上がった作品には**独特の“気配”や“温もり”**が宿るのです。

かつての認知度と現在の状況

今でこそ、びんがたという言葉を耳にする機会が増えてきましたが、40年ほど前は県内でも知名度が低く、県外ではほとんど認知されていない状況でした。


ハンカチ開発の背景と意義

父・城間栄順(十五代)の想い

そんな中、私たち城間びんがた工房が「びんがたをより多くの人に知ってもらいたい」との思いから取り組んだ商品開発の一つが、今回ご紹介するハンカチです。先代の工房主である父・城間栄順(十五代)が、40年ほど前、**「びんがたを知ってもらう機会を作りたい」**という思いのもと考案しました。
当時は、びんがた=高価な着物や帯のイメージが強く、日常的に使われる機会はほとんどありませんでした。そこで、より身近なアイテムであるハンカチにびんがたの表現を取り入れることで、幅広い層の方に使っていただける形を探ろうとしたのです。

バリエーションの拡大

現在では、30種類以上の柄や色違いを展開するまでに至り、贈り物や日常使いのアイテムとして多くの方に親しまれています。鮮やかな色彩や独特の文様が、日常のささやかなシーンに彩りを添えるだけでなく、びんがたの世界観を手軽に体感できるのが魅力です。
例えば、古典がらを中心に、柄には多種多様なバリエーションがあります。色合いも、原色を中心とした力強いものから、柔らかいパステルトーンまで幅広く用意されており、世代やシチュエーションを問わず選べるのも人気の秘密と言えるでしょう。


デザインはすべて職人の手から

型紙を手彫りするプロセス

ハンカチのデザインは、単純に既存の柄をコピーしているわけではありません。まず、職人が一枚一枚型紙を手彫りし、緻密な文様を作り上げます。細かいラインや曲線を再現するために、高度な彫刻技術と集中力が欠かせません。

  • 型紙彫りの道具: 刃物は日本刀鍛冶の技術を応用した鋭利なものが多く、下敷きにも豆腐を乾燥させたルクジューなど、伝統的でありながら実用的な道具を用いています。
  • 図案の発案: 先代から受け継いだ古典柄をベースに、新たなモチーフを加えたり、配色を現代の感覚に合わせたりすることで、**“古くて新しい”**びんがたを生み出しています。

シルクスクリーン技術の応用

手彫りした型紙をシルクスクリーンに応用して染めることで、量産性を高めつつ、びんがた特有の奥行きのある色合いを表現しています。

  • 手染めの繊細さ: 鮮やかな色を何度も重ねることで、深みのある発色に仕上げています。
  • 日用品としての機能: ハンカチは洗濯を繰り返すことが前提。

伝統から新たな価値へ──びんがたハンカチの可能性

日常へ溶け込む“工芸品”

びんがたのハンカチは、華やかさや繊細さと同時に、使うごとに親しみが増す日常のアイテムでもあります。日常生活の中に溶け込むことで、琉球文化や職人技を身近に感じられるのが最大の魅力です。

若い世代へのアプローチ

着物や帯といった伝統衣装はハードルが高いと感じる若年層も、ハンカチであれば取り入れやすく、価格帯も比較的手頃なため、気軽にびんがたの世界に触れていただけます。そうした経験を通じて、さらに深いびんがたの作品や、歴史的背景に興味を持つ方が増えていくと嬉しいです。

作り手と使い手のコミュニケーション

ハンカチは贈り物としても好評で、実際に購入された方の多くは、沖縄旅行のお土産や大切な方へのプレゼントとして利用されています。職人が心を込めて作り出した柄を、誰かの暮らしを彩る一品にしていただけるのは、作り手にとっても大きなやりがいです。使い手との“コミュニケーションの場”が広がるのも、ハンカチならではの楽しみかもしれません。


皆様の応援と私たちの未来

文化を大切にする皆様へ

私たちの活動を支えてくださっているのは、**「びんがたをもっと知りたい」「琉球文化を大切にしたい」**という皆様の温かな気持ちです。文化意識の高い方々が、琉球の歴史や伝統工芸に興味を持ち、さらに深く知りたいと願う声が、職人たちのモチベーションを高めています。今後、私たちが新商品や新たなデザインを生み出す原動力となるのも、そうした皆様の思いがあってこそです。

伝統工芸が未来へつなぐもの

びんがたは、技術と感性の結晶であると同時に、何世代にもわたって受け継がれてきた歴史の証でもあります。

  • コロナ禍を乗り越えて: 社会が大きく変化する中でも、琉球文化の根幹となるびんがたの美しさや精神性は変わることなく、多くの方に感動を与え続けると信じています。
  • 職人育成と未来への橋渡し: 若い世代の職人が育ち、新たな感性やアイデアを取り込むことで、びんがたはさらに豊かな可能性を見出すでしょう。

まとめ──びんがたの世界をより身近に

ここまでお読みくださり、誠にありがとうございます。
ハンカチという日常生活に密着したアイテムを通して、びんがたの奥深い世界観や琉球文化に触れていただければ幸いです。先代の想いを引き継いだ私たち城間びんがた工房は、これからも伝統と新しい発想を結び合わせながら、琉球の豊かな歴史と心を幅広い方々に届けたいと考えています。

どうぞ今後とも、城間びんがた工房の活動にご注目いただき、びんがたの魅力を存分に楽しんでいただければ嬉しく思います。皆様の応援と関心が、私たち職人にとって何よりの励みです。

紅型に、時間と祈りを宿す

私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。

布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。


城間栄市プロフィール 生い立ちと紅型との距離

1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。

幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。

本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。


外の世界で学んだこと

2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。

異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。

この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。


受賞・出展についての考え方

これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。

こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。

一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。


制作について

制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。

代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。

新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。


今、そしてこれから

現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。

これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。

これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。


おわりに

公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。

Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。

どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。

この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

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