祈りと挑戦の染め日記
2025.05.06
おはようございます。いつも紅型に関心を寄せてくださり、本当にありがとうございます。紅型を通じて琉球文化が広がっていくことに、私たちは深い感謝を抱いています。皆さんの関心と好奇心は、私たちの挑戦を支える大きな原動力です。





城間びんがた工房では、三百年前とほとんど変わらないリズムで、今日もものづくりに向き合っています。激しく価値観が揺れ動く時代の中で、「この仕事はいつまで続けられるのだろう」と不安が頭をよぎることもありますが、私たちは目の前の作業に心を集中させ、祖先が積み重ねてきた仕事を一つ一つ丁寧にこなしています。そこに、少しでも工夫や発見を重ねられたらと願いながら――まるで祈るような気持ちで、毎日手を動かしています。

私たちが掲げる理念は「ものづくりを通して琉球の思いを守る」です。これは「すでに守れている」という宣言ではなく、「この方向へ進もう」という掛け声のようなもの。霧の中でかすかに光る道標を確かめながら歩いている――そんな感覚に近いかもしれません。
祖父の時代、工芸を残すことは言葉にしなくても当然の使命だったのでしょう。戦争で多くを失った沖縄、とりわけ首里の焼け野原を目にした祖父は、「琉球の文化を絶やしてはならない」という情熱を腹の底にたぎらせ、どんな苦難にも屈しませんでした。その背中を見ていた父は、紅型を着物の世界へ押し上げようと挑戦を重ねました。そうして受け継がれてきた思いに、私は十二年前、言葉という形を与えようと決めたのです。

急速に価値観が変わる時代に、何を守り、何を変えるべきか――答えを探すために父母への聞き取りを重ね、年二回の職人面談で現場の声を拾い集めました。さらに自分自身のインドネシアでの経験や、琉球が日本・中国・東南アジアから受けた影響を重ね合わせ、「城間びんがた工房を文化の拠点に」という言葉を掲げました。しかし六年後、コロナ禍に直面し、工房は深刻な状況へ。祖父が瓦礫の首里で紅型のポストカードを紅型の技術で作り、米兵に売った逸話や、父が着物の世界に挑み続けた姿が支えとなり、理念をより明確に整え直しました。
ものづくりを通して琉球の思いを守り、
仕事を通して心と財布を豊かにして、
未来の沖縄を守ります。
私たちは紅型という手仕事を通じて琉球の思いを守りながら、今を生きる自分たちの生活も豊かにしなければ未来は守れない――そう信じています。そして今、日本の着物文化の中に紅型が確かな居場所を築くことを目指しています。海の香りや南国の光を思わせる自由闊達な色彩、手作業でしか生み出せない風合い――それらをはっきりと示すことで、祖父の時代の「失われられまいとする熱」と、現代の私たちの「つなぎたい願い」とが重なり合い、日本文化の一角に紅型が輝く未来へ続いていくと信じています。





公式ホームページでは、紅型の歴史や伝統、私自身の制作にかける思いなどを、やや丁寧に、文化的な視点も交えながら発信しています。一方でInstagramでは、職人の日常や工房のちょっとした風景、沖縄の光や緑の中に息づく“暮らしに根ざした紅型”の表情を気軽に紹介しています。たとえば、朝の染料作りの様子や、工房の裏庭で揺れる福木の葉っぱ、時には染めたての布を空にかざした一瞬の写真など、ものづくりの空気感を身近に感じていただける内容を心がけています。
紅型は決して遠い伝統ではなく、今を生きる私たちの日々とともにあるものです。これからも新しい挑戦と日々の積み重ねを大切にしながら、沖縄の染め物文化の魅力を発信し続けていきたいと思います。ぜひInstagramものぞいていただき、工房の日常や沖縄の彩りを一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。

城間栄市 プロフィール昭和52年(1977年)、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育つ。
学歴・海外研修
- 平成15年(2003年)より2年間、インドネシア・ジョグジャカルタ特別州に滞在し、バティック(ろうけつ染)を学ぶ。
- 帰国後は城間びんがた工房にて、琉球びんがたの制作・指導に専念。
受賞・展覧会歴
- 平成24年:西部工芸展 福岡市長賞 受賞
- 平成25年:沖展 正会員に推挙
- 平成26年:西部工芸展 奨励賞 受賞
- 平成27年:日本工芸会 新人賞を受賞し、正会員に推挙
- 令和3年:西部工芸展 沖縄タイムス社賞 受賞
- 令和4年:MOA美術館 岡田茂吉賞 大賞 受賞
- 令和5年:西部工芸展 西部支部長賞 受賞
主な出展
- 「ポケモン工芸展」に出展
- 文化庁主催「日中韓芸術祭」に出展
- 令和6年:文化庁「技を極める」展に出展
現在の役職・活動
- 城間びんがた工房 十六代 代表
- 日本工芸会 正会員
- 沖展(沖縄タイムス社主催公募展)染色部門 審査員
- 沖縄県立芸術大学 非常勤講師
プロフィール概要
はじめまして。城間びんがた工房16代目の城間栄市です。私は1977年、十五代・城間栄順の長男として沖縄に生まれ、幼いころから紅型の仕事に親しみながら育ちました。工房に入った後は父のもとで修行を重ねつつ、沖縄県芸術祭「沖展」に初入選したことをきっかけに本格的に紅型作家として歩み始めました。
これまでの道のりの中で、沖展賞や日本工芸会の新人賞、西部伝統工芸展での沖縄タイムス社賞・西部支部長賞、そしてMOA美術館の岡田茂吉賞大賞など、さまざまな賞をいただくことができました。また、沖展の正会員や日本工芸会の正会員として活動しながら、審査員として後進の作品にも向き合う立場も経験しています。
私自身の制作で特に印象に残っているのは、「波の歌」という紅型着物の作品です。これは沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、藍型を基調とした布に躍動感をもって表現したものです。伝統の技法を守りつつ、そこに自分なりの視点や工夫を重ねることで、新しい紅型の可能性を切り拓きたいという思いが込められています。こうした活動を通して、紅型が沖縄の誇る伝統工芸であるだけでなく、日本、そして世界に発信できるアートであると感じています。
20代の頃にはアジア各地を巡り、2003年から2年間はインドネシア・ジョグジャカルタでバティック(ろうけつ染)を学びました。現地での生活や工芸の現場を通して、異文化の技術や感性にふれ、自分自身の紅型への向き合い方にも大きな影響を受けました。伝統を守るだけでなく、常に新しい刺激や発見を大切にしています。
最近では、「ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―」など、世界を巡回する企画展にも参加する機会が増えてきました。紅型の技法でポケモンを表現するというチャレンジは、私自身にとっても大きな刺激となりましたし、沖縄の紅型が海外のお客様にも響く可能性を感じています。
メディアにも多く取り上げていただくようになりました。テレビや新聞、ウェブメディアで工房の日常や制作現場が紹介されるたびに、「300年前と変わらない手仕事」に込めた想いを、多くの方に伝えたいと強く思います。