工房時間──琉球紅型に息づく想い

紅型を通して琉球の文化が伝わっていることに、私は心から感謝しています。工房のこと、紅型のこと、沖縄のことを知ってくださる皆様の好奇心や応援の声は、私たちの挑戦を支える大きな原動力になっています。「知ってもらえる」こと自体が、どれほどありがたいことか──小さな南の離島の、さらにその一角の工房の活動に目を向けてもらえること、それがまずとても嬉しいことなのです。

そして、僕自身もまた、いろんなものに触れたり、日々の生活やさまざまな情報を見るたびに、「テーマを決めて…」というよりは、自然と新しい図案のことを考えています。「次はどんな模様を生み出そうか」と頭の片隅で考え続ける日々です。夕暮れの蝉の鳴き声がヒントをくれることもあれば、何気なく見た風景が図案の出発点になることもあります。そうして生まれた小さな“ひらめき”を、頭の中に大切にストックし、拾い集めてきました。

工房の時間は静かで、ゆっくりと流れているようでいて、実は毎日が小さな発見や変化の連続です。2025年7月31日、今もこうして仕事を続けていられること──この“現在”の積み重ねこそが、つながりを感じる瞬間でもあります。

水洗いしたての 帯 着物
型置きをした後 干している様子

私たちの工房の歴史は300年以上にも及びますが、実は紅型の作り方そのものは、ほとんど変わっていません。時々、県外から来た方や初めて紅型を知る方には、「まだこんなやり方でやっているのですか?」と驚かれることもあります。けれど、その“変わらなさ”の中に、時代を超えて受け継がれてきた沖縄の知恵や、職人たちのたくましさが詰まっていると私は感じています。

現代はあらゆる情報や技術がものすごいスピードで進化しています。何もかもが合理化され、効率化され、世の中の“最先端”が次々と書き換えられていく中で、「手で生み出せる価値とは何か」を私自身、日々問い続けています。最新のテクノロジーでは決して再現できない“ゆらぎ”や“温度”、そしてそこに込められた作り手の気持ち。沖縄が大切にしてきた表現の豊かさや、この島らしい誇り──それらを次の世代にどう伝えていけるかが、私の役割だと思っています。

私は工房の主であり、作家であり、職人でもあります。日々の仕事の中で、どうすればこの仕事が長く続いていけるのか、どんな工夫や挑戦が今の時代に必要なのかを考えています。先輩たちが苦労して残してくれたもの、戦争や時代の荒波にあってもあきらめなかった人々の思い。今、私たちがこの工房で静かに手を動かし、昨日よりも少し良いものを作ろうとすることが、未来の誰かの励みになるかもしれない──そんなふうに考えると、不思議と前向きな気持ちになります。

日々の仕事はとても地味です。朝から黙々と型を彫ったり、慎重に色を重ねたり、時には道具や材料と向き合って試行錯誤を繰り返します。今年はは沖縄でも台風が多く、湿度が高い日が続きます。染料の乾きが読めず、作業が思うように進まないことも増えました。そんなときも、「どうすればもっと良くなるだろう?」と、職人同士で小さなアイデアを出し合い、工夫を重ねています。そして、それでも問題が起こった場合には「なんでだろうね」と笑い合いながら、また次の試みへと気持ちを切り替えていきます。

紅型の型紙には、それぞれ作り手の人生や思いが刻まれています。有名な職人の型もあれば、名前を残さず静かに仕事を終えた人の型もあります。私は子供のころから、工房の隅で古い型紙に触れながら、「この型を彫ったのはどんな人だったのかな」「どんな時代のどんな思いで作られたのだろう」と想像するのが好きでした。今も新しい作品を作るときは、そうした“無名の先人たち”と静かに対話しているような気持ちでいます。

ものづくりの面白さは、予定通りにいかないことにもあります。手で作るからこそ生まれる偶然の美しさや、失敗から生まれる新しい発見。自分ひとりではなく、工房のみんな、時にはお客様の声や家族の言葉もヒントになります。最近は、若い職人や女性職人も増え、多様な視点が工房に新しい風を運んでくれています。私たちの仕事は決して「古いことを守る」だけではなく、「新しい挑戦」も受け入れていくことだと実感しています。

日常の中で「これでいいのかな?」と悩むことも多いですが、それでも工房で手を動かし続けていれば、自然と心が整っていきます。毎日、昨日よりほんの少しでも良くなればいい、誰かの役に立つものを作りたい──そんな思いを胸に、期待しすぎず、コツコツ静かに積み重ねています。

今日も工房には、職人たちのまなざしと手のぬくもり、そして誰かのために心を込めて布を染める静かな熱気が満ちています。日常の一瞬一瞬が、未来につながるかけがえのない時間。そんな「工房時間」の中から、これからも「伝える」こと、「つなげる」ことの意味を見つめていきたいと思っています。

紅型の一枚一枚が、皆さまの暮らしや心に小さな彩りや温かさを運んでくれますように。この南の島の工房から、ささやかながら、感謝の気持ちとともに。

紅型に、時間と祈りを宿す

私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。

布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。


城間栄市プロフィール 生い立ちと紅型との距離

1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。

幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。

本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。


外の世界で学んだこと

2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。

異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。

この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。


受賞・出展についての考え方

これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。

こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。

一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。


制作について

制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。

代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。

新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。


今、そしてこれから

現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。

これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。

これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。


おわりに

公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。

Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。

どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。

この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

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