「ガジュマルもセミも見守る300年──島と工房の“マイペース手仕事”日誌」
2025.06.18
工房時間 ― 沖縄の「今」と、琉球びんがたのこれから
みなさん、おはようございます。
いつも琉球びんがたを通して、琉球文化の営みやその心に触れてくださり、心から感謝しています。
こうして日々、私たちの工房の発信や作品に目を留めていただけること、その一つひとつが職人たちの挑戦を支える大きな原動力です。
現代というスピード社会のなかで、300年ほとんど変わらない手仕事を守り続ける――それ自体が、実は大きな奇跡の連続なのかもしれません。
そして、その奇跡の一端に立ち会えていることに、今日も深く感謝しながら朝を迎えています。
沖縄6月の特別な時間
沖縄の6月。この島に生きる私たちにとって、とても重みのある月です。
なぜなら、6月23日は「慰霊の日」。沖縄戦が終結したとされるこの日は、命と文化の尊さをあらためて感じ、手仕事を続ける意義を見つめ直す特別な時間となります。




私たち城間家も、沖縄戦によって祖先伝来の多くの道具や資料、そして住まいや工房のすべてを一度は失いました。
祖父・栄喜が工房を再開したのは、終戦からわずか2年後。焼け野原となった故郷で、いったいどんな気持ちで新たな一歩を踏み出したのでしょうか――。
日常のなかでふと立ち止まり、祖父や父、先人たちの歩みを思い返すこの季節には、ものづくりの本当の意味を考えさせられます。

沖縄という「小さな国」の誇り
琉球はかつて独立した一つの国でした。
中国、日本、東南アジアという大国・地域に囲まれながら、自由に文化や技術を吸収し、独自の美意識と精神性で「琉球らしさ」を築き上げてきました。
その象徴のひとつが、びんがたの染め物です。
戦前、王族や貴族の衣類を生み出し、庶民にも広がったびんがた。
染料や顔料、和紙や道具も本土や中国から取り寄せることが多く、まさに「多文化共生の賜物」と言える工芸です。
しかし、沖縄戦によってその多くが一度は途絶え、文化も生活も根こそぎ壊されてしまいました。
そんななかでも、祖父や地域の芸能者たちは「琉球の誇りを絶やさない」という一心で、芸能や染色、音楽、舞踊など、あらゆる文化を必死に守り抜きました。
この6月は、その想いを未来へとつなぐ月でもあります。
工房の「工房時間」 ― 何気ない日常を伝える
さて、今回のコラムでは「工房時間」というテーマで、Instagramでも好評いただいている“日常風景”をお届けします。
300年続く伝統の重みも、結局は一枚一枚の布、一つひとつの小さな積み重ねです。
仕事はとてもスローで、まさに“神経と時間の積層”のようなもの。
一朝一夕では生まれない、地道で着実な営みこそ、私たちびんがた工房の本質です。
6月の工房。
庭には梅雨の名残が残り、やがて夏本番を迎え、セミの声が響きはじめます。
この季節は空も海も日ごとに表情を変え、南から吹く湿った風が工房の窓から通り抜けていきます。
工房のなかでは、黙々と糊を練り、型紙を置き、ひと筆ひと筆、心を込めて布に模様を写していく。
外では庭のガジュマルやクワズイモが力強く葉を広げ、小鳥や虫たちの声がBGMのように流れます。
この「何も起こらない、何も変わらない」ように見える時間が、実はものづくりにとって一番豊かな時間なのだと、日々実感します。



戦後の復興と、今につながるものづくり
祖父は、戦後まもなく工房を再建しました。
失われた道具や型紙、顔料も一から集め直し、ゼロからの出発でした。
しかし、びんがたを通じて「琉球の誇りをもう一度」と奮起した先人の姿は、今も私たちの背中を押してくれます。
私自身も職人としての歩みを始めたとき、まずは“日々を丁寧に積み重ねること”の意味を教えられました。
型紙を直す、糊を練る、色をつくる。ひとつでも気を抜けば作品にすぐ現れる。
この地道さが、何より大切だと気付かされるのです。
沖縄の自然とともに生きる
工房の周辺では、夏になるとガジュマルの木が南風に揺れ、庭には色とりどりの花や野菜が生い茂ります。
島の暮らしは、自然と切り離せません。
風の匂い、海の色、植物の力強さ――
こうした自然の恵みを感じることが、びんがたの美しさや表現にもそのままつながっています。
特に6月から7月にかけては、空気も湿度も刻々と変わるので、糊や染料の調合も難しくなります。
昔から伝わる「季節とともに仕事をする」知恵が、今も工房の中で息づいています。
伝統と日常、そのあいだにあるもの
私たちが“伝統”と呼ぶものは、けっして遠い過去のものではありません。
目の前の日常、目の前の一作業、一会話、その一つひとつの積み重ねが、伝統となっていくのだと思います。
祖父の再建から約80年。父が和服の世界に挑戦し、今は私がバトンを受けて、21人の職人たちとともに工房を支えています。
それぞれの時代、それぞれの想いが積み重なり、今の「びんがた」があります。
未来への願い
今こうして、静かな工房の朝に文章を書きながら、あらためて思います。
「当たり前」のように思える日常が、どれほど大切で尊いものか――。
工房時間の一コマ一コマが、島の歴史や人々の願いとつながっていることを、忘れずにいたいのです。
そして、この日常を守り続けるために、今できることを一つひとつ丁寧に続けていきたい。
琉球びんがたの物語は、まだまだ続いていきます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
私たちの小さな工房の日常に、これからもぜひお付き合いください。
Instagramでも日々の様子や、工房で感じたことを発信しています。
ご感想やメッセージ、フォローも大歓迎です。
皆さんの好奇心や応援が、私たちの挑戦を支えてくれます。
今日もまた、沖縄の青空の下で、「工房時間」が始まります。



紅型に、時間と祈りを宿す
私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。
布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。

城間栄市プロフィール 生い立ちと紅型との距離
1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。
幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。
本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。
外の世界で学んだこと
2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。
異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。
この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。
受賞・出展についての考え方
これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。
こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。
一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。
制作について
制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。
代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。
新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。
今、そしてこれから
現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。
これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。
これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。
おわりに
公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。
Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。
どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。
この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

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