言葉と布が出会う場所で

――「落語と紅型」の一夜を終えて

皆さま、いつも本当にありがとうございます。
紅型という琉球文化に関心を寄せ、
こうして時間をともにしてくださる方々がいることに、
改めて深い感謝の気持ちを抱いています。

先日、1月17日に開催した
**「落語と紅型」**のイベントが、
おかげさまで無事に終了いたしました。
まずは、足を運んでくださった皆さま、
そしてこの場を一緒につくってくださった方々に、
心よりお礼を申し上げます。


定員を超えて、人が集まったということ

今回のイベントは、
定員を30名としてご案内していました。
会場の広さや、落語という演目の特性、
そして一人ひとりが落ち着いて過ごせる空間を考えたうえでの人数でした。

結果としては、
定員を少し上回る35名以上の方々が参加してくださいました。
数字として見れば、
「想定を超えた」という一言で済むのかもしれません。
けれど、実際にその場に立って感じたのは、
「人が増えた」というより、
場に厚みが生まれたという感覚でした。

静かに話を聞く人。
頷きながら耳を傾ける人。
初めての場所に、少し緊張した面持ちで座る人。
それぞれの呼吸が重なり合い、
会場全体が、ひとつの大きな“間”をつくっていたように思います。


手探りでつくったからこそ、見えたこと

正直に言えば、
今回のイベントは、
私たちにとっても手探りの連続でした。

受付の動線。
少し早めに来られた方への対応。
開演前の時間の使い方。
終演後、すぐに帰られる方、
少し立ち話をしてから帰られる方との距離感。

どれも、
事前にすべてを決めきっていたわけではありません。
だからこそ、
一つひとつの場面で、
その場にいる人たちの様子を見ながら、
判断し、動く必要がありました。

そして、その“曖昧さ”の中にこそ、
多くの学びがあったように思います。


何気ない会話が、文化をつなぐ

今回のイベントで、
私が特に嬉しく感じたのは、
落語そのものだけでなく、
その前後に交わされた、何気ない会話の数々でした。

受付での一言。
久しぶりに顔を合わせた方との近況報告。
「こういう場所、初めてなんです」という、少し照れたような声。

中には、
紅型に触れるのが初めてという方もいらっしゃいました。
それも、遠方からではなく、
実はご近所にお住まいで、
今回出演された落語家・ふうりんさんのファンとして、
初めてこの場所を訪れてくださった方でした。

紅型を目的に来たわけではない。
けれど、
落語という入口を通して、
偶然ここに辿り着いた。

そのこと自体が、
とても象徴的に感じられました。


文化は、正面からだけで届くものではない

紅型も、落語も、
どちらも長い時間を生き抜いてきた文化です。
けれど、それは
「正面から学ばなければならないもの」
である必要はないと思っています。

誰かの好きなものを追いかけてきた先に、
たまたま出会う。
そんな入り口があってもいい。

今回のイベントは、
まさにそのような場だったように思います。
紅型を知ってもらうための説明会でもなく、
落語を学ぶための講座でもない。
ただ、
言葉と布が、同じ時間を共有する場

そこに集まった人たちが、
それぞれのペースで、
それぞれの受け取り方をして帰っていく。
その姿が、とても自然で、心地よいものでした。


演者の方々へ、心からの感謝を

この場を成り立たせてくださった
演者の皆さまにも、
改めて感謝をお伝えしたいと思います。

すい好さん、らい好さん、そして ふうりんさん。
それぞれの語りが、
場の空気を丁寧に耕してくださったように感じています。

笑いが生まれ、
間が生まれ、
静けさが生まれる。
その流れの中で、
紅型という存在もまた、
無理なくその場に溶け込んでいました。


場をひらくということ

イベントを終えて、
改めて思うのは、
「場をひらく」ということの意味です。

大きく広げること。
たくさんの人を集めること。
それだけが、文化を伝える方法ではありません。

小さくてもいい。
一度きりでもいい。
その時間が、
誰かの記憶のどこかに、
静かに残ってくれたなら。

今回の「落語と紅型」は、
私たちにとっても、
その可能性を確かめる時間でした。


おわりに

改めまして、
ご来場いただいた皆さま、
関わってくださったすべての方々に、
心より感謝申し上げます。

これからも、
紅型という文化を、
無理なく、押しつけることなく、
けれど確かに、
人の暮らしとつながるかたちで、
伝えていけたらと思っています。

また、どこかで。
同じ時間を共有できる日を、
静かに楽しみにしています。

本当に、ありがとうございました。

紅型に、時間と祈りを宿す

私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。

布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。


城間栄市プロフィール 生い立ちと紅型との距離

1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。

幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。

本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。


外の世界で学んだこと

2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。

異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。

この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。


受賞・出展についての考え方

これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。

こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。

一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。


制作について

制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。

代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。

新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。


今、そしてこれから

現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。

これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。

これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。


おわりに

公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。

Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。

どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。

この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

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