静かな一年の終わりに【年末の挨拶】

──つくること、語ること、守ること

皆さま、こんにちは。
今年も一年、大変お世話になりました。

この一年を振り返ると、まず最初に浮かぶのは、
「無事に、ここまで来ることができた」という、静かな感謝の気持ちです。
私たちの仕事は、決して派手なものではありません。
それでも、日々の営みに関心を寄せ、見守り、言葉に耳を傾けてくださる方々がいたからこそ、
今年もこうして一年の終わりを迎えることができたのだと思っています。

私自身、今年は年男、そして48歳という節目の年でもありました。
「できるだけ静かに、おとなしく過ごそう」
年のはじめには、そんなふうに心に決めていたつもりでした。

しかし振り返ってみると、結果としては、
決して“静かな一年”とは言えないほど、
多くの挑戦と向き合った年だったように思います。

ポケモンさんとのコラボレーション。
そして年末には、琉球ガラスさんとの協働。
これらは単なる話題づくりではなく、
「ものづくりとは何か」という根本を、あらためて自分たちに問い返す機会でもありました。

「琉球の富」柳宗悦

また、年の終わりには、
2023年に登録有形文化財として認定された「沖縄ホテル」に宿泊する機会がありました。
沖縄で初めて出来たホテルとして、この土地とともに長い時間を重ねてきた場所です。

那覇空港からほど近く、安里の町の中に静かに佇むその建物には、
特別に目を引く装飾があるわけではありません。
けれど、壁の質感や廊下に落ちる光、
多くの人の動線を受け止めてきた空間の“間”に、
確かに時間が染み込んでいるのを感じました。

那覇市安里にある沖縄で初めて出来たホテルです
沖縄ホテル入り口
沖縄ホテル

周囲には、栄町市場や国際通り、壺屋やちむん通りがあり、
八百屋や魚屋、居酒屋や小さな店が、
今も日常の延長として息づいています。
観光地でありながら、暮らしの温度がそのまま残っている町並み。
その中に沖縄ホテルが在り続けていること自体が、
「守りながら、使い続ける」という一つの文化のかたちのように思えました。

古いものを、ただ保存するのではなく、
今の時間の中で生かし続ける。
その姿勢は、私たちが紅型と向き合うときの感覚とも、
どこか深く重なるものがあります。

異なる分野、異なる文化背景を持つ方々と手を取り合いながら、
紅型という存在を、いまの時代にどう置くのか。
何を守り、どこを柔らかく開いていくのか。
その一つひとつを、現場で確かめながら進めてきた一年だったと感じています。

また今年は、公式ホームページやSNSを通して、
「言葉を届ける」という取り組みにも、より力を注いだ年でした。

基本的に、このコラムは、
三十分程度で書き上げる、
ごく日常的な作業の延長として続けています。
完璧な文章を目指すというよりも、
現場の空気や、その時々の実感を、
なるべく新鮮なまま残すことを大切にしてきました。

そうした積み重ねの結果、
この一年で、およそ百本のコラムを公開することができました。
これは私自身にとっても、予想以上の数でした。

けれどそれ以上に意味があったのは、
私ひとりの考えや言葉だけではなく、
現場で共に働く二十名余りの職人たちの感覚や価値観、
日々の仕事の中で交わされる、
ささやかな言葉やまなざしを、
私自身の体験を通して、少しでも外に伝えられたことだと思っています。

今まで存在しなかったものを、現実の形としてつくり上げていくことは、
思っている以上に難しく、
時には摩擦や違和感を伴うものです。

「なぜそんなことをするのか」
「そこまでやる必要があるのか」
そうした声が聞こえてくることも、正直ありました。

それでも今年一年を通して、
ものをつくることと同じくらい、
いや、もしかするとそれ以上に、
言葉として伝えていくことの大切さを、身をもって感じました。

紅型という仕事は、
完成した布だけを見れば、その美しさは伝わります。
しかし、その背景にある時間や迷い、判断、覚悟までは、
何も語らなければ、ほとんど伝わりません。

だからこそ、
「つくること」と「語ること」を切り離さずに続けていく。
それが、これからの工房にとって欠かせない営みなのだと感じています。

段階的ではありますが、
そうした取り組みを重ねる中で、
工房としての土台、足元の部分が、
少しずつ落ち着いてきた実感もあります。

派手な成長ではありません。
むしろ、目に見えにくい変化です。
けれど、この「足元を固める」時間こそが、
この先、長くものづくりを続けていくためには、
何より重要なのだと思っています。

同時に、来年は、
より一層「つくること」そのものに集中できる年にしていきたいとも考えています。

近年、道具や材料の調達は年々難しくなり、
価格も上がり続けています。
伝統工芸を取り巻く環境は、
決して楽観できる状況ではありません。

そうした中で、
私たちは日常的な工房見学を受け入れていない、という選択もしています。
配信や発信を続けながら、その一方で、
「つくることに集中する環境」を、あえて守る。

一見すると矛盾しているように見えるかもしれません。
けれど私にとっては、
作ることそのものに集中できる時間と場所を、
できる限り長く維持することこそが、
いまの自分の最大の使命であり、役割だと感じています。

それが実現できてはじめて、
ものづくりを通して、琉球の思いを守ることができる。
多様な文化や人々を受け入れながら、
沖縄らしいリズムで、
ゆっくりと育まれてきた美意識を、
次の世代へと手渡すことができる。

この工房が、
「生み出せる場所」であり続けること。
それ自体が、何より大切な仕事なのだと、
今年一年を通して、あらためて感じています。

今年も本当にありがとうございました。
皆さまの関心とまなざしが、
私たちの挑戦を静かに支えてくれています。

来年もまた、
急がず、誇らず、
一つひとつの仕事を大切に積み重ねていきたいと思います。

紅型に、時間と祈りを宿す

私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。

布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。


城間栄市プロフィール 生い立ちと紅型との距離

1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。

幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。

本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。


外の世界で学んだこと

2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。

異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。

この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。


受賞・出展についての考え方

これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。

こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。

一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。


制作について

制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。

代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。

新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。


今、そしてこれから

現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。

これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。

これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。


おわりに

公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。

Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。

どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。

この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

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