紅型と落語【イベント】
2026.05.24
皆さん、おはようございます。
日頃より、紅型を通して琉球文化に関心を寄せていただき、本当にありがとうございます。
最近では、ホームページやInstagramをご覧になって工房のことを知ってくださる方が増え、
「見ましたよ」「こういうことをされているんですね」と声をかけていただく機会も多くなりました。
その一つひとつの言葉に、私たちは支えられています。
実際に地元で生活していると、意外なことに、昔からの知人や友人であっても、
自分たちがどのような仕事をしているのか、深く知られていないことも少なくありません。
しかし最近は、そうした身近な人たちからも、
「紅型ってこうやって作られているんだね」
「こんな工程があるとは知らなかった」
といった、もう一歩踏み込んだ反応をいただけるようになってきました。
それは、単に情報が届いたということ以上に、
少しずつ文化との距離が縮まっている証のようにも感じています。
そうした流れの中で、私たちは工房という場所を、
ただ制作を行う場としてだけでなく、
文化に触れていただく“入り口”としてひらいていく取り組みを続けてきました。
現在は、年間を通して、
4月・7月・10月・1月といった節目に、
年に4回ほどのペースでイベントを開催しています。
その内容も、回を重ねるごとに少しずつ形を変えながら、
紅型という存在を、より多角的に感じていただけるような試みを続けています。
また、私のパートナーである城間あずきが立ち上げた「杜栄」という活動の中でも、
こうした文化の場づくりは広がりを見せており、
工房としての取り組みと、外にひらく活動とが、
ゆるやかにつながりながら進んでいます。
その中で、今年1月に開催した「紅型と落語」の会は、
私たちにとっても印象深い時間となりました。
紅型に囲まれた空間の中で、落語という言葉の芸能が重なり、
笑いと静けさが交差する、これまでにない感覚の場が生まれたように思います。
そして、その場に集まった出演者や参加者の皆さんとの会話の中から、
自然とこんな言葉が生まれました。
「今度は夏に、怪談話なんてやってみても面白いかもしれないね」
その一言がきっかけとなり、
今回の夏の企画が形になっていきました。
意図して作り込んだものというよりも、
その場にいた人たちの感覚や余韻の中から、
次の時間が生まれていく。
そうした流れそのものに、
私たちはとても大きな意味を感じています。
今回の落語会では、
夏という季節に合わせて、少し涼やかな怪談話を中心に構成されています。
紅型の色や模様が静かに空間を包み込む中で、
語られる物語が、どのように響いていくのか。
その時間は、ただ「観る」「聴く」という体験ではなく、
その場に身を置くことで感じられるものになるのではないかと思っています。
こうした取り組みは、決して大きな規模のものではありません。
けれど、小さな場だからこそ生まれる距離感や、
人と人との関係性の中で立ち上がる空気があります。
そしてその空気こそが、
文化が次へとつながっていくための大切な土壌になるのではないかと感じています。
もしこの文章を読んで、少しでも興味を持っていただけたなら、
ぜひ一度、この場に足を運んでいただけたら嬉しく思います。
きっとそこには、
言葉だけでは伝えきれない何かが、静かに流れているはずです。
皆さまとお会いできることを、心より楽しみにしています。
城間栄市プロフィール
紅型に、時間と祈りを宿す
私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。
布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。

生い立ちと紅型との距離
1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。
幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。
本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。
外の世界で学んだこと
2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。
異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。
この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。
受賞・出展についての考え方
これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。
こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。
一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。
制作について
制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。
代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。
新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。
今、そしてこれから
現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。
これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。
これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。
おわりに
公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。
Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。
どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。
この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

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