花火のまなざしを通して【作品解説】
2025.08.23
夜花火 ─
花火は、いつも私たちが夜空を見上げる存在です。しかしもし逆に、花火が私たちを見下ろしていたら…?
そんな発想の転換から生まれたのが、この「夜花火」という作品です。視点を切り替えることで、日常の中に新しい物語を見つける。その実験がこの作品には込められています。
技法的な挑戦とテーマづくり
私は常に、**「ひとつの作品にひとつのテーマ」を持つこと、そして「技法的なチャレンジと沖縄の物語を織り込むこと」**を意識してきました。「夜花火」もその延長線上にあります。大型作品を手掛けるときには、従来の表現を超えて実験的な試みを行うことが欠かせません。この作品もまた、視点の転換と技法の工夫を重ねる中で生まれました。



山下清との不思議な縁
この花火のモチーフには、実は過去からのつながりがあります。
終戦後まもない復興期、まだ設備も整わない工房に、版画家の山下清先生が訪れたことがありました。沖縄の復興を応援したいと、多くの文化庁関係者や有識者と共に祖父・栄喜を訪ねられたのです。その際、先生は紅型の筒描きの技法を体験し、いくつかの作品を残しました。その中の一つが「花火」でした。
祖父の家の奥に保管されていたその作品を目にしたとき、70年近い時を超えて私の中にインスピレーションが湧き上がりました。あの時代に描かれた花火を、今の時代の紅型として表現したらどうなるだろう──そう考えたのが「夜花火」誕生のきっかけです。






夕暮れに咲く花火の情景
私が思い描いたのは、街の営みが静かに止まり、休息に入る夕暮れ時に打ち上がる花火の情景です。
昼の喧騒から解き放たれた街に、夜の帳が下りる瞬間。空に広がる光が、地上の私たちを見下ろしているように感じられる。その幻想的な時間を、紅型という技法で描き出しました。
作品に込めた願い
「夜花火」は、ただ花火を描いたものではありません。戦後復興期の出会い、過去から現在へと受け継がれた縁、そして技法的な挑戦。それらが重なり合って生まれた作品です。
この花火を通して、見る人がそれぞれの思い出や物語を心の中に重ね合わせていただけたら、これほど嬉しいことはありません。





紅型に、時間と祈りを宿す
私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。
布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。

城間栄市プロフィール 生い立ちと紅型との距離
1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。
幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。
本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。
外の世界で学んだこと
2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。
異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。
この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。
受賞・出展についての考え方
これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。
こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。
一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。
制作について
制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。
代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。
新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。
今、そしてこれから
現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。
これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。
これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。
おわりに
公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。
Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。
どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。
この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

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