寒さの中に咲く、琉球のリズム【工房時間】
2026.02.15
桜が告げる、琉球の時間
皆さんこんにちは。
紅型を通して琉球文化が伝わっていくことに、日々感謝しています。
沖縄では今、桜が咲いています。
本土の桜とは少し違い、沖縄の桜は寒くなると咲きます。冷え込むほどに花を開く、不思議で力強い花です。
今年も寒さが増した頃から、一斉に桜が咲きはじめました。沖縄の人にとってこの時期は一年で最も寒い季節ですが、桜が咲くと不思議と心が少し浮き立ちます。寒さの中にあるからこそ、「また一年が始まる」という感覚が芽生えるのかもしれません。



沖縄の人は、自然を単なる景色としてではなく、心の動きと重ね合わせて感じてきました。
朝、露をまとった花びらを見ると、ただ美しいと感じるだけでなく、「なんと誇らしいことか」と胸がすっと澄み渡るような気持ちになる。それは決して大きな声で語る誇りではなく、静かに内側から立ち上がる感覚です。
冷たい朝の空気の中で、朝露をまとった花が光を受ける瞬間。
その小さなきらめきに、自分たちの今日を重ねる。
自然とともにあるということは、そういう心の持ち方なのかもしれません。
工房の周りには、桜だけでなく一年中咲いている花々があります。ハイビスカスやブーゲンビリア、名も知らぬ小さな花たち。それぞれがそれぞれの季節に、静かに色を添えています。
毎朝工房に向かうとき、その花々の様子を見ながら、「今日も時間が動いている」と感じます。季節は急ぐことなく、しかし確実に巡っていきます。そのリズムの中で、私たちのものづくりもまた、続いています。
紅型の文様には、自然が多く描かれます。花、鳥、波、風。
それは単なる装飾ではなく、季節や時間を写し取る営みでもあります。
寒さの中で咲く桜のように、琉球文化もまた、時に厳しい状況の中で守られ、受け継がれてきました。交易の時代、戦争の時代、変化の時代。それでも文化は途切れることなく、形を変えながら今に続いています。
型は、単なる道具ではありません。
そこには先人たちの視点や美意識、自然との向き合い方が刻まれています。私たちはその型を受け取り、今の色で染め直し、次へと手渡していきます。
最近では、海外との交流の機会もいただきました。若い世代と向き合い、琉球文化を共有する時間を持てたことは、大変ありがたい経験でした。しかしそれは特別なことではなく、日々の積み重ねの延長線上にあるものだと感じています。
華やかな出来事の裏側には、毎日の地道な制作があります。
布を張り、糊を置き、色を差し、乾かし、また重ねる。
一つ一つの工程は静かで、派手さはありません。
けれど、桜が一斉に咲く前に、見えないところで準備をしているように、ものづくりもまた、目に見えない時間の蓄積によって成り立っています。
沖縄の桜は、寒さがあってこそ咲きます。
朝露をまとった花びらが光を受けるように、試練や静かな時間を経てこそ、色は深まり、文化は強くなります。
私たちは急ぐことなく、しかし止まることなく、季節のように歩み続けたいと思っています。
工房の周りの花々を眺めながら、また新しい一年が始まっていることを感じています。
これからも型を通して、琉球の時間と色を、丁寧に伝えていけたらと思います。
桜はまた来年も咲きます。
文化もまた、巡りながら続いていきます。
その流れの中で、私たちも静かに仕事を重ねていきたいと思います。







紅型に、時間と祈りを宿す
私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。
布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。

城間栄市プロフィール 生い立ちと紅型との距離
1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。
幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。
本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。
外の世界で学んだこと
2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。
異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。
この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。
受賞・出展についての考え方
これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。
こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。
一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。
制作について
制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。
代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。
新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。
今、そしてこれから
現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。
これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。
これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。
おわりに
公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。
Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。
どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。
この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

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