遠くからのお客様と、いつもの仕事【工房時間】

【Meet Up ECoC! – Face to Face – 2026 in Okinawa】 の皆様

新しい出会いと、いつもの仕事

こんにちは。城間びんがた工房の城間栄市です。いつもホームページを見てくださり、本当にありがとうございます。紅型を通して、琉球の文化や美しさを次の時代へ伝えていけること。そして、日々の工房の出来事をこうして皆さまにお伝えできることを、ありがたく感じています。

今日は、昨日工房であった少し特別な出来事について、お話ししたいと思います。

昨日、ヨーロッパ各地で文化や芸術に関わっている方々が、城間びんがた工房を訪ねてくださいました。今回の訪問は、日本とヨーロッパの文化交流を長く続けているEU・ジャパンフェスト日本委員会の取り組みの一つとして実現したものです。ヨーロッパの文化事業に関わるディレクターやキュレーターの方々が沖縄を訪れ、地域に根づいた文化や芸術、ものづくりの現場を見て回る中で、私たちの工房にも足を運んでいただくことになりました。欧州文化首都(European Capital of Culture: ECoC Meet Up ECoC! – Face to Face – 2026 in Okinawa

当日は朝から、工房の一階と三階をゆっくり見ていただきました。職人たちが手を動かしているところをすぐそばで見ていただきながら、紅型の工程や歴史、普段の仕事について、私自身の言葉でお話ししました。型を彫ること。糊を置くこと。一つひとつ色を差すこと。隈を入れること。地を染めること。最後に水で糊を落とすこと。一枚の布が仕上がるまでには、本当にたくさんの手間がかかります。

私たちにとっては毎日の光景ですが、初めて見る方にとっては、一つひとつの工程がとても新鮮だったようです。職人の手元をじっくり見ながら、たくさん質問をしてくださいました。

「この作業にはどれくらい時間がかかるのですか」
「職人はどのように技術を身につけるのですか」
「昔の柄は、今も使われているのですか」

そうした質問にお答えしているうちに、私自身も、普段当たり前にやっている仕事を改めて見直す時間になりました。

最後には琉球舞踊も見ていただきました。紅型の衣装をまとい、音楽と踊りが一つになる姿を見ながら、染め物は布だけで完結するものではないのだと改めて感じました。暮らしや祝い、音楽や踊り、人と人とのつながりの中で、紅型は生きてきたのだと思います。

気がつけば二時間以上。予定していた時間を大きく超えて、工房でゆっくり過ごしていただきました。とてもありがたく、うれしい一日でした。

ただ、今回のような機会をいただけたのは、決して私たちだけの力ではありません。このホームページを見てくださっている皆さま。作品を手に取ってくださる皆さま。展示会や催しに足を運んでくださる皆さま。そして、祖父の時代、父の時代から、長く工房を応援してくださっている皆さま。そうした方々の支えが少しずつ積み重なり、今回のような新しい出会いにつながっているのだと思います。

いつも見てくださっている方の中には、何十年も工房を知ってくださっている方もいます。

「昔、お祖父さまの作品を見ました」
「お父さまの時代から応援しています」
「何年も前に買った作品を今も大切に使っています」

そうしたお話を聞くたびに、私たちの仕事は、今だけで成り立っているものではないと感じます。長い時間の中で支えてくださった方々がいて、その道の先に、今の工房があります。改めて、本当にありがとうございます。

工房を見学している中で、ある方からこんな質問がありました。

「これからヨーロッパの有名なブランドやメーカーと、コラボレーションする考えはありますか」

私は、その場ですぐに、

「機会があれば、ぜひ取り組んでみたいです」

とお答えしました。そしてそのまま、質問をしてくださった方だけでなく、その場にいらした皆さん全体に向けて、こう続けました。

やってみることで、紅型を知ってもらう機会を増やしていきたい。それは私が本当に強く思っていることです。その広がりが世界であっても、私はまったく構わないと思っています。ただ、知ってもらうことは、あくまで入り口にすぎません。本当に大切なのはそこではなく、私たちが日々、地道な仕事にきちんと向き合える環境があること。その中で、ほんの些細な気づきや、小さなアップデートが積み重なっていくこと。そうしているうちに、時間や時代に耐えられる図柄が、少しずつでも増えていく。それが、私の考える「根っこ」の部分です。それこそが私たちの本当の仕事であり、知ってもらうことは、そこから広がっていく「枝葉」のようなものなのだと思います。

そうお話ししたとき、参加者の皆さんから拍手と、大きくうなずくような声が上がりました。その瞬間、私はふと感じたことがありました。今回いらしていた方々は23名、ヨーロッパ各地から来てくださった、実際に手仕事に携わる作家の方や、作り手を支えるキュレーター、地域の代表を務めている方々です。それぞれの土地で、手仕事や伝統的なものづくりをどう守っていくか、日々悩みながら向き合っていらっしゃる方々だと思います。あの拍手をいただけたということは、文化も言葉も違っても、大切にしてきたものをどう次の時代へつないでいくかという問いや悩みは、きっとどこか共通しているのだろうと、その場で強く感じ取りました。

違う文化や感性と出会い、一緒に何かをつくることは、とても面白いことだと思っています。これまで紅型を知らなかった方に知ってもらうきっかけにもなりますし、私たち自身が新しい可能性に気づくこともあります。新しい挑戦は、工房に新しい風を入れてくれます。ですから、これからもいろいろな方との出会いを大切にしていきたいと思っています。

ただ、それと同時に、あの日お話しした「根っこ」の部分こそ、私が一番大切にしていることに変わりはありません。それは、毎日の仕事です。

海外の方に見ていただくことも、有名な方と一緒に仕事をすることも、とてもありがたいことです。それでも、木にたとえるなら、それはやはり枝や葉の部分なのだと思います。枝が広がれば、遠くからも見えるようになります。葉が茂れば、たくさんの人がその木に気づいてくれます。でも、その木を本当に支えているのは、土の中にある根です。

私たちにとっての根は、毎日工房で仕事に向き合うことです。朝、みんなが工房に集まり、それぞれの場所で手を動かすこと。一つの線を丁寧に引くこと。昨日より少しだけ良い仕事をしようとすること。失敗したら、そのままにせず、次に生かすこと。納期を守ること。品質を守ること。困っている人がいれば、声をかけること。そうした小さなことの積み重ねが、工房を支えています。

外から見ると、あまり華やかではないかもしれません。毎日同じように見える仕事もあります。けれども、その何気ない一日一日がなければ、紅型は続いていきません。今回のような特別な一日を迎えたからこそ、改めて、いつもの仕事の大切さを感じました。新しい出会いに喜びながら、次の日にはまた、いつものように布の前に座る。それが私たちの仕事なのだと思います。

そして私自身、これから先のことを考えたときに、一つ強く願っていることがあります。それは、未来に残る新しい柄を、一つでも二つでも生み出したいということです。

今、私たちが仕事で使っている柄の中には、祖父や父、そのさらに前の先人たちがつくったものがたくさんあります。昔の人たちが生み出した柄を、今も染めることができる。その柄が今も仕事になり、私たちの暮らしを支えてくれている。これは本当にすごいことだと思います。だからこそ、私たちも、今の時代に生きる者として、未来に何かを残したいと思っています。

百年後、私たちのことを知らない職人が、

「この柄を染めてみたい」
「この図案は今見てもきれいだ」

と思ってくれるようなもの。そんな柄を一つでも残すことができたら、とてもうれしいです。

古典柄というものは、初めから古典だったわけではありません。昔の誰かが、その時代の暮らしや自然、美しさを感じながら、新しいものとして生み出したものだと思います。それが多くの人に愛され、長い時間を越えて残り、いつしか古典と呼ばれるようになった。そう考えると、私たちも昔をなぞるだけではなく、今の沖縄を見つめながら、新しいものをつくる必要があるのだと思います。

海外の方との交流も、新しい挑戦も、きっとそのための刺激になります。けれども、最後に戻る場所は、やはり毎日の仕事です。一枚の布と向き合うこと。一つの色を考えること。一つの柄を育てること。その積み重ねの中から、いつか未来の古典が生まれるのかもしれません。

今回の訪問については、現在、私が撮影した写真が一枚だけ手元にあります。後日、事務局の皆さまから当日の記録写真もいただける予定ですので、写真が届きましたら、また改めて皆さまに詳しくご紹介したいと思っています。どんな方が来られたのか。どんな話をしたのか。工房の中でどんな時間が流れていたのか。またこのホームページで、ゆっくりお伝えできればと思います。

今回、遠くヨーロッパから工房を訪ねてくださった皆さまに、心より感謝申し上げます。そして何よりも、長い間、城間びんがた工房を見守り、支えてくださっている皆さまに、改めてお礼を申し上げます。

新しい出会いに感謝しながら、今日も私たちは、いつもの場所で手を動かしています。枝を少しずつ広げながら、根っこはもっと深く。その先に、未来へ残る仕事が生まれることを願っています。

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。


水の中の布 糊がふやけてきました。

城間栄市プロフィール 

紅型に、時間と祈りを宿す

私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。

布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。


生い立ちと紅型との距離

1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。

幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。

本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。

平成24年(2012年)
第47回 西部伝統工芸展 福岡市長賞

平成25年(2013年)
沖展 正会員推挙

平成26年(2014年)
第49回 西部伝統工芸展 奨励賞
城間びんがた工房 十六代継承

平成27年(2015年)
第62回 日本伝統工芸展 新人賞受賞
日本工芸会 正会員推挙

令和3年(2021年)
第56回 西部伝統工芸展 沖縄タイムス社賞

令和4年(2022年)
MOA美術館 岡田茂吉賞 大賞

令和5年(2023年)
第58回 西部伝統工芸展 西部支部長賞
「ポケモン×工芸展」出展
文化庁「日中韓芸術祭」出展

令和6年(2024年)
文化庁「技を極める」展 出展

令和7年(2025年)
「ポケモン×工芸展」全国巡回展(滋賀・静岡・東京・愛知・青森・長崎)

令和8年(2026年)
国際交流基金に作品が買い上げられる。
同作品は国際文化交流事業の一環として、世界22か国のジャパンハウスを巡回予定。

城間栄市作品


外の世界で学んだこと

2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。

異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。

この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。


受賞・出展についての考え方

これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。

こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。

一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。


制作について

制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。

代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。

新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。


今、そしてこれから

現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。

これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。

これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。


おわりに

公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。

Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。

どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。

この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

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