デイゴの花と夏の訪れ【作品解説】

光と風を織り込む ― 紅型作品「光葉」に込めた思い

皆さん、こんにちは。
いつも紅型(びんがた)を通して、沖縄や琉球の文化に関心を持ち続けてくださること、本当にありがたく思っています。私たちがこうして工房で日々の仕事を続けられるのは、見てくださる方の好奇心や応援があるからこそです。

今日は、最近取り組んだ作品「光葉(ひかりは)」について少しお話ししたいと思います。作品の解説ではあるのですが、同時に私自身が「日常の中でどんなものを見て、どんなことを感じながら紅型を作っているのか」を伝える機会にできればと思っています。


沖縄の物語を込めるということ

紅型を作るとき、私はいつも二つのことを意識しています。
一つは「沖縄の物語を込めること」。
もう一つは「技法への挑戦を続けること」。

できるだけ、この二つをセットにして作品づくりに取り組むようにしています。

というのも、古い紅型の図案を眺めていると、そこに描かれている柄や模様の奥から、沖縄の人々の暮らしや思いが立ち上がってくるように感じるのです。大げさな歴史物語もあれば、日常の小さな気づきが題材になっているものもあります。

たとえば、南風が吹くと「夏が来た」と感じ、北風が吹けば「冬が近い」と思う。そんな風や季節の変化に、沖縄の人々は敏感に暮らしてきました。私はそういう感覚を、作品の中に少しでも表現できたらと思っているのです。

五感で感じた光や風、匂いや湿度。そういったものを、いつか布の上に図案として描けるようになりたい――。それは憧れのような思いでもあります。


歩みの遅さを受け入れる

ただ、現実はそう簡単ではありません。
「こんな表現をしてみたい」と思っても、一度にいくつも挑戦するのは難しい。結局は、少しずつ、作品ごとに小さな実験を繰り返しながら進んでいくしかないのです。

私はよく「一つの作品で一つの実験」と心の中で決めています。あまり欲張りすぎずに、でも確実に次へつながる表現を試していく。その積み重ねが、自分自身の歩みになると信じています。

先輩方からいただく声や助言を頼りに、一歩ずつ確認するようにして作品と向き合う。その中で生まれたのが、今回の「光葉」という作品でした。


テーマは「木漏れ日の光」

今回のテーマは、木漏れ日のような柔らかな光です。
沖縄の日差しはとても強烈ですが、時にふと差し込むやわらかな光に心を奪われる瞬間があります。その一瞬を紅型で表現できないかと考えました。

特に思い描いたのは、朝の少しカラッとした空気の中で見える木漏れ日。熱帯特有の湿った風が漂う日差しではなく、乾いた風と透明な光が交じり合う爽やかな時間。その光を布に写し取ってみたいと思ったのです。


半染地という挑戦

技法としては「半染地(はんそめじ)」を試みました。
紅型には大きく分けて二つの型彫りの方法があります。

  • 白地(地抜き):柄以外のベースを切り抜くことで、背景を染める。表現になります。
  • 染地(そめじ):糸目書きのように線だけを残す彫り方。全体を染め上げるときに用いられます。

それぞれに独特の表情がありますが、私は今回、それを50%ずつ取り入れる方法を試しました。つまり「半分は白地、半分は染地」。その境界の中に、木漏れ日の揺らぎを重ねられるのではないかと考えたのです。


型彫り中の型紙
型紙
型置き→色差し

デイゴの花と沖縄の季節感

図案の主役には「デイゴの花」を選びました。
デイゴは沖縄県の花として知られていますが、実は生活の中で深い意味を持っています。

昔から「デイゴがよく咲く年は台風が多い」と言われてきました。私自身も、初夏の青空の下に咲き誇るデイゴを眺めると、いよいよ沖縄らしい季節が来たと感じます。

また、私は南風が吹いている間にしか釣りに出ないのですが、デイゴの花を見ると「さあ、これからワクワクする季節が始まる」と胸が高鳴ります。そうした個人的な感覚と、沖縄の人々が代々抱いてきた季節感が重なるように思うのです。

木漏れ日とデイゴの花。
この二つを重ね合わせることで、沖縄の自然の息づかいを作品に込めたいと考えました。


作品とともに始まる物語

紅型は、ただ美しい模様を描くためのものではありません。
布の上に重ねられた色や形の一つ一つが、暮らしの記憶や自然のリズム、人々の思いを映し出しています。

「光葉」もまた、私の個人的な経験や季節の感覚を反映したものですが、それを見てくださる方が「自分の物語」として重ねてくださる瞬間を願っています。

たとえば、あなたが木漏れ日の下で誰かと歩いた記憶や、初夏の空気を吸い込んだときの感覚。そうした体験が作品と響き合ったとき、新しい物語が始まるのだと思います。


おわりに

作品をつくることは、実験の連続であり、同時に沖縄の物語を紡ぐ行為でもあります。
「光葉」という一枚の布に込めたのは、私自身の小さな発見と、沖縄の自然がもたらす大きな物語です。

そしてこの文章を読んでくださったあなたも、すでにその物語の一部です。
紅型を通して、沖縄の光や風、そして人々の思いに触れ、自分自身の物語を描き加えていただければ嬉しく思います。

これからも一つ一つの作品に挑戦を重ねながら、紅型の奥深さと新しい可能性をお届けできるよう努めてまいります。

第72回日本伝統工芸展 

日本伝統工芸展 琉球紅型訪問着 「光葉」 城間栄市

隈取り
隈取り
糊伏せ
地染め

公式ホームページでは、紅型の歴史や伝統、私自身の制作にかける思いなどを、やや丁寧に、文化的な視点も交えながら発信しています。一方でInstagramでは、職人の日常や工房のちょっとした風景、沖縄の光や緑の中に息づく“暮らしに根ざした紅型”の表情を気軽に紹介しています。たとえば、朝の染料作りの様子や、工房の裏庭で揺れる福木の葉っぱ、時には染めたての布を空にかざした一瞬の写真など、ものづくりの空気感を身近に感じていただける内容を心がけています。

紅型は決して遠い伝統ではなく、今を生きる私たちの日々とともにあるものです。これからも新しい挑戦と日々の積み重ねを大切にしながら、沖縄の染め物文化の魅力を発信し続けていきたいと思います。ぜひInstagramものぞいていただき、工房の日常や沖縄の彩りを一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。

城間栄市プロフィール 

紅型に、時間と祈りを宿す

私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。

布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。


生い立ちと紅型との距離

1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。

幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。

本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。


外の世界で学んだこと

2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。

異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。

この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。


受賞・出展についての考え方

これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。

こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。

一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。


制作について

制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。

代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。

新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。


今、そしてこれから

現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。

これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。

これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。


おわりに

公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。

Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。

どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。

この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

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