工房の静かな呼吸【工房時間】

いつも見ていただいているあなたへ

── 工房の時間と、静かに積み重なる信頼

いつもこのホームページを見てくださっているあなたへ。

きっとあなたは、
強い言葉や派手な物語よりも、
その奥にある姿勢を見ている方なのだと思います。

人と出会うときも、
一瞬の印象よりも、
その人がどんな時間を生きているのかを感じ取ろうとする。

この人は誠実だろうか。
この人は急がないだろうか。
この人は長い時間を共にできるだろうか。

未来には、長い時間が流れます。
その時間をどう過ごすかを考える人ほど、
慎重になります。

その慎重さは、
弱さではなく、むしろ強さだと私は思っています。

長い時間を想像できる人だけが、
本当に大切なものを選ぶことができるからです。


朝の工房 2025年2月26日
糊をふやかすために 水の中につけておきます
水元(染めた布を水洗いします)
水の中の布 糊がふやけてきました。

私たちは、工房という時間の中で
日々ものづくりに向き合っています。

びんがたを通して琉球文化が伝わっていくことに、
静かな感謝を抱きながら。

一日はとても地味です。
派手な出来事はほとんどありません。

けれど、
取り組めば取り組むほど、
ほんのわずかな変化に気づくようになります。

線のわずかな揺れ。
色のわずかな深み。
指先のわずかな緊張。

その小さな差異を感じ取れることが、
この仕事の喜びです。

びんがたは、
およそ200年、作り方が大きく変わっていません。

首里城の図案をする 城間栄順(15代)1940年代
1960年頃 工房風景
1960年頃 工房風景
終戦後レコード 薬莢など 手に入る廃品から染色道具を作りました

今手に入る道具で、
昔のやり方をつなげていく。

効率を考えれば、
もっと速い方法もあるでしょう。

けれど、
素朴で原始的な方法だからこそ、
作り手の心が隠れません。

指先を通して、
その人の状態がそのまま現れる。

ごまかしがきかない仕事です。


代表になる前、私はずっと考えていました。

工房が一日でも長く続くために、
本当に守らなければいけないものは何なのか。

売上でしょうか。
知名度でしょうか。

もちろんそれも大切です。

しかしそれ以上に大切なのは、
日々の小さな変化を感じ取る感性ではないか。

未熟さに気づく瞬間。
理想に届かなかった悔しさ。
ほんの少し上手くいったときの静かな喜び。

そうした感情の動きが、
作品ににじみ出る余白。

そこに、
この仕事の魅力があるのではないかと思いました。


工房には、型彫りを担当している職人がいます。

あるときその職人が、こんなことを話してくれました。

「ひと彫りごとに、自分の未熟さが出るんです。
理想のタッチが出たか出ないかで、
気持ちが揺れるんですよ。」

その言葉に、私は強く心を打たれました。

そこまで繊細に、
自分の仕事を見つめている。

そこまで正直に、
自分の手と向き合っている。

性別は関係ありません。
年齢も関係ありません。

仕事に向き合う姿勢の丁寧さは、
静かに信頼を積み重ねていきます。

ひと彫り。
また、ひと彫り。

その積み重ねが、
一枚の布になっていきます。


大ベテランの先輩方が、
ときどきこんなことを言います。

「もう少し色気が出ないかね。」

色気とは何でしょうか。

派手さではない。
強さでもない。

奥行き。
余白。
言葉にしきれない深み。

昔の琉球の資料を見ると、
どこか不思議な気配があります。

強く主張しない。
けれど、忘れられない。

それはきっと、
急がない時間の中で生まれたものなのだと思います。


いつも見てくださっているあなたは、
きっと感じ取っているはずです。

声の大きさではなく、
継続の姿勢を。

一瞬の情熱ではなく、
長い時間に耐える誠実さを。

私たちは、
奪うものづくりをしたくありません。

焦らせる色ではなく、
寄り添う色を。

支配する柄ではなく、
共に時間を重ねられる柄を。

びんがたは、
人の時間に寄り添う文化だと思っています。


私たちは急ぎません。

けれど、
この文化を途絶えさせるつもりもありません。

ひと彫り。
ひと色。
また、ひと彫り。

静かな積み重ねが、
未来をつくっていきます。

もしあなたが、
何かを選ぶときに慎重になる方であるなら。

その慎重さは、
未来を見る力です。

長い時間を想像できる人だけが、
本当に価値のあるものを見つけることができる。

私たちもまた、
同じ時間の中で仕事をしています。

急がず。
誇張せず。
けれど確実に。

あなたの時間と、
私たちの工房の時間が
どこかで重なることを願いながら。

今日も工房では、
静かに
ひと彫りが重ねられています。

城間栄市プロフィール 

紅型に、時間と祈りを宿す

私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。

布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。


生い立ちと紅型との距離

1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。

幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。

本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。


外の世界で学んだこと

2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。

異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。

この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。


受賞・出展についての考え方

これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。

こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。

一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。


制作について

制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。

代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。

新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。


今、そしてこれから

現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。

これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。

これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。


おわりに

公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。

Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。

どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。

この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

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