― 小さな出会い、心に残るもの

ものづくりのそばにある、静かな循環について

皆さん、おはようございます。
紅型という染めの仕事を通して、琉球・沖縄の文化が少しずつ誰かのもとへ届いていくことに、日々、深い感謝を覚えています。
いつも静かに見守ってくださり、本当にありがとうございます。

沖縄は、日本のいちばん南に位置する島です。
海に囲まれたこの島は、長い時間をかけて、さまざまな文化と出会い、受け入れ、そして自分たちの形へと育ててきました。
その積み重なりが、今の沖縄独特の文化や感覚をつくっているのだと思います。

工房で日々仕事をしていると、その「受け入れる力」が、ものづくりの現場にも深く息づいていることを感じます。
技術や手順だけでなく、人それぞれの感じ方や考え方、テンポや迷いも含めて、どう受け止めるのか。
私はいつも、自分自身がどんな感覚でそこに立つべきなのかを、静かに問い続けています。

その問いかけが、めぐりめぐって、
布に、色に、そして空間に循環していく。
そんな未来を、どこかで信じながら、ものづくりに向き合っているように思います。


ものづくりに宿る、祈りと時間

ものをつくるという行為には、
どこか祈りや願いのようなものが自然と含まれている――
私は、そう感じることがあります。

それは、意識して込めるというよりも、
人と関わり、時間を重ね、迷い、考え続ける中で、
いつの間にか滲み出てくるものなのかもしれません。

私自身、作品づくりの面白さは、
使ってくださる方や、関わってきた仲間たちとのやりとりが、
思いがけない形で作品へと変わっていくところにあると感じています。

型置き
琉球紅型訪問着「うむい(思い)」 第57回西部伝統工芸展 日本工芸会西部支部長賞

すぐに反応が返ってきて、化学反応のように発想が生まれることもあれば、
何年も時間が経ってから、ふと形になることもあります。
その時間差や余白も含めて、
ものづくりに携わる者に許された、静かな楽しみなのだと思っています。


若い世代との、思いがけない出会い

最近、その「循環」をあらためて感じる出来事がありました。

私たちの工房で働いてくれている崎村歩未さん
彼女は、工房の中では一つの工程を任されている職人でありながら、
作家としても自身の表現を続けている存在です。

そんな彼女のお兄さんが、小学校の先生をされているというご縁から、
地域の小学校で行われたチャリティーバザーの授業に関わらせていただく機会が生まれました。
結果として、工房にとっても、私自身にとっても、とても学びの多い時間になったと感じています。


子どもたちがつくる「小さな社会」

この取り組みは、
子どもたち自身が一から企画を立て、
地域の協力者と連携し、
ものづくりを行い、価格を決め、販売し、
その収益を寄付につなげる――
そんな一連の流れを体験する、授業の一環でした。

私たちは「教える立場」というより、
地域の一員として、そっと関わらせていただく存在でした。

どんなものをつくるのか。
いくらで売るのか。
なぜ寄付をするのか。

子どもたちが真剣に考え、話し合う姿を見ていると、
社会の縮図のようなものが、そこに静かに立ち上がっているように感じられました。


地域の中で、同じ感覚に出会う

最初の説明のために、私が学校を訪ねた日。
偶然にも、同じく協力者として関わっていた地域のパン屋さんが、
隣の教室でプレゼンテーションの準備をされていました。

実はそのパン屋さん、
私が昔から大好きなお店で、
バタークリームのバターロールをずっと作り続けている、とても大切な存在です。

思わず少し興奮して、店主の方に声をかけてしまいました。
「同じ感覚で、この地域に関われていることが、こんなにも嬉しいのか」と、
そのとき、あらためて実感したのです。


地元ではない場所で感じる、つながり

その小学校があるのは浦添市
私自身の地元は那覇市なので、隣の市町村になります。
けれど不思議なことに、浦添には、
これまでお世話になってきた先輩方や、
関わりの深い人たちが多く暮らしている場所でもあります。

「地元」という言葉だけでは測れない、
人とのつながりや時間の重なり。
今回の関わりは、
紅型という仕事を通して、
自分たちの存在や営みを知ってもらう機会を、
そっと手渡してもらったような感覚でもありました。


おわりに

ものづくりは、工房の中だけで完結するものではありません。
人と人のあいだで、
世代を越えて、
地域を越えて、
ゆっくりと循環していくものなのだと思います。

今回の小さな出来事も、
すぐに何か目に見える成果を生むものではないかもしれません。
けれど、いつか誰かの中で、
「つくること」や「関わること」について考える
静かなきっかけになってくれたら――
それだけで、十分だと感じています。

これからも、
急がず、誇らず、押しつけず、
紅型という仕事のそばにある時間を、
大切に重ねていきたいと思います。

城間栄市プロフィール

紅型に、時間と祈りを宿す

私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。

布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。


 生い立ちと紅型との距離

1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。

幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。

本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。


外の世界で学んだこと

2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。

異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。

この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。


受賞・出展についての考え方

これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。

こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。

一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。


制作について

制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。

代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。

新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。


今、そしてこれから

現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。

これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。

これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。


おわりに

公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。

Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。

どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。

この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

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