琉球の富を探る ― 茶の湯と舞踊、音楽が交差したひととき【イベント】

皆さん、こんにちは。
いつも紅型(びんがた)を通して琉球文化に関心を寄せてくださり、心より感謝申し上げます。
私たちが日々ものづくりを続けられるのは、皆さまの好奇心や応援の気持ちが大きな原動力になっているからです。改めて、この場を借りてお礼をお伝えいたします。


ギャラリーでの特別な一日

2025年9月23日(火・秋分の日)、城間びんがた工房のギャラリーで「琉球の富を探る 茶の湯のひととき」と題した催しを行いました。

この日は、茶道の北島宗利先生、琉球古典音楽のよなは徹先生、城間勇紀さん・城間あずきさん、琉球舞踊の真境名由佳子先生、福田えりさん、そして私・城間栄市が参加。

琉球古典音楽の生演奏に合わせて舞踊をご覧いただき、その後にお茶席を設けるという流れでしたが、その場の緊張感と美しさは言葉以上のものでした。

琉球古典舞踊「いなまずん」を踊る真境名由佳子先生
琉球古典舞踊「かしかき」を踊る福田えりさん

会場は満席。普段なら国立劇場で舞う先生方の踊りや演奏を、至近距離で味わえるという特別な体験に、参加者の皆さまの表情は輝いていました。
「こんなに近くで琉球舞踊を見られるとは思わなかった」という声も多く、文化の力を改めて実感するひとときとなりました。


茶の湯がもたらす静けさ

お茶席もまた、印象的でした。
茶道に馴染みのない私自身にとっても、その空間は凛とした緊張感に包まれ、背筋が自然と伸びるような心地よさがありました。

静かに点てられる一服のお茶。所作のひとつひとつに「丁寧さ」と「誠実さ」が宿り、それは紅型の制作にも通じる精神だと感じました。

この日は特別に、工房ギャラリーの障子や網戸を取り払い、庭を大きく切り取ったように見渡せる設えに。秋分の日の光と緑の背景が舞踊や音楽、お茶を包み込み、まさに「琉球の富」が息づく空間になりました。

北島宗慧先生に茶席を設けていただきました
お茶席の中で宮城武茂先生が読んだ歌
参加された宮城武茂先生とよなは徹先生

祖父・城間栄喜と首里城の記憶

この家は、祖父・城間栄喜(14代目)が平成4年に亡くなるまで暮らしていた場所です。
祖父は38歳で終戦を迎え、避難生活の中で「琉球文化を絶やしてはならない」との思いから、戦後わずか2年で紅型づくりを再開しました。

そして平成4年――首里城が初めて復興を遂げた年に祖父はこの世を去りました。
焼け跡に瓦礫だけが残っていた首里城が再び立ち上がる姿を見届け、安心して旅立ったのかもしれません。今回その家で催しを行えたことは、私にとって深い意味を持ちます。

さらに、この日の舞踊で真境名由佳子先生がまとった衣装は、祖父・栄喜が手描き(筒描き)で制作したもの。約60年前、由佳子先生のおばあさま・佳子先生の舞台のために挑戦的に染められた作品です。
作品集の最後のページに載っているその図案が、舞の中で今も力強く息づいている姿に、祖父もきっと喜んでいると感じました。

城間栄喜作品集「花咲く布 琉球紅型」NHK出版
城間びんがた工房のスタッフ

異なる文化が交差する場所

舞踊、音楽、茶道、そして紅型。
一見別々に見える表現ですが、どれも「人と人をつなぎ、心を豊かにする」という共通点を持っています。

参加された方々からは、
「舞踊の力強さとお茶の静けさの対比が心に残った」
「近い距離で見ることで衣装や音に新たな発見があった」
といった声をいただきました。

こうした感想を通じて、紅型もまた「人と出会い、つながることで生きる工芸」であることを改めて確信しました。


おわりに ― あなたの暮らしに小さな彩りを

今回の「琉球の富を探る 茶の湯のひととき」は、出演いただいた先生方、支えてくださった方々、そして参加された皆さまのおかげで、忘れがたい時間となりました。心より感謝申し上げます。

紅型は単なる布ではなく、人々の想いや自然、暮らしの記憶が刻まれた文化です。
そして文化は、人が出会う場によってさらに輝きを増していきます。

この文章を読んでくださったあなたもまた、この物語の一部です。
どうぞこれからも、一緒に紅型と琉球文化の物語を紡いでいただければ幸いです。

―― 実は、この物語には続きがあります。
今回の取り組みを、東京・世田谷でも開催することができました。舞台となったのは、今回のお茶の先生・北島先生ゆかりの柳澤邸。9月27日には午前と午後の二部構成でお茶席が設けられ、琉球文化の息吹を体験いただく機会となりました。

午前・午後ともに多くの参加者に恵まれ、会場は温かな空気に包まれました。琉球文化に関心を寄せる方々だけでなく、私の友人や知人も足を運んでくださり、直接言葉を交わすことができたことは、かけがえのない時間でした。改めて、すべての出会いとご縁に深く感謝いたします。

「琉球の富」柳宗悦

城間栄市プロフィール 

紅型に、時間と祈りを宿す

私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。

布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。


生い立ちと紅型との距離

1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。

幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。

本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。


外の世界で学んだこと

2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。

異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。

この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。


受賞・出展についての考え方

これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。

こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。

一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。


制作について

制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。

代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。

新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。


今、そしてこれから

現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。

これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。

これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。


おわりに

公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。

Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。

どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。

この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

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