第二の始まり ― 初代ハンカチから40年後

好きなことを形にできる喜び

好きなことを形にできる喜び

自分の好きなものや、心から興味を持てることを形にできる仕事を持てるというのは、本当にありがたいことです。私は「城間びんがた工房」の16代目として、沖縄・琉球に受け継がれてきた紅型を守り、育てています。
長い歴史の中で、多くの方に紅型を知っていただき、支えていただいたことに感謝の気持ちでいっぱいです。

ただ一方で、正直に言えば、まだまだ紅型は若い世代――特に10代や20代の方々には十分に知られていないと感じています。「どうしたらもっと知ってもらえるのだろう?」と日々考えながら、新しい挑戦を続けています。

新しいご縁から生まれたプロジェクト

そんな中で、今回とても面白いご縁をいただきました。沖縄の先輩で、現在は北九州のネスレ営業部にいらっしゃる方からお声がけいただき、アップサイクル財団さんの企画に参加させていただけることになったのです。

「紅型をどう広めていくか」という課題に向き合いながら、このプロジェクトはまさに新しい扉を開くものでした。

紅型の原点 ― 祖父と父の物語

紅型や沖縄のものづくりは、単なる生活の糧としてではなく、「琉球の誇りを守りたい」という強い思いから始まっています。
私の祖父は終戦直後、すべてを失った焦土の中で「琉球の誇りを絶やさない」という決意を胸に紅型を再興しました。祖父にとって紅型は文化を守るための祈りであり、その心は今も工房に息づいています。

そして、父の時代。40年前のことです。当時、紅型はまだ知名度が低く、「どうやったら多くの人に知ってもらえるか」と父は悩みました。そこで、シルクスクリーンという技術を使って量産できる紅型ハンカチをつくったのです。

このハンカチは紅型を知ってもらう入り口として広がり、40年経った今でも、多くの方に愛され続けています。振り返れば、それは「知ってもらうための工夫」であり、伝統工芸を知ってもらうための大きな一歩でした。

ハンカチの見本を作るために制作した型紙

今回のアップサイクル企画について

今回のプロジェクトでは、ネスレのコーヒーパックを再利用した特別な紙が使われています。25%が再生素材でできており、その質感は温かみがあり、紅型の色彩をプリントすることで独自の魅力が生まれました。

紅型の原画をデータ化して印刷した製品は、これまで工芸品に触れる機会が少なかった方々にも気軽に手に取っていただけるアイテムとなりました。「紅型って初めて見た!」という方にとっても、沖縄や紅型の魅力を知る入り口になればと願っています。

SDGsとのつながり

この取り組みは、現代の大きな課題である「持続可能性」への挑戦でもあります。特にSDGsの8番「働きがいも経済成長も」、11番「住み続けられるまちづくりを」、12番「つくる責任つかう責任」、13番「気候変動に具体的な対策を」といった目標に関わるものです。

紅型の伝統は「資源を大切に使いながら、美しいものを生み出す」という精神に支えられてきました。このアップサイクルの試みは、その精神を現代の形に合わせて再び示すものだと考えています。

特にヨーロッパを中心とした海外では、サステナブルなものづくりへの関心が高まっています。沖縄の島々が持つ独自の文化や工芸を、環境への配慮と共に伝えることは、海外の方々にも深く響くはずです。

未来への希望

今回の企画は、私にとって「第二弾」とも言える取り組みです。40年前に父が挑戦した「知ってもらうための紅型ハンカチ」と同じように、「知ってもらうための新しい入口」をつくるものだからです。

紅型をまだ知らない人に伝えること。
沖縄や琉球の誇りを次の世代へ残すこと。
そして、サステナブルな視点から世界へ広げていくこと。

そのどれもが、この工房が歩むべき道だと思っています。紅型は、沖縄の海や風や人々の物語を色と形に込めてきました。このアップサイクル企画もまた、新しい「紅型の物語」の始まりです。

どうぞこの一枚を手に取っていただき、沖縄の文化と未来を一緒に感じていただけたら幸いです。

自分自身が感じたこと

この取り組みを通じて、改めて「持続可能性」という言葉について考えさせられました。正直なところ、これまでの私はSDGsというものを、どこか遠い世界の高尚な取り組みのように感じていました。

私自身は常に、「どうやって明日へつなげるか」「どうやって来年へ受け渡すか」という気持ちで工芸に向き合ってきました。祖父の時代には戦争で全てを失い、工房も家も焼け落ち、そこからゼロの状態で再出発しました。さらに50年前、本土復帰の時代には、父が民族衣装から着物の世界への挑戦を始めました。紅型はいつも復興と挑戦の中で生き延びてきたのです。

ですから、「持続可能性」とは日々の現場で必死にものづくりを続けてきた私たちにとって、あまりに当たり前すぎて、逆に深く考える機会が少なかったのかもしれません。

しかし、この世界的なトレンドに触れ、そして実際に参加することで、「立ち止まって考える」大切さを学びました。今はまだ完全に腹落ちしているわけではありませんが、それでもこうして考え続けること自体が、未来をつくる一歩になると信じています。

この出会いと学びに感謝しながら、紅型を通じて「沖縄の誇り」と「持続可能な未来」をつないでいきたいと思います。

この取り組みが日本経済新聞に取り上げられました。

7月24日のOTVに出ました。

アップサイクル TSUMGI さんのHPで購入出来ます

7月23日の沖縄タイムスに乗りました
7月26日の琉球新報に乗りました

紅型に、時間と祈りを宿す

私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。

布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。


城間栄市プロフィール 生い立ちと紅型との距離

1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。

幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。

本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。


外の世界で学んだこと

2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。

異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。

この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。


受賞・出展についての考え方

これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。

こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。

一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。


制作について

制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。

代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。

新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。


今、そしてこれから

現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。

これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。

これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。


おわりに

公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。

Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。

どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。

この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

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