「島つなぎ」― 海を越えて交わる物語【作品解説

島つなぎ」について

「島つなぎ」は、沖縄の自然や文化、そして紅型にポケモンが遊びにやって来たような世界を描いた作品です。
紅型の布には、私自身の子ども時代の記憶や日常の風景が随所に織り込まれています。そのひとつが「アダンの葉」です。

アダンはヤシ科の植物で、沖縄の海岸の入口によく見られます。子どもの頃、何度もその林を抜けて白い砂浜と青い海に出た経験がありました。アダンをくぐった瞬間に広がる景色は、いつも心をわくわくさせ、冒険心をかき立ててくれました。その記憶を作品に込めることで、観る人が海へと足を踏み入れるような感覚を共有できればと思いました。

「島つなぎ」というタイトルには、島々を結ぶだけでなく、人と人、文化と文化、過去と未来をつなぐという意味が込められています。紅型は王族の衣装として誇りを象徴してきましたが、現代に生きる私にとっては、人を結びつけるコミュニケーションの手段であり、未来へと受け継ぐ文化そのものです。

ポケモンとの出会い

今回、ポケモンと紅型のコラボレーションという機会をいただきました。
「ポケモンと伝統工芸を掛け合わせると、どんな化学反応が起こるのか?」
その問いは、私にとって大きな挑戦でした。

紅型は、16代目として工房で育った私にとって呼吸のように自然な存在であり、意識して「表現する」と考えることはあまりありませんでした。ところがポケモンと向き合う中で、「自分の世界に彼らをどう迎え入れるか」を考えることになり、初めて自分の内側にあるストーリーと紅型の図案を結びつける体験が始まったのです。

ポケモンが沖縄の自然や文化、紅型の世界に遊びに来る――そのイメージを重ねることで、「島つなぎ」という作品は形になっていきました。構想から完成までは約2年を要しましたが、それは「伝統と現代」「沖縄と世界」「自分の物語とポケモン」という異なる要素をどうつなぐかを模索する、自分自身を耕し直す時間でもありました。

体験談へとつながる

そもそも私が「つながり」というテーマを強く意識するようになったのは、インドネシアでの体験が大きく影響しています。
私は那覇市首里山川町から出たことがないまま育ちましたが、紅型のルーツが日本や中国、さらには東南アジア、ジャワ島へと及ぶことを知り、「一番遠いルーツに触れてみたい」という思いでインドネシアに渡りました。

ジャワ島のジョグジャカルタでの暮らしは、30人ほどの仲間と共同生活を送り、食事も風呂も共にしながら、朝から夕方まで染色の仕事に浸る毎日でした。言葉もわからないまま飛び込みましたが、現地の人々は家族のように迎えてくれました。その温かさは沖縄の人々にどこか似ていて、私は「島の人々と関わる感覚」が自分の中に深く刻まれていることを実感しました。

こうした体験が、ポケモンと紅型をつなぎ合わせる今回の挑戦においても、大きな支えとなりました。異なるもの同士が出会い、新しい物語を生み出す。そこに私は「島をつなぐ文化」の可能性を見出しています。

最後に

「島つなぎ」は、私の個人的な体験と記憶、そして沖縄の歴史と文化を重ね合わせた作品です。
紅型の布に染められた色や形の一つひとつには、沖縄の風や海や人々の記憶が宿っています。

どうぞ「島つなぎ」を通して、その物語とつながりを感じていただければ幸いです。

色草稿
反物の状態
額装です 
藍染め バージョンです
藍に入れる準備です
藍のカメに入れています
藍から出したばかりの状態です
藍に入れる前 染まってほしくない所に 糊伏せを行なって 砂をかけています

紅型に、時間と祈りを宿す

私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。

布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。


城間栄市プロフィール 生い立ちと紅型との距離

1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。

幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。

本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。


外の世界で学んだこと

2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。

異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。

この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。


受賞・出展についての考え方

これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。

こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。

一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。


制作について

制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。

代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。

新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。


今、そしてこれから

現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。

これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。

これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。


おわりに

公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。

Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。

どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。

この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

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