「島つなぎ」― 海を越えて交わる物語
2025.08.24
島つなぎ」について
「島つなぎ」は、沖縄の自然や文化、そして紅型にポケモンが遊びにやって来たような世界を描いた作品です。
紅型の布には、私自身の子ども時代の記憶や日常の風景が随所に織り込まれています。そのひとつが「アダンの葉」です。
アダンはヤシ科の植物で、沖縄の海岸の入口によく見られます。子どもの頃、何度もその林を抜けて白い砂浜と青い海に出た経験がありました。アダンをくぐった瞬間に広がる景色は、いつも心をわくわくさせ、冒険心をかき立ててくれました。その記憶を作品に込めることで、観る人が海へと足を踏み入れるような感覚を共有できればと思いました。
「島つなぎ」というタイトルには、島々を結ぶだけでなく、人と人、文化と文化、過去と未来をつなぐという意味が込められています。紅型は王族の衣装として誇りを象徴してきましたが、現代に生きる私にとっては、人を結びつけるコミュニケーションの手段であり、未来へと受け継ぐ文化そのものです。
ポケモンとの出会い
今回、ポケモンと紅型のコラボレーションという機会をいただきました。
「ポケモンと伝統工芸を掛け合わせると、どんな化学反応が起こるのか?」
その問いは、私にとって大きな挑戦でした。
紅型は、16代目として工房で育った私にとって呼吸のように自然な存在であり、意識して「表現する」と考えることはあまりありませんでした。ところがポケモンと向き合う中で、「自分の世界に彼らをどう迎え入れるか」を考えることになり、初めて自分の内側にあるストーリーと紅型の図案を結びつける体験が始まったのです。
ポケモンが沖縄の自然や文化、紅型の世界に遊びに来る――そのイメージを重ねることで、「島つなぎ」という作品は形になっていきました。構想から完成までは約2年を要しましたが、それは「伝統と現代」「沖縄と世界」「自分の物語とポケモン」という異なる要素をどうつなぐかを模索する、自分自身を耕し直す時間でもありました。
体験談へとつながる
そもそも私が「つながり」というテーマを強く意識するようになったのは、インドネシアでの体験が大きく影響しています。
私は那覇市首里山川町から出たことがないまま育ちましたが、紅型のルーツが日本や中国、さらには東南アジア、ジャワ島へと及ぶことを知り、「一番遠いルーツに触れてみたい」という思いでインドネシアに渡りました。
ジャワ島のジョグジャカルタでの暮らしは、30人ほどの仲間と共同生活を送り、食事も風呂も共にしながら、朝から夕方まで染色の仕事に浸る毎日でした。言葉もわからないまま飛び込みましたが、現地の人々は家族のように迎えてくれました。その温かさは沖縄の人々にどこか似ていて、私は「島の人々と関わる感覚」が自分の中に深く刻まれていることを実感しました。
こうした体験が、ポケモンと紅型をつなぎ合わせる今回の挑戦においても、大きな支えとなりました。異なるもの同士が出会い、新しい物語を生み出す。そこに私は「島をつなぐ文化」の可能性を見出しています。
最後に
「島つなぎ」は、私の個人的な体験と記憶、そして沖縄の歴史と文化を重ね合わせた作品です。
紅型の布に染められた色や形の一つひとつには、沖縄の風や海や人々の記憶が宿っています。
どうぞ「島つなぎ」を通して、その物語とつながりを感じていただければ幸いです。
















公式ホームページでは、紅型の歴史や伝統、私自身の制作にかける思いなどを、やや丁寧に、文化的な視点も交えながら発信しています。一方でInstagramでは、職人の日常や工房のちょっとした風景、沖縄の光や緑の中に息づく“暮らしに根ざした紅型”の表情を気軽に紹介しています。たとえば、朝の染料作りの様子や、工房の裏庭で揺れる福木の葉っぱ、時には染めたての布を空にかざした一瞬の写真など、ものづくりの空気感を身近に感じていただける内容を心がけています。
紅型は決して遠い伝統ではなく、今を生きる私たちの日々とともにあるものです。これからも新しい挑戦と日々の積み重ねを大切にしながら、沖縄の染め物文化の魅力を発信し続けていきたいと思います。ぜひInstagramものぞいていただき、工房の日常や沖縄の彩りを一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。

城間栄市 プロフィール昭和52年(1977年)、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育つ。
学歴・海外研修
- 平成15年(2003年)より2年間、インドネシア・ジョグジャカルタ特別州に滞在し、バティック(ろうけつ染)を学ぶ。
- 帰国後は城間びんがた工房にて、琉球びんがたの制作・指導に専念。
受賞・展覧会歴
- 平成24年:西部工芸展 福岡市長賞 受賞
- 平成25年:沖展 正会員に推挙
- 平成26年:西部工芸展 奨励賞 受賞
- 平成27年:日本工芸会 新人賞を受賞し、正会員に推挙
- 令和3年:西部工芸展 沖縄タイムス社賞 受賞
- 令和4年:MOA美術館 岡田茂吉賞 大賞 受賞
- 令和5年:西部工芸展 西部支部長賞 受賞
主な出展
- 「ポケモン工芸展」に出展
- 文化庁主催「日中韓芸術祭」に出展
- 令和6年:文化庁「技を極める」展に出展
現在の役職・活動
- 城間びんがた工房 十六代 代表
- 日本工芸会 正会員
- 沖展(沖縄タイムス社主催公募展)染色部門 審査員
- 沖縄県立芸術大学 非常勤講師
プロフィール概要
はじめまして。城間びんがた工房16代目の城間栄市です。私は1977年、十五代・城間栄順の長男として沖縄に生まれ、幼いころから紅型の仕事に親しみながら育ちました。工房に入った後は父のもとで修行を重ねつつ、沖縄県芸術祭「沖展」に初入選したことをきっかけに本格的に紅型作家として歩み始めました。
これまでの道のりの中で、沖展賞や日本工芸会の新人賞、西部伝統工芸展での沖縄タイムス社賞・西部支部長賞、そしてMOA美術館の岡田茂吉賞大賞など、さまざまな賞をいただくことができました。また、沖展の正会員や日本工芸会の正会員として活動しながら、審査員として後進の作品にも向き合う立場も経験しています。
私自身の制作で特に印象に残っているのは、「波の歌」という紅型着物の作品です。これは沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、藍型を基調とした布に躍動感をもって表現したものです。伝統の技法を守りつつ、そこに自分なりの視点や工夫を重ねることで、新しい紅型の可能性を切り拓きたいという思いが込められています。こうした活動を通して、紅型が沖縄の誇る伝統工芸であるだけでなく、日本、そして世界に発信できるアートであると感じています。
20代の頃にはアジア各地を巡り、2003年から2年間はインドネシア・ジョグジャカルタでバティック(ろうけつ染)を学びました。現地での生活や工芸の現場を通して、異文化の技術や感性にふれ、自分自身の紅型への向き合い方にも大きな影響を受けました。伝統を守るだけでなく、常に新しい刺激や発見を大切にしています。
最近では、「ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―」など、世界を巡回する企画展にも参加する機会が増えてきました。紅型の技法でポケモンを表現するというチャレンジは、私自身にとっても大きな刺激となりましたし、沖縄の紅型が海外のお客様にも響く可能性を感じています。
メディアにも多く取り上げていただくようになりました。テレビや新聞、ウェブメディアで工房の日常や制作現場が紹介されるたびに、「300年前と変わらない手仕事」に込めた想いを、多くの方に伝えたいと強く思います。