びんがたの新しいかたち──ハンカチから広がる琉球伝統工芸の魅力
2025.08.22
いつも紅型(びんがた)へのあたたかいご関心を寄せていただき、心よりありがとうございます。皆さまからいただくまなざしやご声援が、私たちの挑戦を支える大きな原動力となっていることを、日々強く実感しています。
びんがたは、かつて琉球王国と呼ばれた時代に生まれました。中国や東南アジアとの交易を通じて技術的な影響を受けつつも、沖縄ならではの感性と気候風土の中で育まれ、鮮やかな色彩と繊細な文様が王族や士族の装いを彩ってきました。しかし戦争や時代の変化によって、その存続すら危ぶまれる時期もあったのです。だからこそ私たち城間びんがた工房は、**「過去から学び、未来へつなぐ」**という使命を胸に、今日も職人たちと共にものづくりに励んでいます。
私たちが手がけるのは主に着物や帯ですが、タペストリーや小物も製作しています。染料や型紙といった素材を可能な限り昔ながらのものにこだわり、幾度も色を重ね、乾かし、また重ねるという地道な工程を丁寧に積み重ねています。こうした手仕事の積み重ねがあるからこそ、一枚の布には独特の気配や温もりが宿るのです。
今でこそ「びんがた」という名前は広く知られるようになりましたが、40年前は県内でも知名度が低く、県外ではほとんど知られていませんでした。そうした中で、十五代目・城間栄順が「もっと多くの人にびんがたを知ってもらいたい」と挑戦したのが、びんがたのハンカチです。高価な着物や帯に限定されていたびんがたを、誰もが手に取れる小さな布に染める。その発想は工房にとって大きな転機となりました。
現在では30種類以上の柄や色合いが生まれ、贈り物や日常使いとして多くの方に親しまれています。古典柄を基にしながら現代の感覚を加え、鮮やかな原色から柔らかなパステルまで幅広く展開。世代やシーンを問わず選べる楽しさが、多くの方の心をつかんでいます。
もちろん、そのデザインはすべて職人の手から生まれます。型紙は一枚一枚手彫りで、緻密な文様を掘り出す高度な技術を必要とします。豆腐を乾燥させた「ルクジュー」を下敷きに使うなど、昔ながらの工夫も息づいています。こうして生まれたデザインをシルクスクリーンに応用することで量産性を高めつつ、手染めならではの深みのある発色を実現しました。




このハンカチは、華やかさと繊細さを併せ持ちながらも、日常に寄り添う存在です。若い世代にとっては、びんがたを身近に感じる入口ともなっています。実際に購入された方からは「沖縄旅行のお土産に選んだ」「大切な人への贈り物にした」という声をいただき、職人の思いが暮らしの中で生きる瞬間を知ることは、私たちにとって大きな喜びです。
この活動を支えてくださるのは、**「びんがたをもっと知りたい」「琉球文化を大切にしたい」**という皆さまの想いです。その温かな気持ちが、職人たちの挑戦の原動力になっています。そして次世代の職人が育ち、新しい感性を取り込むことで、びんがたはこれからも豊かに進化していくでしょう。
びんがたは、単なる布ではなく、技術と感性の結晶であり、世代を超えて受け継がれてきた歴史そのものです。社会が大きく変化する時代であっても、その美しさと精神は変わらず、多くの人々に感動を与え続けると信じています。
どうか皆さまも、この物語の一部としてびんがたと関わり、楽しんでいただければ幸いです。私たち城間びんがた工房は、伝統と新しい発想を結び合わせながら、琉球の豊かな文化と心を未来へ届けてまいります。これからも、皆さまの応援と関心が、職人にとって何よりの励みです。


公式ホームページでは、紅型の歴史や伝統、私自身の制作にかける思いなどを、やや丁寧に、文化的な視点も交えながら発信しています。一方でInstagramでは、職人の日常や工房のちょっとした風景、沖縄の光や緑の中に息づく“暮らしに根ざした紅型”の表情を気軽に紹介しています。たとえば、朝の染料作りの様子や、工房の裏庭で揺れる福木の葉っぱ、時には染めたての布を空にかざした一瞬の写真など、ものづくりの空気感を身近に感じていただける内容を心がけています。
紅型は決して遠い伝統ではなく、今を生きる私たちの日々とともにあるものです。これからも新しい挑戦と日々の積み重ねを大切にしながら、沖縄の染め物文化の魅力を発信し続けていきたいと思います。ぜひInstagramものぞいていただき、工房の日常や沖縄の彩りを一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。

城間栄市 プロフィール昭和52年(1977年)、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育つ。
学歴・海外研修
- 平成15年(2003年)より2年間、インドネシア・ジョグジャカルタ特別州に滞在し、バティック(ろうけつ染)を学ぶ。
- 帰国後は城間びんがた工房にて、琉球びんがたの制作・指導に専念。
受賞・展覧会歴
- 平成24年:西部工芸展 福岡市長賞 受賞
- 平成25年:沖展 正会員に推挙
- 平成26年:西部工芸展 奨励賞 受賞
- 平成27年:日本工芸会 新人賞を受賞し、正会員に推挙
- 令和3年:西部工芸展 沖縄タイムス社賞 受賞
- 令和4年:MOA美術館 岡田茂吉賞 大賞 受賞
- 令和5年:西部工芸展 西部支部長賞 受賞
主な出展
- 「ポケモン工芸展」に出展
- 文化庁主催「日中韓芸術祭」に出展
- 令和6年:文化庁「技を極める」展に出展
現在の役職・活動
- 城間びんがた工房 十六代 代表
- 日本工芸会 正会員
- 沖展(沖縄タイムス社主催公募展)染色部門 審査員
- 沖縄県立芸術大学 非常勤講師
プロフィール概要
はじめまして。城間びんがた工房16代目の城間栄市です。私は1977年、十五代・城間栄順の長男として沖縄に生まれ、幼いころから紅型の仕事に親しみながら育ちました。工房に入った後は父のもとで修行を重ねつつ、沖縄県芸術祭「沖展」に初入選したことをきっかけに本格的に紅型作家として歩み始めました。
これまでの道のりの中で、沖展賞や日本工芸会の新人賞、西部伝統工芸展での沖縄タイムス社賞・西部支部長賞、そしてMOA美術館の岡田茂吉賞大賞など、さまざまな賞をいただくことができました。また、沖展の正会員や日本工芸会の正会員として活動しながら、審査員として後進の作品にも向き合う立場も経験しています。
私自身の制作で特に印象に残っているのは、「波の歌」という紅型着物の作品です。これは沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、藍型を基調とした布に躍動感をもって表現したものです。伝統の技法を守りつつ、そこに自分なりの視点や工夫を重ねることで、新しい紅型の可能性を切り拓きたいという思いが込められています。こうした活動を通して、紅型が沖縄の誇る伝統工芸であるだけでなく、日本、そして世界に発信できるアートであると感じています。
20代の頃にはアジア各地を巡り、2003年から2年間はインドネシア・ジョグジャカルタでバティック(ろうけつ染)を学びました。現地での生活や工芸の現場を通して、異文化の技術や感性にふれ、自分自身の紅型への向き合い方にも大きな影響を受けました。伝統を守るだけでなく、常に新しい刺激や発見を大切にしています。
最近では、「ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―」など、世界を巡回する企画展にも参加する機会が増えてきました。紅型の技法でポケモンを表現するというチャレンジは、私自身にとっても大きな刺激となりましたし、沖縄の紅型が海外のお客様にも響く可能性を感じています。
メディアにも多く取り上げていただくようになりました。テレビや新聞、ウェブメディアで工房の日常や制作現場が紹介されるたびに、「300年前と変わらない手仕事」に込めた想いを、多くの方に伝えたいと強く思います。