静かに響く、音と色のあいだ。【イベント】
2026.03.23
最近は雨の日が少し増えてきて、
春前線の影響でしょうか、沖縄らしいやわらかな湿り気を感じる季節になってきました。
朝、工房の庭に出ると、
空気の中に少しだけ温度が増していて、
植物たちもどこか生き生きとしています。
梅の実もふっくらと膨らみ始め、
風の中にもほんの少しだけ、春の気配が混ざっている。
こういう何気ない変化の中に、
この島の時間の流れを感じることがよくあります。
工房の中でも、新しい仲間が少しずつ増えてきて、
それぞれが自分の場所を見つけながら、
静かに、でも確実に流れが動き始めています。
慌ただしいわけではないけれど、
確実に何かが前に進んでいる。
そんな感覚の中で日々を過ごしています。
そんな時間の中で、
2ヶ月前から準備を始めてきた
「箏と紅型」の会も、いよいよ形になってきました。

最初はまだ輪郭の曖昧なイメージでしたが、
少しずつ人が関わり、言葉が重なり、
今は「もうすぐ始まる」という実感とともに、
自分の中にも自然と楽しみが広がってきています。
おかげさまで、
ご予約も少しずつ増えてきて、
現在はちょうど半分ほどのお席が埋まってきました。
本当にありがとうございます。
今回ご一緒する町田くんたちの活動も、
ここ数年でさらに広がりを見せています。
日々、舞台に立ち続けながら、
音と身体で琉球芸能を表現し、
それを今の時代の言葉で届けようとしています。
彼らの活動は、舞台だけにとどまらず、
さまざまな形で発信を続けていて、
沖縄タイムスでの連載なども通して、
琉球文化の現在地を丁寧に言葉にしています。
ただ継承するだけではなく、
どうやって次に手渡していくのか。
その問いに向き合いながら、
現場で積み重ねている姿は、
とても誠実で、静かな強さを感じます。
僕自身も、染色という違う分野にいながら、
どこか同じ根を見ているような感覚があります。
僕は日々、型を彫り、糊を置き、色を差す。
彼らは音を出し、身体で語る。
やっていることは違うけれど、
その奥にあるものは、きっと似ています。
派手な完成の裏にある、
誰にも見えない地味な時間。
その積み重ねを信じられるかどうか。
それが、文化を続けていく上で
一番大事なことなのかもしれません。
今回の舞台は「素踊り」。
装束や化粧に頼らず、
身体そのもの、音そのもので立つ。
削っても残るもの。
飾らなくても立てるもの。
その話を聞いたとき、
とても嬉しくなりました。
紅型もまた、
そうありたいと思っています。
鮮やかな色の奥に、
静かな時間があること。
その奥行きごと、
感じてもらえるような在り方でありたい。
この時間は、
何かを証明するための場ではありません。
音があり、
色があり、
そこに人が集まる。
ただそれだけのこと。
けれどその中で、
言葉にならない何かが
静かに残っていくなら、
それで十分だと思っています。
琉球の文化に少し触れてみたい方、
ゆっくりとした時間の中で、
同じような感覚を持つ人たちと出会ってみたい方。
そんな方々と、
同じ空間を共有できたら嬉しいです。
この場をきっかけに、
また新しいつながりや、
小さな対話が生まれていくことも、
楽しみにしています。
そして今回は、
16時からの舞台のあとに、
18時頃からささやかな懇親の時間もご用意しています。
軽いお食事とお酒、ソフトドリンクなどを囲みながら、
出演者の皆さん、そして工房の私たちとも、
少しゆっくりと言葉を交わせる時間になればと思っています。
舞台で感じたことを、
そのままにせず、
少しだけ言葉にしてみる。
そんな時間もまた、
この場の大切な一部になる気がしています。
よんな〜よんな〜と。
急がず、でも止まらず。
沖縄から、
静かに、でも確かに、
今の時間を届けていきたいと思います。
当日、
音と色のあいだで、
同じ空気を吸えることを、
楽しみにしています。
城間栄市プロフィール
紅型に、時間と祈りを宿す
私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。
布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。
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生い立ちと紅型との距離
1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。
幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。
本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。
外の世界で学んだこと
2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。
異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。
この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。
受賞・出展についての考え方
これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。
こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。
一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。
制作について
制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。
代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。
新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。
今、そしてこれから
現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。
これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。
これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。
おわりに
公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。
Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。
どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。
この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

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