― 沖縄に流れる永遠の糸
2025.10.11
こんにちは。いつも応援してくださりありがとうございます。
紅型を通して、琉球の文化が今も息づいていることに、心から感謝しています。
私は現在、城間びんがた工房の16代目です。
この工房は琉球王国の時代から続き、かつては王族や士族の衣装を染めるために発展してきました。
沖縄という島は、日本、中国、東南アジア、ジャワ島など、多くの文化が交わる場所。
紅型はその交差点で生まれた、まさに“王族の工芸”です。

王族の衣を染める職人たちは、材料も時間も惜しまず、祈るような気持ちで布に向かっていました。
「手は祈るように染める」――そう言われてきたように、心を整え、全てを込めて染め上げる。
思いがけず良い色が出たときは、「生まれ出てきた」と謙虚に受け止める。
その精神こそが、紅型の根にある職人の誇りであり、美の源泉です。
300年以上続く城間びんがたの歴史は、決して平坦ではありませんでした。
廃藩置県、琉球処分、そして太平洋戦争――。
それでも一度も途切れることなく受け継がれてきたのは、祖父・栄喜の存在があったからです。

祖父は終戦からわずか2年後、避難生活の中で再び染め物を始めました。
戦争で妻を亡くし、幼い三人の子どもを抱えながらも、「紅型を絶やしてはいけない」と信じ続けたのです。
周囲からは「今は食べることが先だ」「工芸なんて夢物語だ」と言われながらも、
祖父は「琉球の誇りを残さねばならない」と挑み続けました。
紅型は祖父にとって、生きるための仕事ではなく、“命を懸けて守るべき文化”だったのです。






その想いを受け継いだ父・栄順は、民族衣装から和服の世界へと新しい道を切り開きました。
そして今、私たちの工房では「ものづくりを通して琉球の思いを守り、
仕事を通して心と財布を豊かにし、未来の沖縄を守る」という理念を掲げています。
この言葉は、私が工房を継いだ12年前から考え続け、6年前に理念の原型をつくり、
2年前に現在の形として定めたものです。
当時、世の中はSNSの普及などで、職人にも「発信」が求められる時代になっていました。
しかし祖父も父も、こう言っていました。
「良い仕事をしていれば、誰かが必ず見てくれる。だから発信なんて必要ない」。
その言葉を大切にしながらも、私は考えました。
どうすれば、職人たちの想いや紅型の本質を、次の世代に伝えられるのか。
どうすれば、紅型が未来の暮らしの中で息づき続けられるのか――。
この問いが、理念を生むきっかけになりました。
この理念は、私ひとりの考えではありません。
祖父の祈り、父の挑戦、そして琉球の人々が守り続けた誇り。
そのすべてを受け継いで生まれた言葉です。
琉球という島は、古くから多様な文化が交わり、互いを受け入れながら成長してきました。
その中で人々は、違いを恐れず、個性を尊び、共に文化を育んできた。
それこそが「琉球の思い」だと私は感じています。
だからこそ、この小さな島には数えきれないほどの工芸が生まれ、
今も多くの若い世代がその世界に魅せられ、仲間として増え続けています。
それは、島が持つ“受け入れる力”であり、“育む力”の証です。
16代目として私が果たすべき役割は、
自分の仕事に惚れ込む人を増やし、
その人が自分らしく輝ける環境を整えることだと思っています。
仕事に惚れ、個性を発揮することで、初めて「その人にしかできないものづくり」が生まれる。
それこそが、次の時代をつくる力になると信じています。




「ものづくりを通して琉球の思いを守る」という理念は、理想ではなく現実です。
それは、琉球という国がもともと持っていた生き方の姿そのもの。
多様な文化を受け入れ、混ざり合い、そこから新しい美を生み出してきた――
その歴史が、いまも私たちの手の中に流れています。
戦後80年を迎える今、私は改めて感じます。
紅型は「布を染める技」ではなく、「生きる姿勢」そのものだと。
琉球の美しさ、祈り、そして誇りが、ひとつひとつの色の中に息づいています。
これからも、私たちは祈るように染め続けます。
未来へ――琉球の思いをつなぐために。

LINE公式 https://line.me/R/ti/p/@275zrjgg

Instagram https://www.instagram.com/shiromabingata16/
公式ホームページでは、紅型の歴史や伝統、私自身の制作にかける思いなどを、やや丁寧に、文化的な視点も交えながら発信しています。一方でInstagramでは、職人の日常や工房のちょっとした風景、沖縄の光や緑の中に息づく“暮らしに根ざした紅型”の表情を気軽に紹介しています。たとえば、朝の染料作りの様子や、工房の裏庭で揺れる福木の葉っぱ、時には染めたての布を空にかざした一瞬の写真など、ものづくりの空気感を身近に感じていただける内容を心がけています。
紅型は決して遠い伝統ではなく、今を生きる私たちの日々とともにあるものです。これからも新しい挑戦と日々の積み重ねを大切にしながら、沖縄の染め物文化の魅力を発信し続けていきたいと思います。ぜひInstagramものぞいていただき、工房の日常や沖縄の彩りを一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。

城間栄市 プロフィール昭和52年(1977年)、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育つ。
学歴・海外研修
- 平成15年(2003年)より2年間、インドネシア・ジョグジャカルタ特別州に滞在し、バティック(ろうけつ染)を学ぶ。
- 帰国後は城間びんがた工房にて、琉球びんがたの制作・指導に専念。
受賞・展覧会歴
- 平成24年:西部工芸展 福岡市長賞 受賞
- 平成25年:沖展 正会員に推挙
- 平成26年:西部工芸展 奨励賞 受賞
- 平成27年:日本工芸会 新人賞を受賞し、正会員に推挙
- 令和3年:西部工芸展 沖縄タイムス社賞 受賞
- 令和4年:MOA美術館 岡田茂吉賞 大賞 受賞
- 令和5年:西部工芸展 西部支部長賞 受賞
主な出展
- 「ポケモン工芸展」に出展
- 文化庁主催「日中韓芸術祭」に出展
- 令和6年:文化庁「技を極める」展に出展
現在の役職・活動
- 城間びんがた工房 十六代 代表
- 日本工芸会 正会員
- 沖展(沖縄タイムス社主催公募展)染色部門 審査員
- 沖縄県立芸術大学 非常勤講師
プロフィール概要
はじめまして。城間びんがた工房16代目の城間栄市です。私は1977年、十五代・城間栄順の長男として沖縄に生まれ、幼いころから紅型の仕事に親しみながら育ちました。工房に入った後は父のもとで修行を重ねつつ、沖縄県芸術祭「沖展」に初入選したことをきっかけに本格的に紅型作家として歩み始めました。
これまでの道のりの中で、沖展賞や日本工芸会の新人賞、西部伝統工芸展での沖縄タイムス社賞・西部支部長賞、そしてMOA美術館の岡田茂吉賞大賞など、さまざまな賞をいただくことができました。また、沖展の正会員や日本工芸会の正会員として活動しながら、審査員として後進の作品にも向き合う立場も経験しています。
私自身の制作で特に印象に残っているのは、「波の歌」という紅型着物の作品です。これは沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、藍型を基調とした布に躍動感をもって表現したものです。伝統の技法を守りつつ、そこに自分なりの視点や工夫を重ねることで、新しい紅型の可能性を切り拓きたいという思いが込められています。こうした活動を通して、紅型が沖縄の誇る伝統工芸であるだけでなく、日本、そして世界に発信できるアートであると感じています。
20代の頃にはアジア各地を巡り、2003年から2年間はインドネシア・ジョグジャカルタでバティック(ろうけつ染)を学びました。現地での生活や工芸の現場を通して、異文化の技術や感性にふれ、自分自身の紅型への向き合い方にも大きな影響を受けました。伝統を守るだけでなく、常に新しい刺激や発見を大切にしています。
最近では、「ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―」など、世界を巡回する企画展にも参加する機会が増えてきました。紅型の技法でポケモンを表現するというチャレンジは、私自身にとっても大きな刺激となりましたし、沖縄の紅型が海外のお客様にも響く可能性を感じています。
メディアにも多く取り上げていただくようになりました。テレビや新聞、ウェブメディアで工房の日常や制作現場が紹介されるたびに、「300年前と変わらない手仕事」に込めた想いを、多くの方に伝えたいと強く思います。