職人募集、終了しました。― 派手ではない仕事に、確かな誇りがある【工房時間】
2025.11.08
職人募集を終えて
― 手を動かすという選択について ―
※本募集は、現在すでに終了しております。
たくさんの関心とお問い合わせをいただき、誠にありがとうございました。
◆
今回、城間びんがた工房では、久しぶりに職人募集を行いました。
結果や人数について、ここで触れることは控えますが、
この募集を通して、あらためて考えさせられたことがあります。
それは、
「工房が人を迎えるとはどういうことか」
という、ごく根本的な問いでした。
城間びんがた工房は、
琉球王国の時代から続く紅型の技と思想を受け継いできた場所です。
約三百年という時間は、
一つの技法がそのまま続いてきた、というよりも、
その時代ごとの暮らしや価値観と、
静かに折り合いをつけながら生き延びてきた時間だと思っています。
紅型は、決して派手な仕事ではありません。
布を洗い、水に向かい、
色を差し、乾かし、また次の工程へ進む。
一つひとつは地味で、体力も必要で、
効率の良さだけを求めると、遠回りに見える作業ばかりです。
それでも、この仕事を続けてきた理由は、
「これが、紅型だから」
それ以上でも以下でもありません。
◆
戦後、首里の街は焼け野原になりました。
祖父や父の世代は、
道具も材料も十分ではない中で、
廃品や身の回りのものを工夫しながら、染色の仕事を続けてきました。

生活のため、という側面は確かにありました。
けれど、それだけではなかった。
「この仕事を止めてしまったら、
何か大切なものまで失われてしまう」
そんな感覚が、きっとあったのだと思います。
だからこそ、工房での仕事は、
単に技術を覚えることではありません。
手を動かしながら、
その時間の重なりを、体で受け取っていくことでもあります。
◆
今回の募集でお伝えしたのは、
いわゆる“花形”の工程ではありませんでした。
布を洗うこと。
水場で作業をすること。
色差しの基礎を、何度も繰り返すこと。





どれも、作品の表に名前が出る仕事ではありません。
けれど、ここが崩れると、
どれだけ良い図案も、どれだけ美しい配色も、成り立たない。
まさに、作品の土台を支える工程です。
工房では、
「一番大事な工程ほど、静かで地味だ」
という考え方があります。
水洗いひとつをとっても、
水の当て方、糊の落ち具合、布の声を聞くような感覚が求められます。
水の中で、色がふっと立ち上がる瞬間。
それを目にできるのは、
実際にその場に立ち、手を動かしている人だけです。

◆
城間びんがた工房では、
「明るく・仲良く・喜んで働く」
という言葉を、単なるスローガンではなく、
日々の判断基準として大切にしています。
競争よりも、連携。
叱責よりも、確認。
我慢よりも、相談。
年に二回、必ず行う一対一の面談も、
その延長線上にあります。
技術だけでなく、
その人が何を感じ、どんなペースで歩きたいのかを、
言葉にする時間です。
「背中を見て覚えろ」という時代があったことも、
否定はしません。
けれど、いまの時代に工房が続いていくためには、
言葉にして支える仕組みも、同じくらい必要だと感じています。
◆
紅型の世界は、
簡単に成果が見える仕事ではありません。
すぐに評価されることも少ない。
だからこそ、
「この場所で続けていけるかどうか」
それが何より大切になります。
今回の募集を通して、
工房の在り方に関心を持ち、
真剣に考えてくださった方がいたこと。
それ自体が、
この仕事がまだ誰かの心に届いている証だと感じています。
工房は、常に開かれた観光施設ではありません。
けれど、
仕事そのものには、誠実でありたい。
働く環境についても、
できる限り透明でありたいと思っています。
◆
紅型は、
派手さよりも、持続を選んできた工芸です。
静かだけれど、芯のある仕事。
それを支えているのは、
毎日の積み重ねと、人の手です。
今回の募集は終了しましたが、
工房の日々は変わらず続いています。
水を使い、布に向かい、
今日もまた、嘘のない仕事を重ねていく。
この文章が、
「働く」ということを考える誰かにとって、
ひとつの参考や、静かなきっかけになれば幸いです。
城間びんがた工房は、
これからも、
人と技と時間が、無理なく重なっていく場所でありたいと考えています。





📝 工房のようす・コラム紹介
工房の日々の仕事風景や、職人たちの想いを綴ったコラムを
公式ホームページにいくつか掲載しています。
実際の制作の流れや職人の声を感じていただける内容ですので、
どうぞご覧ください。
🔗 城間びんがた工房 公式コラムページ
(URL:https://www.bingata.net/info_list/
たとえば、以下の記事もおすすめです:
- 「型紙と糊が織りなす紅型の物語」
- 紅型に宿る時の記憶——過去が未来を織りなし、今を染める
- 色に込められた祈り~紅型がつなぐ過去と未来~
- 「すり鉢 VS ミキサー!職人があえて昔ながらの方法を選ぶ理由」
城間栄市プロフィール
紅型に、時間と祈りを宿す
私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。
布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。

生い立ちと紅型との距離
1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。
幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。
本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。
外の世界で学んだこと
2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。
異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。
この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。
受賞・出展についての考え方
これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。
こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。
一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。
制作について
制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。
代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。
新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。
今、そしてこれから
現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。
これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。
これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。
おわりに
公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。
Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。
どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。
この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

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