木と布に宿る、静かな祈り【イベント】
2026.01.30
木と祈り、布と祈り
——静かな展示会のお知らせ——
こんにちは。
紅型という布の仕事を通して、
琉球の文化にふれていただいていること、
あらためてありがたいなと感じる日々です。
日々の染めの仕事は、
決して派手なものではありませんが、
その営みに目をとめ、
想いを寄せてくださる方がいることで、
布はただの素材ではなく、
時間や記憶をたたえた「器」のようなものになっていく。
最近は、そんなふうに感じています。
沖縄も、少しずつ涼しくなってきました。
とはいえ、本土の冬のような寒さとは違い、
どこか間のある季節です。
ごくたまに10度を下回る日もありますが、
体感として一番寒さを感じるのは、
1月の後半から2月にかけて。
空気が澄み、
海の音がよく聞こえ、
光の粒が細かくなる時期です。
この「南の島なりの冬」は、
どこか内側に向かう時間でもあります。
そんな季節の中で、
あらためて展示会をひらくことになりました。
今回はそのお知らせを、
少し個人的な想いも交えながら、書いてみようと思います。







「木仏と紅型」
——自然と祈りのあいだに——
2026年2月14日から2月19日までの6日間、
紅型工房内のギャラリー杜栄(もりふさ)にて、
**「木仏と紅型」**という展示会を行います。
時間は12時から18時までです。
工房に日常的に並んでいる紅型の仕事と、
自然の木を彫って生まれた仏像、木彫の作品たち。
それらを、特別な演出をすることなく、
ひとつの空間に静かに並べてみます。
また、初日の2月14日(水)16時からは、
木仏を彫っている作家であり、
古くからの友人でもある
釈華楽(しゃく・からく)さんとの
オープニングトークも予定しています。
難しい話というよりは、
雑談に近い時間になると思います。
ご都合が合いましたら、
ふらっと覗いていただけたらうれしいです。
展示の詳細は、
工房の掲示板やSNS、チラシなどでも
随時お知らせしています。
古くて、新しい縁
釈華楽さんは、
私にとっては長い付き合いの友人で、
今では親戚でもあります。
それぞれ別の道を歩き、
長い時間を経て、
こうしてまた作品を通して向き合う。
不思議ですが、
どこか自然な流れのようにも感じています。
釈華楽さんがいつから木を彫り始めたのか、
実は正確なことは知りません。
気がついたら、
「仏を彫っているらしい」という話を聞いていて、
それが妙にしっくりきて、
深く理由を尋ねることもしませんでした。
ただ、刃物の研ぎ方や、
道具の手入れの話をしているうちに、
自分の中にも、
木という素材への関心や、
ものに向き合う姿勢への共感が、
少しずつ芽生えていったのを覚えています。
釈華楽さんが彫るのは、
沖縄の身近な木々です。
ガジュマル、フクギ、クスノキ、モモタマナ。
特別な素材ではなく、
その土地に生きてきた木を使い、
淡々と、静かに、
仏の姿を彫り続けてきました。
気がつけば、
釈華楽さんのまわりには、
たくさんの木仏が並んでいました。
紅型もまた、かたちに見えない祈り
一方で、
私たちが日々向き合っている紅型も、
単に美しい布をつくる技術ではありません。
型紙を彫る手の動き、
色を重ねる刷毛の揺れ、
干した布が風に揺れる一瞬の光。
そのすべてが、
「誰かのための仕事」であり、
「この土地の時間」に対する
小さな敬意の積み重ねだと思っています。
沖縄は、
地理的にも文化的にも、
多くの影響を受けながら、
それらを拒まず、包み込み、
独自の美意識へと育ててきた島です。
布と木。
異なる素材ではありますが、
どちらも自然と人の手のあいだで生まれ、
祈りのようなものを宿してきました。
今回の展示は、
その重なりを、
静かに感じてもらえる場になればと思っています。
二つの手仕事が並ぶ場所
「木仏と紅型」は、
目新しさを狙った展示ではありません。
日常の中で生まれてきた仕事を、
ただ丁寧に並べてみる。
それだけのことです。
けれど、
そこには確かに、
人の手を通してしか立ち上がらない
気配や願いが、
にじむように現れてくるのではないか。
そんな期待もあります。
人はなぜ、布を染め、
なぜ、木を彫るのか。
それは表現であると同時に、
自分の内側に耳を澄ます行為なのかもしれません。
最後に
展示の準備を進めながら、
あらためて、
紅型という仕事について考えています。
目立つことより、続けること。
見せることより、伝えること。
広げることより、深めること。
この工房の中で、
木と布、
それぞれの静かな祈りが、
すれ違うように並ぶ時間。
それはきっと、
訪れた方それぞれの記憶の中に、
ささやかだけれど確かな、
風の痕跡のようなものを
残してくれるのではないでしょうか。
空気が澄み、
光がやわらかいこの季節。
布と木のあいだに生まれる余白を、
どうぞ、そっと覗きにいらしてください。
城間栄市プロフィール
紅型に、時間と祈りを宿す
私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。
布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。

生い立ちと紅型との距離
1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。
幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。
本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。
外の世界で学んだこと
2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。
異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。
この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。
受賞・出展についての考え方
これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。
こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。
一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。
制作について
制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。
代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。
新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。
今、そしてこれから
現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。
これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。
これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。
おわりに
公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。
Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。
どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。
この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

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