力強い年に向けた、静かな協働
2025.12.28
光を重ねるということ
――RGCさん(琉球ガラス)と紅型(城間びんがた工房)、イヤープレートが生まれるまで――


今回、私たちは琉球ガラスとのコラボレーションによる「イヤープレート」を制作しました。
ご一緒したのは、長年にわたり琉球ガラス業界を牽引してきた確かな実績を持ち、現在は RGC の名称で活動されている琉球ガラス工房です。
琉球ガラスの表現や技術を時代に合わせて磨き上げながら、
産業として、そして文化として支え続けてこられたRGCの取り組みには、
同じく沖縄の伝統工芸に携わる者として、深い敬意を抱いています。
そのような工房とご一緒できたことは、
今回の制作において大きな意味を持つ出来事でした。
こうした異なる工芸分野との協業は、私たちにとって決して多いものではありません。
だからこそ、このプレートがどのような考え方と工程を経て生まれてきたのかを、少し丁寧に書き留めておきたいと思います。
来年は、六十年に一度巡ってくる「丙午(ひのえうま)」の年にあたります。
太陽の光を象徴する「丙」と、燃え盛る生命力を表す「午」。
情熱や飛躍、正直さが前に出てくる年だと言われています。

イヤープレートという形を考えたとき、
単なる記念品や縁起物ではなく、
一年という時間の始まりに、静かに寄り添う存在であってほしいと考えました。
日々の暮らしの中でふと目に入ったとき、
少し背中を正し、呼吸を整えてくれるような一枚です。
RGCの稲嶺さんとは、実は昔からの知り合いでした。
お互いに沖縄の伝統的なものづくりに関わりながら、
それぞれの場所で仕事を続けてきた中で、
「何か一緒にできたらいいですね」という言葉を交わしてきました。
今回、RGCさんのほうから
「イヤープレートを一緒につくってみませんか」と声をかけていただき、
ようやくその言葉が形になるタイミングが訪れたように感じています。
この機会をいただいたことに、改めて感謝しています。
今回の制作では、工程を明確に分けています。
まず、デザインは私が起こし、紅型として実際に布を染め上げました。
色の重なりや文様のリズム、
丙午という年に込めたい気配やエネルギーを、
いつもの仕事と同じように、布の上で探っていきました。





その後、その紅型の図案をもとに、
RGCが持つ特殊なプリント技術によって、ガラスへと転写しています。
これは、一般的な印刷ではなく、
ガラスという素材の特性を理解したうえで行われる、
非常に繊細な工程です。
そして、プレートそのものの成形は、RGCのガラス職人が一枚一枚、手仕事で制作しています。
溶けたガラスの状態を見極め、
厚みや揺らぎ、光の入り方を調整しながら形にしていく。
そこには、長年積み重ねてきた職人の感覚が確かに息づいています。
つまりこのイヤープレートは、
・紅型の「染め」の仕事
・RGCの「特殊プリント技術」
・ガラス工芸師による「手仕事の成形」
この三つの工程が重なり合って生まれています。
異なる工芸が一つのものをつくるというのは、簡単なことではありません。
素材も、時間の感覚も、完成までのプロセスも違います。
どちらかが前に出すぎてもいけないし、
遠慮しすぎても成立しない。
話し合いを重ねる中で大切にしたのは、
「互いの仕事をきちんと尊重すること」でした。
売りやすさや派手さよりも、
この形で、自分たちが納得できるかどうか。
その一点を何度も確認しながら、工程を組み立てていきました。
沖縄の工芸には、共通した感覚があります。
自然を制御するのではなく、
その力を読み取り、寄り添いながら形にしていくこと。
紅型も、琉球ガラスも、
風や光、熱といった自然の要素とともに育まれてきました。
今回のイヤープレートでも、
強さを誇示するのではなく、
光が重なり、静かに満ちていくような表情を目指しました。
馬のモチーフもまた、力強さだけでなく、
前を向いて進む軽やかさや、風を受けて走る姿を重ねています。
コラボレーションという言葉は華やかですが、
実際にはとても静かで地道な時間の積み重ねです。
今回の取り組みは、
工芸という仕事が本来持っている「対話の時間」を、
あらためて確かめる機会でもありました。
六十年に一度の節目の年。
このプレートが、
誰かの一年の始まりに、そっと寄り添う存在になれば嬉しく思います。
そして、紅型と琉球ガラスという二つの工芸が出会うことで生まれたこの一枚が、
沖縄のものづくりの奥行きを、静かに伝えてくれることを願っています。

LINE公式 https://line.me/R/ti/p/@275zrjgg

Instagram https://www.instagram.com/shiromabingata16/
公式ホームページでは、紅型の歴史や伝統、私自身の制作にかける思いなどを、やや丁寧に、文化的な視点も交えながら発信しています。一方でInstagramでは、職人の日常や工房のちょっとした風景、沖縄の光や緑の中に息づく“暮らしに根ざした紅型”の表情を気軽に紹介しています。たとえば、朝の染料作りの様子や、工房の裏庭で揺れる福木の葉っぱ、時には染めたての布を空にかざした一瞬の写真など、ものづくりの空気感を身近に感じていただける内容を心がけています。
紅型は決して遠い伝統ではなく、今を生きる私たちの日々とともにあるものです。これからも新しい挑戦と日々の積み重ねを大切にしながら、沖縄の染め物文化の魅力を発信し続けていきたいと思います。ぜひInstagramものぞいていただき、工房の日常や沖縄の彩りを一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。

城間栄市 プロフィール昭和52年(1977年)、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育つ。
学歴・海外研修
- 平成15年(2003年)より2年間、インドネシア・ジョグジャカルタ特別州に滞在し、バティック(ろうけつ染)を学ぶ。
- 帰国後は城間びんがた工房にて、琉球びんがたの制作・指導に専念。
受賞・展覧会歴
- 平成24年:西部工芸展 福岡市長賞 受賞
- 平成25年:沖展 正会員に推挙
- 平成26年:西部工芸展 奨励賞 受賞
- 平成27年:日本工芸会 新人賞を受賞し、正会員に推挙
- 令和3年:西部工芸展 沖縄タイムス社賞 受賞
- 令和4年:MOA美術館 岡田茂吉賞 大賞 受賞
- 令和5年:西部工芸展 西部支部長賞 受賞
主な出展
- 「ポケモン工芸展」に出展
- 文化庁主催「日中韓芸術祭」に出展
- 令和6年:文化庁「技を極める」展に出展
現在の役職・活動
- 城間びんがた工房 十六代 代表
- 日本工芸会 正会員
- 沖展(沖縄タイムス社主催公募展)染色部門 審査員
- 沖縄県立芸術大学 非常勤講師
プロフィール概要
はじめまして。城間びんがた工房16代目の城間栄市です。私は1977年、十五代・城間栄順の長男として沖縄に生まれ、幼いころから紅型の仕事に親しみながら育ちました。工房に入った後は父のもとで修行を重ねつつ、沖縄県芸術祭「沖展」に初入選したことをきっかけに本格的に紅型作家として歩み始めました。
これまでの道のりの中で、沖展賞や日本工芸会の新人賞、西部伝統工芸展での沖縄タイムス社賞・西部支部長賞、そしてMOA美術館の岡田茂吉賞大賞など、さまざまな賞をいただくことができました。また、沖展の正会員や日本工芸会の正会員として活動しながら、審査員として後進の作品にも向き合う立場も経験しています。
私自身の制作で特に印象に残っているのは、「波の歌」という紅型着物の作品です。これは沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、藍型を基調とした布に躍動感をもって表現したものです。伝統の技法を守りつつ、そこに自分なりの視点や工夫を重ねることで、新しい紅型の可能性を切り拓きたいという思いが込められています。こうした活動を通して、紅型が沖縄の誇る伝統工芸であるだけでなく、日本、そして世界に発信できるアートであると感じています。
20代の頃にはアジア各地を巡り、2003年から2年間はインドネシア・ジョグジャカルタでバティック(ろうけつ染)を学びました。現地での生活や工芸の現場を通して、異文化の技術や感性にふれ、自分自身の紅型への向き合い方にも大きな影響を受けました。伝統を守るだけでなく、常に新しい刺激や発見を大切にしています。
最近では、「ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―」など、世界を巡回する企画展にも参加する機会が増えてきました。紅型の技法でポケモンを表現するというチャレンジは、私自身にとっても大きな刺激となりましたし、沖縄の紅型が海外のお客様にも響く可能性を感じています。
メディアにも多く取り上げていただくようになりました。テレビや新聞、ウェブメディアで工房の日常や制作現場が紹介されるたびに、「300年前と変わらない手仕事」に込めた想いを、多くの方に伝えたいと強く思います。