力強い年に向けた、静かな協働【工房時間】

光を重ねるということ

――RGCさん(琉球ガラス)と紅型(城間びんがた工房)、イヤープレートが生まれるまで――

琉球ガラス イヤープレート

今回、私たちは琉球ガラスとのコラボレーションによる「イヤープレート」を制作しました。
ご一緒したのは、長年にわたり琉球ガラス業界を牽引してきた確かな実績を持ち、現在は RGC の名称で活動されている琉球ガラス工房です。

琉球ガラスの表現や技術を時代に合わせて磨き上げながら、
産業として、そして文化として支え続けてこられたRGCの取り組みには、
同じく沖縄の伝統工芸に携わる者として、深い敬意を抱いています。

そのような工房とご一緒できたことは、
今回の制作において大きな意味を持つ出来事でした。

こうした異なる工芸分野との協業は、私たちにとって決して多いものではありません。
だからこそ、このプレートがどのような考え方と工程を経て生まれてきたのかを、少し丁寧に書き留めておきたいと思います。

来年は、六十年に一度巡ってくる「丙午(ひのえうま)」の年にあたります。
太陽の光を象徴する「丙」と、燃え盛る生命力を表す「午」。
情熱や飛躍、正直さが前に出てくる年だと言われています。

イヤープレートという形を考えたとき、
単なる記念品や縁起物ではなく、
一年という時間の始まりに、静かに寄り添う存在であってほしいと考えました。
日々の暮らしの中でふと目に入ったとき、
少し背中を正し、呼吸を整えてくれるような一枚です。

RGCの稲嶺さんとは、実は昔からの知り合いでした。
お互いに沖縄の伝統的なものづくりに関わりながら、
それぞれの場所で仕事を続けてきた中で、
「何か一緒にできたらいいですね」という言葉を交わしてきました。

今回、RGCさんのほうから
「イヤープレートを一緒につくってみませんか」と声をかけていただき、
ようやくその言葉が形になるタイミングが訪れたように感じています。
この機会をいただいたことに、改めて感謝しています。

今回の制作では、工程を明確に分けています。
まず、デザインは私が起こし、紅型として実際に布を染め上げました。
色の重なりや文様のリズム、
丙午という年に込めたい気配やエネルギーを、
いつもの仕事と同じように、布の上で探っていきました。

型彫り
型彫り途中の型紙
彫り終えました

その後、その紅型の図案をもとに、
RGCが持つ特殊なプリント技術によって、ガラスへと転写しています。
これは、一般的な印刷ではなく、
ガラスという素材の特性を理解したうえで行われる、
非常に繊細な工程です。

そして、プレートそのものの成形は、RGCのガラス職人が一枚一枚、手仕事で制作しています。
溶けたガラスの状態を見極め、
厚みや揺らぎ、光の入り方を調整しながら形にしていく。
そこには、長年積み重ねてきた職人の感覚が確かに息づいています。

つまりこのイヤープレートは、
・紅型の「染め」の仕事
・RGCの「特殊プリント技術」
・ガラス工芸師による「手仕事の成形」
この三つの工程が重なり合って生まれています。

異なる工芸が一つのものをつくるというのは、簡単なことではありません。
素材も、時間の感覚も、完成までのプロセスも違います。
どちらかが前に出すぎてもいけないし、
遠慮しすぎても成立しない。

話し合いを重ねる中で大切にしたのは、
「互いの仕事をきちんと尊重すること」でした。
売りやすさや派手さよりも、
この形で、自分たちが納得できるかどうか。
その一点を何度も確認しながら、工程を組み立てていきました。

沖縄の工芸には、共通した感覚があります。
自然を制御するのではなく、
その力を読み取り、寄り添いながら形にしていくこと。
紅型も、琉球ガラスも、
風や光、熱といった自然の要素とともに育まれてきました。

今回のイヤープレートでも、
強さを誇示するのではなく、
光が重なり、静かに満ちていくような表情を目指しました。
馬のモチーフもまた、力強さだけでなく、
前を向いて進む軽やかさや、風を受けて走る姿を重ねています。

コラボレーションという言葉は華やかですが、
実際にはとても静かで地道な時間の積み重ねです。
今回の取り組みは、
工芸という仕事が本来持っている「対話の時間」を、
あらためて確かめる機会でもありました。

六十年に一度の節目の年。
このプレートが、
誰かの一年の始まりに、そっと寄り添う存在になれば嬉しく思います。
そして、紅型と琉球ガラスという二つの工芸が出会うことで生まれたこの一枚が、
沖縄のものづくりの奥行きを、静かに伝えてくれることを願っています。

紅型に、時間と祈りを宿す

私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。

布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。


城間栄市プロフィール 生い立ちと紅型との距離

1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。

幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。

本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。


外の世界で学んだこと

2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。

異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。

この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。


受賞・出展についての考え方

これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。

こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。

一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。


制作について

制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。

代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。

新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。


今、そしてこれから

現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。

これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。

これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。


おわりに

公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。

Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。

どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。

この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

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