「すり鉢 VS ミキサー!職人があえて昔ながらの方法を選ぶ理由」
2025.02.28
毎朝の工房の準備:呉汁(ごじる)作りについて
皆さん、おはようございます。本日も好奇心を持ってご覧いただき、心から感謝いたします。びんがたを通して琉球の文化が伝わっていくことに、改めて感謝申し上げます。ありがとうございます。
今日は、工房で毎朝行う大切な準備のひとつ 「呉汁(ごじる)作り」 についてお話ししたいと思います。

呉汁とは、大豆をすりおろした液のことで、びんがたの顔料(絵の具)を溶くために使用する重要な素材の一つです。


呉汁の作り方
1. 大豆を一晩水に浸す
まず、乾燥した大豆を一晩たっぷりの水に浸しておきます。こうすることで、大豆が水を含んで柔らかくなり、すりおろしやすくなります。
2. すり鉢ですりおろす
翌朝、水を含んでふっくらとした大豆を、毎回すり鉢を使って丁寧にすりおろします。この工程は、琉球王朝時代から続く伝統的な方法であり、現在も変わることなく受け継がれています。
3. 毎日作る理由
呉汁には防腐剤が一切含まれていないため、鮮度を保つために その日の分だけを毎朝作る のが基本です。





色止めの工夫について
呉汁は顔料の定着に大きな役割を果たしますが、現在では補助的に 色止めの助剤 も加えています。これは、「摩擦による色落ち」や「経年変化による色の変質」といった問題を防ぐためです。
しかしながら、呉汁の効果は非常に高く、顔料の奥深さや厚みがしっかりと際立つ という特徴があります。びんがた独特の美しい発色は、呉汁の持つ力によるところが大きいのです。
なぜすり鉢を使うのか?
よく「ミキサーを使えば効率的では?」という質問を受けることがあります。しかし、私たちの感覚では、すり鉢でおろした呉汁の方が粘り気があり、顔料の発色や定着に優れている と感じています。
ミキサーで処理すると、確かになめらかになりますが、どうしても粘度が少し足りないように思います。その わずかな粘り気が、染色時の色の深みや鮮やかさを引き出す のではないかと考えています。
伝統的な方法を守る理由
毎朝呉汁を作ることは 手間がかかる作業 です。さらに、呉汁を混ぜた顔料は 1〜2日以内に使い切らなければならない という制約もあります。
これはつまり、高価な顔料が短期間で劣化してしまうリスク を常に抱えているということです。しかしながら、その背景には すべての作品ごとに毎回新しい色を作る という、びんがたならではの文化が根付いています。
実際に作った作品を並べてみると、生地ごとに適切な色の濃度や発色が異なる ことがよくわかります。したがって、私たちは毎回試し染めを行い、その日の最適な色を調整しながら作業を進めている のです。

生地ごとに異なる色の吸収
少し掘り下げると、生地ごとに染まる色の量には限界がある という事実があります。
- 色をたっぷり吸収できる生地
- それほど色を受け止められない生地
この違いを見極めるため、私たちは帯の端や生地の端で試し染めを行う ことがあります。もし機会があれば、びんがたの作品を手に取った際に 色の確認をした跡 を探してみてください。それは、私たちがその作品のために最適な色を追求した証 なのです。
まとめ
このように、工房では 毎朝欠かさずすり鉢ですりおろした呉汁を作り、袋で漉してから使用 しています。この伝統的な工程が、びんがたの美しい発色を支えているのです。
そして、毎日新しい色を作り続けることで、作品ごとに最適な発色を実現し、琉球びんがたの魅力を最大限に引き出している と私たちは感じています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。皆さんの好奇心と応援が私達の挑戦を助けてくれています。いつも有難うございます。



公式ホームページでは、紅型の歴史や伝統、私自身の制作にかける思いなどを、やや丁寧に、文化的な視点も交えながら発信しています。一方でInstagramでは、職人の日常や工房のちょっとした風景、沖縄の光や緑の中に息づく“暮らしに根ざした紅型”の表情を気軽に紹介しています。たとえば、朝の染料作りの様子や、工房の裏庭で揺れる福木の葉っぱ、時には染めたての布を空にかざした一瞬の写真など、ものづくりの空気感を身近に感じていただける内容を心がけています。
紅型は決して遠い伝統ではなく、今を生きる私たちの日々とともにあるものです。これからも新しい挑戦と日々の積み重ねを大切にしながら、沖縄の染め物文化の魅力を発信し続けていきたいと思います。ぜひInstagramものぞいていただき、工房の日常や沖縄の彩りを一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。

城間栄市 プロフィール昭和52年(1977年)、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育つ。
学歴・海外研修
- 平成15年(2003年)より2年間、インドネシア・ジョグジャカルタ特別州に滞在し、バティック(ろうけつ染)を学ぶ。
- 帰国後は城間びんがた工房にて、琉球びんがたの制作・指導に専念。
受賞・展覧会歴
- 平成24年:西部工芸展 福岡市長賞 受賞
- 平成25年:沖展 正会員に推挙
- 平成26年:西部工芸展 奨励賞 受賞
- 平成27年:日本工芸会 新人賞を受賞し、正会員に推挙
- 令和3年:西部工芸展 沖縄タイムス社賞 受賞
- 令和4年:MOA美術館 岡田茂吉賞 大賞 受賞
- 令和5年:西部工芸展 西部支部長賞 受賞
主な出展
- 「ポケモン工芸展」に出展
- 文化庁主催「日中韓芸術祭」に出展
- 令和6年:文化庁「技を極める」展に出展
現在の役職・活動
- 城間びんがた工房 十六代 代表
- 日本工芸会 正会員
- 沖展(沖縄タイムス社主催公募展)染色部門 審査員
- 沖縄県立芸術大学 非常勤講師
プロフィール概要
はじめまして。城間びんがた工房16代目の城間栄市です。私は1977年、十五代・城間栄順の長男として沖縄に生まれ、幼いころから紅型の仕事に親しみながら育ちました。工房に入った後は父のもとで修行を重ねつつ、沖縄県芸術祭「沖展」に初入選したことをきっかけに本格的に紅型作家として歩み始めました。
これまでの道のりの中で、沖展賞や日本工芸会の新人賞、西部伝統工芸展での沖縄タイムス社賞・西部支部長賞、そしてMOA美術館の岡田茂吉賞大賞など、さまざまな賞をいただくことができました。また、沖展の正会員や日本工芸会の正会員として活動しながら、審査員として後進の作品にも向き合う立場も経験しています。
私自身の制作で特に印象に残っているのは、「波の歌」という紅型着物の作品です。これは沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、藍型を基調とした布に躍動感をもって表現したものです。伝統の技法を守りつつ、そこに自分なりの視点や工夫を重ねることで、新しい紅型の可能性を切り拓きたいという思いが込められています。こうした活動を通して、紅型が沖縄の誇る伝統工芸であるだけでなく、日本、そして世界に発信できるアートであると感じています。
20代の頃にはアジア各地を巡り、2003年から2年間はインドネシア・ジョグジャカルタでバティック(ろうけつ染)を学びました。現地での生活や工芸の現場を通して、異文化の技術や感性にふれ、自分自身の紅型への向き合い方にも大きな影響を受けました。伝統を守るだけでなく、常に新しい刺激や発見を大切にしています。
最近では、「ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―」など、世界を巡回する企画展にも参加する機会が増えてきました。紅型の技法でポケモンを表現するというチャレンジは、私自身にとっても大きな刺激となりましたし、沖縄の紅型が海外のお客様にも響く可能性を感じています。
メディアにも多く取り上げていただくようになりました。テレビや新聞、ウェブメディアで工房の日常や制作現場が紹介されるたびに、「300年前と変わらない手仕事」に込めた想いを、多くの方に伝えたいと強く思います。