「すり鉢 VS ミキサー!職人があえて昔ながらの方法を選ぶ理由」

毎朝の工房の準備:呉汁(ごじる)作りについて

皆さん、おはようございます。本日も好奇心を持ってご覧いただき、心から感謝いたします。びんがたを通して琉球の文化が伝わっていくことに、改めて感謝申し上げます。ありがとうございます。

今日は、工房で毎朝行う大切な準備のひとつ 「呉汁(ごじる)作り」 についてお話ししたいと思います。

呉汁とは、大豆をすりおろした液のことで、びんがたの顔料(絵の具)を溶くために使用する重要な素材の一つです。


大豆を一晩水につけてふやかしました

呉汁の作り方

1. 大豆を一晩水に浸す

まず、乾燥した大豆を一晩たっぷりの水に浸しておきます。こうすることで、大豆が水を含んで柔らかくなり、すりおろしやすくなります。

2. すり鉢ですりおろす

翌朝、水を含んでふっくらとした大豆を、毎回すり鉢を使って丁寧にすりおろします。この工程は、琉球王朝時代から続く伝統的な方法であり、現在も変わることなく受け継がれています。

3. 毎日作る理由

呉汁には防腐剤が一切含まれていないため、鮮度を保つために その日の分だけを毎朝作る のが基本です。

すり潰した大豆を濾しています
搾りかすです おからです
顔料に混ぜて 使います 大豆の成分が 熱する事で色止めの効果を発揮します

色止めの工夫について

呉汁は顔料の定着に大きな役割を果たしますが、現在では補助的に 色止めの助剤 も加えています。これは、「摩擦による色落ち」や「経年変化による色の変質」といった問題を防ぐためです。

しかしながら、呉汁の効果は非常に高く、顔料の奥深さや厚みがしっかりと際立つ という特徴があります。びんがた独特の美しい発色は、呉汁の持つ力によるところが大きいのです。


なぜすり鉢を使うのか?

よく「ミキサーを使えば効率的では?」という質問を受けることがあります。しかし、私たちの感覚では、すり鉢でおろした呉汁の方が粘り気があり、顔料の発色や定着に優れている と感じています。

ミキサーで処理すると、確かになめらかになりますが、どうしても粘度が少し足りないように思います。その わずかな粘り気が、染色時の色の深みや鮮やかさを引き出す のではないかと考えています。


伝統的な方法を守る理由

毎朝呉汁を作ることは 手間がかかる作業 です。さらに、呉汁を混ぜた顔料は 1〜2日以内に使い切らなければならない という制約もあります。

これはつまり、高価な顔料が短期間で劣化してしまうリスク を常に抱えているということです。しかしながら、その背景には すべての作品ごとに毎回新しい色を作る という、びんがたならではの文化が根付いています。

実際に作った作品を並べてみると、生地ごとに適切な色の濃度や発色が異なる ことがよくわかります。したがって、私たちは毎回試し染めを行い、その日の最適な色を調整しながら作業を進めている のです。

試し染め用の布(滲み 濃度の確認)

生地ごとに異なる色の吸収

少し掘り下げると、生地ごとに染まる色の量には限界がある という事実があります。

  • 色をたっぷり吸収できる生地
  • それほど色を受け止められない生地

この違いを見極めるため、私たちは帯の端や生地の端で試し染めを行う ことがあります。もし機会があれば、びんがたの作品を手に取った際に 色の確認をした跡 を探してみてください。それは、私たちがその作品のために最適な色を追求した証 なのです。


まとめ

このように、工房では 毎朝欠かさずすり鉢ですりおろした呉汁を作り、袋で漉してから使用 しています。この伝統的な工程が、びんがたの美しい発色を支えているのです。

そして、毎日新しい色を作り続けることで、作品ごとに最適な発色を実現し、琉球びんがたの魅力を最大限に引き出している と私たちは感じています。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。皆さんの好奇心と応援が私達の挑戦を助けてくれています。いつも有難うございます。


鮮やかな顔料の定着の秘密です(呉汁)

城間栄市 (しろま・えいいち) プロフィール

生年・出身

昭和52年(1977年)、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ち、幼少期より琉球びんがたに親しむ。

学歴・海外研修

  • 平成15年(2003年)から2年間、インドネシア・ジョグジャカルタ特別州に滞在し、バティック(ろうけつ染)を学ぶ。
  • 帰国後は城間びんがた工房にて琉球びんがたの制作・指導に専念。

経歴・受賞・展覧会歴

沖展(沖縄タイムス社主催公募展)

  • 2000年(第52回):初入選
  • 2003年(第55回):奨励賞
  • 2008年(第60回):奨励賞(「ゴマアイゴ紋様」)
  • 2010年(第62回):奨励賞(「上昇波(ジョウショウハ)」)
  • 2011年(第63回):沖展賞(「イナズマ ガンガゼ」)、準会員推挙
  • 2012年(第64回):準会員賞(「すくゆい」)
  • 2013年(第65回):準会員賞(「紅型着物『雲を読む』」)、会員推挙

西部工芸展

  • 平成24年(2012年):第47回 西部伝統工芸展 福岡市長賞
  • 平成26年(2014年):第49回 西部伝統工芸展 奨励賞
  • 令和3年(2021年):沖縄タイムス社賞
  • 令和5年(2023年):西部支部長賞

日本伝統工芸会

  • 平成25年(2013年):沖展 正会員に推挙
  • 平成27年(2015年):日本伝統工芸展 新人賞受賞、日本工芸会 正会員に推挙

その他の活動・受賞

  • 令和4年(2022年):MOA美術館 岡田茂吉賞 大賞
  • 「ポケモン工芸展」に出展
  • 文化庁主催「日中韓芸術祭」に出展
  • 令和6年(2024年):文化庁「技を極める」展に出展
  • 2014年:城間びんがた工房 十六代継承

現在の役職・活動

  • 城間びんがた工房 十六代 代表
  • 日本工芸会 正会員
  • 沖展(沖縄タイムス社主催公募展)染色部門 審査員
  • 沖縄県立芸術大学 非常勤講師

プロフィール概要

城間 栄市(しろま・えいいち)は、昭和52年(1977年)生まれの琉球びんがた作家。城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として生まれ育ち、幼少期から伝統工芸の世界に馴染む。
平成15年(2003年)から2年間、インドネシアでバティック(ろうけつ染)を学び、帰国後は琉球びんがたの技法を継承しながら、海外の経験を活かした新しい表現を追求し続けている。

数々の受賞歴を有し、日本工芸会 正会員や沖展染色部門の審査員など、多方面で活躍。文化庁やMOA美術館主催の展覧会にも出展を重ね、琉球びんがたの魅力を国内外へ発信している。現在は城間びんがた工房の十六代代表として制作・指導にあたりつつ、沖縄県立芸術大学の非常勤講師として後進の育成にも努めている。