波の歌が生まれる場所 〜紅型と海の物語〜

はじめに – 紅型と琉球文化のつながり

こんにちは。いつもご覧いただき、本当にありがとうございます。皆さんの関心と好奇心が、紅型を通して琉球文化を広める大きな力となっていることに、心から感謝しています。
本日は、紅型が生まれる環境、そして私たちがインスピレーションを得る沖縄の自然についてお話ししたいと思います。


沖縄の海とものづくり

沖縄の人々にとって、海は常にそばにある存在です。紅型のデザインにも、波、貝殻、ヤドカリの足跡、浜辺の植物、太陽の下で咲く花々など、沖縄の海辺の風景が数多く取り入れられています。
私たち城間びんがた工房にとっても、海は創作の源であり、作品に多くの刺激を与えてくれる場所です。

特に「釣り」は、沖縄の生活と密接に結びついています。祖父の時代には、紅型の仕事だけでは生計を立てるのが難しく、釣りをしながら暮らしていた時期がありました。父の時代も同じく、日常の一部として海に出ていた記憶があります。
そして、私の世代になっても、海は家族と過ごす特別な場所であり、子どもたちと一緒に海へ行き、砂浜で魚を捕ったり、海の幸を探して食べてみたりすることが、日常の楽しみとなっています。


「波の歌」という作品について

今回ご紹介する 「波の歌」 という作品も、そんな海からのインスピレーションを受けて生まれました。
波を眺めていると、海の向こう側とこちら側が、波のリズムを通じてつながっているように感じることがあります。これは、琉球時代から続く沖縄と東南アジアの文化交流を象徴するようなイメージでもあります。

私は20代の頃、インドネシアに2年間留学していました。現地の友人たちは、どこか昔の沖縄の人たちのような温かさがあり、コミュニケーションの豊かさや包容力を感じる場面が何度もありました。
琉球の人々が何百年も前から海を越えて交流していたように、文化や言葉が波とともに流れ、交わり、新しいものを生み出してきたのかもしれません。

「波の歌」は、そんな “波が文化を運び、言葉が重なり合って歌になる” というイメージを込めてデザインした作品です。インドネシアで感じた沖縄との共通点や、海を越えたつながりを表現しています。


海と紅型 – これからも続くインスピレーション

沖縄の海は、ただ美しいだけでなく、歴史や文化、そして人々の暮らしを支えてきた存在でもあります。
これからも、紅型の制作を通じて、沖縄の自然や文化の魅力を伝えていけたらと思っています。

城間栄市 (しろま・えいいち) プロフィール

生年・出身

昭和52年(1977年)、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ち、幼少期より琉球びんがたに親しむ。

学歴・海外研修

  • 平成15年(2003年)から2年間、インドネシア・ジョグジャカルタ特別州に滞在し、バティック(ろうけつ染)を学ぶ。
  • 帰国後は城間びんがた工房にて琉球びんがたの制作・指導に専念。

経歴・受賞・展覧会歴

沖展(沖縄タイムス社主催公募展)

  • 2000年(第52回):初入選
  • 2003年(第55回):奨励賞
  • 2008年(第60回):奨励賞(「ゴマアイゴ紋様」)
  • 2010年(第62回):奨励賞(「上昇波(ジョウショウハ)」)
  • 2011年(第63回):沖展賞(「イナズマ ガンガゼ」)、準会員推挙
  • 2012年(第64回):準会員賞(「すくゆい」)
  • 2013年(第65回):準会員賞(「紅型着物『雲を読む』」)、会員推挙

西部工芸展

  • 平成24年(2012年):第47回 西部伝統工芸展 福岡市長賞
  • 平成26年(2014年):第49回 西部伝統工芸展 奨励賞
  • 令和3年(2021年):沖縄タイムス社賞
  • 令和5年(2023年):西部支部長賞

日本伝統工芸会

  • 平成25年(2013年):沖展 正会員に推挙
  • 平成27年(2015年):日本伝統工芸展 新人賞受賞、日本工芸会 正会員に推挙

その他の活動・受賞

  • 令和4年(2022年):MOA美術館 岡田茂吉賞 大賞
  • 「ポケモン工芸展」に出展
  • 文化庁主催「日中韓芸術祭」に出展
  • 令和6年(2024年):文化庁「技を極める」展に出展
  • 2014年:城間びんがた工房 十六代継承

現在の役職・活動

  • 城間びんがた工房 十六代 代表
  • 日本工芸会 正会員
  • 沖展(沖縄タイムス社主催公募展)染色部門 審査員
  • 沖縄県立芸術大学 非常勤講師

プロフィール概要

城間 栄市(しろま・えいいち)は、昭和52年(1977年)生まれの琉球びんがた作家。城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として生まれ育ち、幼少期から伝統工芸の世界に馴染む。
平成15年(2003年)から2年間、インドネシアでバティック(ろうけつ染)を学び、帰国後は琉球びんがたの技法を継承しながら、海外の経験を活かした新しい表現を追求し続けている。

数々の受賞歴を有し、日本工芸会 正会員や沖展染色部門の審査員など、多方面で活躍。文化庁やMOA美術館主催の展覧会にも出展を重ね、琉球びんがたの魅力を国内外へ発信している。現在は城間びんがた工房の十六代代表として制作・指導にあたりつつ、沖縄県立芸術大学の非常勤講師として後進の育成にも努めている。