職人たちの休日——自然の中で感じた創造のエネルギー
2025.02.22
沖縄の冬に楽しむ「みかん狩り」と紅型の関係──自然との対話が生み出す彩り
いつも紅型(びんがた)を通して琉球の文化に興味を持っていただき、誠にありがとうございます。私たち城間びんがた工房では、日々の制作に集中する一方で、先日、久しぶりにメンバー全員でみかん狩りへ行ってまいりました。そこで得た体験や、自然との関わりが紅型にどう影響しているのかを、文化意識の高い方々にも興味を持っていただけるよう、より深く掘り下げてご紹介します。
沖縄の冬とみかん狩り──意外な組み合わせの魅力
沖縄の冬事情
沖縄と聞くと、真っ先に浮かぶイメージは「南国の青い海」や「温暖な気候」かもしれません。しかし、冬になると気温は10度前後まで下がり、本土のような氷点下とはいかないまでも、肌寒さを感じる日が続きます。とはいえ、日中は太陽の暖かさもあって、薄手の上着で過ごせることが多く、凍えるほどの寒さとは無縁です。
北部の果樹園とみかん狩り
そんな沖縄の冬の風物詩の一つが、北部の果樹園へ出向いてみかん狩りを楽しむことです。12月から2月にかけて、タンカンやポンカンなど、柑橘系の果実がたわわに実ります。
- 地形と景観: 海と山が近接する沖縄本島北部は、斜面に果樹園が広がる独特の景観を持っています。
- 収穫体験の楽しみ: 低めに整えられたみかんの木から、オレンジ色の果実をもぎ取る瞬間は、自然との触れ合いを感じられる貴重な体験です。
私自身も子どもの頃に家族で訪れた思い出があり、久しぶりに工房メンバーと一緒に行くことで、仲間との交流と自然を味わう時間が重なり、日常とは違った充実感が得られました。
自然から生まれる紅型の色彩──海・空・花・植物
紅型と自然の深いつながり
紅型は、琉球王国時代から300年以上受け継がれてきた染色技法です。その色彩や図案には、沖縄の自然が持つ豊かな色合いが反映されています。たとえば、
- 青: 透き通った沖縄の海や空のイメージ
- 朱色(しゅいろ): 南国の太陽やハイビスカスなどの花の力強い赤
- 黄色: 琉球王国の華やかさを象徴する色味の一つ
このように、紅型は自然の多様な表情を日常の中へ取り込む役割を果たしてきました。
みかん狩りがもたらす新たなインスピレーション
みかん狩りをしていると、目の前には鮮やかなオレンジ色が広がっています。冷たい冬の空気の中で鮮明に映えるその色は、
- 甘さと程よい酸味を想起させる温かみ
- 沖縄特有のまったりとした冬の陽ざし
を感じさせるものです。実際に「この色を紅型の配色に活かせないだろうか?」と想像し、染め物の新たなイメージが湧いてくることがあります。普段は工房の中で色のレシピや型紙づくりに集中していますが、外の景色や自然の色彩に触れることで、より生き生きとしたデザインが生まれるのです。
タンカンの味わいと沖縄の風土
タンカンとは
沖縄で代表的な柑橘といえばタンカン。皮が厚く、手でむくと弾力のある果肉が現れ、噛むたびに甘酸っぱいジュースが溢れ出します。
- 特徴: 甘味が強く、程よい酸味が舌に残る
- 栽培環境: 温暖な気候と適度な湿度が育む独特の風味
私たちが工房のみんなと一緒に収穫し、現地でそのまま食べたときのジューシーさは格別でした。「こんなに美味しかったっけ?」と驚くほどで、自然の恵みをダイレクトに感じられる瞬間となりました。
自然と工芸の共通点
自然の恵みを得て作物が育つように、紅型も自然との対話によって生まれるものだと再認識しました。山の澄んだ空気や、木々の緑、海から吹く風の湿度、そして土壌からの養分──そうしたすべてがタンカンの味に結実するのと同じように、紅型もまた、
- 沖縄の気候風土
- 職人の手と感性
- 受け継がれてきた伝統技法
が織り合わさって初めて、独特の色合いとデザインが生まれるのです。
普段とは違う時間──リフレッシュと仲間との交流
職人同士のコミュニケーション
工房での日常は、染料の調合や型置き、色差し、蒸し、洗い…といった工程に追われがちで、外へ出る機会が限られています。そんな中、みかん狩りは自然の中で過ごすリフレッシュの時間となりました。
- リラックス効果: 山の空気を吸いながら作業をすることで、体も心もほぐれる
- コミュニケーション: 普段あまり話す機会がない職人同士でも、自然の中では自然と会話が生まれ、同じ目的(みかん狩り)を楽しむうちに距離が縮まる
こうした体験は、工房の雰囲気を良くし、帰ってからの仕事にも良い影響を与えてくれます。
「暮らしの中で息づく」伝統工芸
紅型は、日常の生活や祭事などと深く結びついてきた伝統工芸です。「作業場の外」に出ることで、そうした暮らしと伝統の関係性を改めて感じることができました。自然の移ろいを感じながらものづくりをする姿勢こそが、紅型が今まで息づいてきた理由の一端なのだと思います。
「自然とともにある紅型」のこれから
作品づくりへの生かし方
今回のようなみかん狩りの体験は、
- 新しい配色のアイデア
- デザインのモチーフ
- 工房メンバーの連帯感
といった形で、私たちの作品づくりや工房の運営に還元されていきます。職人それぞれが心に留めた自然の色彩や空気感が、やがて新しい紅型の図案や斬新なアレンジにつながるかもしれません。
沖縄の自然・文化を伝えたい
紅型は、沖縄の自然と暮らしが生んだアートでもあります。ですから、私たちは単に技術を守るだけでなく、自然の恵みや文化的背景も含めて発信したいと考えています。みかん狩りで得た気づきをSNSやブログでシェアすることも、紅型を通じて「沖縄そのもの」を感じていただくきっかけになれば嬉しいです。
未来へ紡ぐ伝統
自然が変化すれば、その色彩やモチーフも変わっていく。それでもなお、紅型の本質は**“島の人々が、自然と寄り添いながら、心豊かに生きる文化”**を映し出すことにあると思います。時代が変わっても、自然の持つ力と、それを形にする職人の情熱があれば、紅型はこれからも進化しながら続いていくでしょう。
まとめ──自然との対話が紅型を育む
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。
今回の工房メンバーとのみかん狩りは、私たちにとって沖縄の自然の中でリフレッシュできる貴重な機会であり、紅型の色彩やデザインに新しいアイデアをもたらす源にもなりました。
琉球王国時代から脈々と受け継がれてきた紅型は、自然や暮らしの中に根ざした伝統工芸です。みかん狩りという身近な体験を通じて、改めて沖縄の土地が育む恵みと、そこから得られるインスピレーションの大切さを実感しました。これからも、こうした“自然との対話”を重ねながら、紅型が持つ魅力をより多くの方に伝えていきたいと思います。











公式ホームページでは、紅型の歴史や伝統、私自身の制作にかける思いなどを、やや丁寧に、文化的な視点も交えながら発信しています。一方でInstagramでは、職人の日常や工房のちょっとした風景、沖縄の光や緑の中に息づく“暮らしに根ざした紅型”の表情を気軽に紹介しています。たとえば、朝の染料作りの様子や、工房の裏庭で揺れる福木の葉っぱ、時には染めたての布を空にかざした一瞬の写真など、ものづくりの空気感を身近に感じていただける内容を心がけています。
紅型は決して遠い伝統ではなく、今を生きる私たちの日々とともにあるものです。これからも新しい挑戦と日々の積み重ねを大切にしながら、沖縄の染め物文化の魅力を発信し続けていきたいと思います。ぜひInstagramものぞいていただき、工房の日常や沖縄の彩りを一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。

城間栄市 プロフィール昭和52年(1977年)、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育つ。
学歴・海外研修
- 平成15年(2003年)より2年間、インドネシア・ジョグジャカルタ特別州に滞在し、バティック(ろうけつ染)を学ぶ。
- 帰国後は城間びんがた工房にて、琉球びんがたの制作・指導に専念。
受賞・展覧会歴
- 平成24年:西部工芸展 福岡市長賞 受賞
- 平成25年:沖展 正会員に推挙
- 平成26年:西部工芸展 奨励賞 受賞
- 平成27年:日本工芸会 新人賞を受賞し、正会員に推挙
- 令和3年:西部工芸展 沖縄タイムス社賞 受賞
- 令和4年:MOA美術館 岡田茂吉賞 大賞 受賞
- 令和5年:西部工芸展 西部支部長賞 受賞
主な出展
- 「ポケモン工芸展」に出展
- 文化庁主催「日中韓芸術祭」に出展
- 令和6年:文化庁「技を極める」展に出展
現在の役職・活動
- 城間びんがた工房 十六代 代表
- 日本工芸会 正会員
- 沖展(沖縄タイムス社主催公募展)染色部門 審査員
- 沖縄県立芸術大学 非常勤講師
プロフィール概要
はじめまして。城間びんがた工房16代目の城間栄市です。私は1977年、十五代・城間栄順の長男として沖縄に生まれ、幼いころから紅型の仕事に親しみながら育ちました。工房に入った後は父のもとで修行を重ねつつ、沖縄県芸術祭「沖展」に初入選したことをきっかけに本格的に紅型作家として歩み始めました。
これまでの道のりの中で、沖展賞や日本工芸会の新人賞、西部伝統工芸展での沖縄タイムス社賞・西部支部長賞、そしてMOA美術館の岡田茂吉賞大賞など、さまざまな賞をいただくことができました。また、沖展の正会員や日本工芸会の正会員として活動しながら、審査員として後進の作品にも向き合う立場も経験しています。
私自身の制作で特に印象に残っているのは、「波の歌」という紅型着物の作品です。これは沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、藍型を基調とした布に躍動感をもって表現したものです。伝統の技法を守りつつ、そこに自分なりの視点や工夫を重ねることで、新しい紅型の可能性を切り拓きたいという思いが込められています。こうした活動を通して、紅型が沖縄の誇る伝統工芸であるだけでなく、日本、そして世界に発信できるアートであると感じています。
20代の頃にはアジア各地を巡り、2003年から2年間はインドネシア・ジョグジャカルタでバティック(ろうけつ染)を学びました。現地での生活や工芸の現場を通して、異文化の技術や感性にふれ、自分自身の紅型への向き合い方にも大きな影響を受けました。伝統を守るだけでなく、常に新しい刺激や発見を大切にしています。
最近では、「ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―」など、世界を巡回する企画展にも参加する機会が増えてきました。紅型の技法でポケモンを表現するというチャレンジは、私自身にとっても大きな刺激となりましたし、沖縄の紅型が海外のお客様にも響く可能性を感じています。
メディアにも多く取り上げていただくようになりました。テレビや新聞、ウェブメディアで工房の日常や制作現場が紹介されるたびに、「300年前と変わらない手仕事」に込めた想いを、多くの方に伝えたいと強く思います。