職人たちの休日——自然の中で感じた創造のエネルギー【工房時間】

沖縄の冬に楽しむ「みかん狩り」と紅型の関係──自然との対話が生み出す彩り

いつも紅型(びんがた)を通して琉球の文化に興味を持っていただき、誠にありがとうございます。私たち城間びんがた工房では、日々の制作に集中する一方で、先日、久しぶりにメンバー全員でみかん狩りへ行ってまいりました。そこで得た体験や、自然との関わりが紅型にどう影響しているのかを、文化意識の高い方々にも興味を持っていただけるよう、より深く掘り下げてご紹介します。


沖縄の冬とみかん狩り──意外な組み合わせの魅力

沖縄の冬事情

沖縄と聞くと、真っ先に浮かぶイメージは「南国の青い海」や「温暖な気候」かもしれません。しかし、冬になると気温は10度前後まで下がり、本土のような氷点下とはいかないまでも、肌寒さを感じる日が続きます。とはいえ、日中は太陽の暖かさもあって、薄手の上着で過ごせることが多く、凍えるほどの寒さとは無縁です。

北部の果樹園とみかん狩り

そんな沖縄の冬の風物詩の一つが、北部の果樹園へ出向いてみかん狩りを楽しむことです。12月から2月にかけて、タンカンやポンカンなど、柑橘系の果実がたわわに実ります。

  • 地形と景観: 海と山が近接する沖縄本島北部は、斜面に果樹園が広がる独特の景観を持っています。
  • 収穫体験の楽しみ: 低めに整えられたみかんの木から、オレンジ色の果実をもぎ取る瞬間は、自然との触れ合いを感じられる貴重な体験です。

私自身も子どもの頃に家族で訪れた思い出があり、久しぶりに工房メンバーと一緒に行くことで、仲間との交流と自然を味わう時間が重なり、日常とは違った充実感が得られました。


自然から生まれる紅型の色彩──海・空・花・植物

紅型と自然の深いつながり

紅型は、琉球王国時代から300年以上受け継がれてきた染色技法です。その色彩や図案には、沖縄の自然が持つ豊かな色合いが反映されています。たとえば、

  • : 透き通った沖縄の海や空のイメージ
  • 朱色(しゅいろ): 南国の太陽やハイビスカスなどの花の力強い赤
  • 黄色: 琉球王国の華やかさを象徴する色味の一つ

このように、紅型は自然の多様な表情を日常の中へ取り込む役割を果たしてきました。

みかん狩りがもたらす新たなインスピレーション

みかん狩りをしていると、目の前には鮮やかなオレンジ色が広がっています。冷たい冬の空気の中で鮮明に映えるその色は、

  1. 甘さと程よい酸味を想起させる温かみ
  2. 沖縄特有のまったりとした冬の陽ざし

を感じさせるものです。実際に「この色を紅型の配色に活かせないだろうか?」と想像し、染め物の新たなイメージが湧いてくることがあります。普段は工房の中で色のレシピや型紙づくりに集中していますが、外の景色や自然の色彩に触れることで、より生き生きとしたデザインが生まれるのです。


タンカンの味わいと沖縄の風土

タンカンとは

沖縄で代表的な柑橘といえばタンカン。皮が厚く、手でむくと弾力のある果肉が現れ、噛むたびに甘酸っぱいジュースが溢れ出します。

  • 特徴: 甘味が強く、程よい酸味が舌に残る
  • 栽培環境: 温暖な気候と適度な湿度が育む独特の風味

私たちが工房のみんなと一緒に収穫し、現地でそのまま食べたときのジューシーさは格別でした。「こんなに美味しかったっけ?」と驚くほどで、自然の恵みをダイレクトに感じられる瞬間となりました。

自然と工芸の共通点

自然の恵みを得て作物が育つように、紅型も自然との対話によって生まれるものだと再認識しました。山の澄んだ空気や、木々の緑、海から吹く風の湿度、そして土壌からの養分──そうしたすべてがタンカンの味に結実するのと同じように、紅型もまた、

  • 沖縄の気候風土
  • 職人の手と感性
  • 受け継がれてきた伝統技法

が織り合わさって初めて、独特の色合いとデザインが生まれるのです。


普段とは違う時間──リフレッシュと仲間との交流

職人同士のコミュニケーション

工房での日常は、染料の調合や型置き、色差し、蒸し、洗い…といった工程に追われがちで、外へ出る機会が限られています。そんな中、みかん狩りは自然の中で過ごすリフレッシュの時間となりました。

  • リラックス効果: 山の空気を吸いながら作業をすることで、体も心もほぐれる
  • コミュニケーション: 普段あまり話す機会がない職人同士でも、自然の中では自然と会話が生まれ、同じ目的(みかん狩り)を楽しむうちに距離が縮まる

こうした体験は、工房の雰囲気を良くし、帰ってからの仕事にも良い影響を与えてくれます。

「暮らしの中で息づく」伝統工芸

紅型は、日常の生活や祭事などと深く結びついてきた伝統工芸です。「作業場の外」に出ることで、そうした暮らしと伝統の関係性を改めて感じることができました。自然の移ろいを感じながらものづくりをする姿勢こそが、紅型が今まで息づいてきた理由の一端なのだと思います。


「自然とともにある紅型」のこれから

作品づくりへの生かし方

今回のようなみかん狩りの体験は、

  1. 新しい配色のアイデア
  2. デザインのモチーフ
  3. 工房メンバーの連帯感

といった形で、私たちの作品づくりや工房の運営に還元されていきます。職人それぞれが心に留めた自然の色彩や空気感が、やがて新しい紅型の図案や斬新なアレンジにつながるかもしれません。

沖縄の自然・文化を伝えたい

紅型は、沖縄の自然と暮らしが生んだアートでもあります。ですから、私たちは単に技術を守るだけでなく、自然の恵みや文化的背景も含めて発信したいと考えています。みかん狩りで得た気づきをSNSやブログでシェアすることも、紅型を通じて「沖縄そのもの」を感じていただくきっかけになれば嬉しいです。

未来へ紡ぐ伝統

自然が変化すれば、その色彩やモチーフも変わっていく。それでもなお、紅型の本質は**“島の人々が、自然と寄り添いながら、心豊かに生きる文化”**を映し出すことにあると思います。時代が変わっても、自然の持つ力と、それを形にする職人の情熱があれば、紅型はこれからも進化しながら続いていくでしょう。


まとめ──自然との対話が紅型を育む

最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。
今回の工房メンバーとのみかん狩りは、私たちにとって沖縄の自然の中でリフレッシュできる貴重な機会であり、紅型の色彩やデザインに新しいアイデアをもたらす源にもなりました。

琉球王国時代から脈々と受け継がれてきた紅型は、自然や暮らしの中に根ざした伝統工芸です。みかん狩りという身近な体験を通じて、改めて沖縄の土地が育む恵みと、そこから得られるインスピレーションの大切さを実感しました。これからも、こうした“自然との対話”を重ねながら、紅型が持つ魅力をより多くの方に伝えていきたいと思います。

紅型に、時間と祈りを宿す

私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。

布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。


城間栄市プロフィール 生い立ちと紅型との距離

1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。

幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。

本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。


外の世界で学んだこと

2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。

異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。

この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。


受賞・出展についての考え方

これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。

こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。

一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。


制作について

制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。

代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。

新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。


今、そしてこれから

現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。

これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。

これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。


おわりに

公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。

Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。

どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。

この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

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