紅型を知ってもらうために:父が生み出した一枚のハンカチ
2025.03.21
びんがたの新しいかたち──ハンカチから広がる琉球伝統工芸の魅力
いつも紅型(びんがた)への深いご関心を寄せていただき、誠にありがとうございます。皆様からいただくご声援や興味のまなざしが、私たちの活動の原動力となっていることを、改めて実感しております。かつて琉球王国と呼ばれた時代から300年以上受け継がれてきたびんがたの技法を今に伝えるため、私たちは日々、手仕事による作品づくりに励んでいます。
びんがたの背景と工房の取り組み
琉球王国から続く染色の歴史
琉球王国時代に育まれたびんがたは、中国や東南アジアなどとの交易による技術的な影響を受けながらも、沖縄独特の感性と気候風土の中で発展してきました。絹地を中心に、華やかな色彩と繊細な文様が特徴で、王族や士族の服飾品として広く愛されていたのです。
しかし、時代の変化や戦争の影響などで、一時はその存続さえ危ぶまれる時期もありました。私たち城間びんがた工房が**“過去から学び、未来へつなぐ”**という姿勢を大切にしているのは、まさにこの厳しい歴史を経てなお輝きを失わないびんがたの精神を、次世代へ継承するためでもあります。
手仕事へのこだわり
当工房が手がけるのは主に、着物や帯といった伝統的な衣装。ごく少量ですがタペストリーなどのインテリアアイテムも製作しています。使用する材料は、当時に近い形を再現できるように可能な限り昔ながらのものを厳選し、染料や糊、型紙など、そのすべてに職人の目と手が行き届くよう工程を管理しています。
一枚の生地を染め上げるには、何度も色を重ね、乾燥させ、また色を重ねるという地道な作業が必要です。さらに文様ごとに色を変えるため、複数の型紙を使い分けることも珍しくありません。こうしたプロセスを一つ一つ手作業で行うからこそ、仕上がった作品には**独特の“気配”や“温もり”**が宿るのです。
かつての認知度と現在の状況
今でこそ、びんがたという言葉を耳にする機会が増えてきましたが、40年ほど前は県内でも知名度が低く、県外ではほとんど認知されていない状況でした。
ハンカチ開発の背景と意義
父・城間栄順(十五代)の想い
そんな中、私たち城間びんがた工房が「びんがたをより多くの人に知ってもらいたい」との思いから取り組んだ商品開発の一つが、今回ご紹介するハンカチです。先代の工房主である父・城間栄順(十五代)が、40年ほど前、**「びんがたを知ってもらう機会を作りたい」**という思いのもと考案しました。
当時は、びんがた=高価な着物や帯のイメージが強く、日常的に使われる機会はほとんどありませんでした。そこで、より身近なアイテムであるハンカチにびんがたの表現を取り入れることで、幅広い層の方に使っていただける形を探ろうとしたのです。
バリエーションの拡大
現在では、30種類以上の柄や色違いを展開するまでに至り、贈り物や日常使いのアイテムとして多くの方に親しまれています。鮮やかな色彩や独特の文様が、日常のささやかなシーンに彩りを添えるだけでなく、びんがたの世界観を手軽に体感できるのが魅力です。
例えば、古典がらを中心に、柄には多種多様なバリエーションがあります。色合いも、原色を中心とした力強いものから、柔らかいパステルトーンまで幅広く用意されており、世代やシチュエーションを問わず選べるのも人気の秘密と言えるでしょう。
デザインはすべて職人の手から
型紙を手彫りするプロセス
ハンカチのデザインは、単純に既存の柄をコピーしているわけではありません。まず、職人が一枚一枚型紙を手彫りし、緻密な文様を作り上げます。細かいラインや曲線を再現するために、高度な彫刻技術と集中力が欠かせません。
- 型紙彫りの道具: 刃物は日本刀鍛冶の技術を応用した鋭利なものが多く、下敷きにも豆腐を乾燥させたルクジューなど、伝統的でありながら実用的な道具を用いています。
- 図案の発案: 先代から受け継いだ古典柄をベースに、新たなモチーフを加えたり、配色を現代の感覚に合わせたりすることで、**“古くて新しい”**びんがたを生み出しています。
シルクスクリーン技術の応用
手彫りした型紙をシルクスクリーンに応用して染めることで、量産性を高めつつ、びんがた特有の奥行きのある色合いを表現しています。
- 手染めの繊細さ: 鮮やかな色を何度も重ねることで、深みのある発色に仕上げています。
- 日用品としての機能: ハンカチは洗濯を繰り返すことが前提。
伝統から新たな価値へ──びんがたハンカチの可能性
日常へ溶け込む“工芸品”
びんがたのハンカチは、華やかさや繊細さと同時に、使うごとに親しみが増す日常のアイテムでもあります。日常生活の中に溶け込むことで、琉球文化や職人技を身近に感じられるのが最大の魅力です。
若い世代へのアプローチ
着物や帯といった伝統衣装はハードルが高いと感じる若年層も、ハンカチであれば取り入れやすく、価格帯も比較的手頃なため、気軽にびんがたの世界に触れていただけます。そうした経験を通じて、さらに深いびんがたの作品や、歴史的背景に興味を持つ方が増えていくと嬉しいです。
作り手と使い手のコミュニケーション
ハンカチは贈り物としても好評で、実際に購入された方の多くは、沖縄旅行のお土産や大切な方へのプレゼントとして利用されています。職人が心を込めて作り出した柄を、誰かの暮らしを彩る一品にしていただけるのは、作り手にとっても大きなやりがいです。使い手との“コミュニケーションの場”が広がるのも、ハンカチならではの楽しみかもしれません。
皆様の応援と私たちの未来
文化を大切にする皆様へ
私たちの活動を支えてくださっているのは、**「びんがたをもっと知りたい」「琉球文化を大切にしたい」**という皆様の温かな気持ちです。文化意識の高い方々が、琉球の歴史や伝統工芸に興味を持ち、さらに深く知りたいと願う声が、職人たちのモチベーションを高めています。今後、私たちが新商品や新たなデザインを生み出す原動力となるのも、そうした皆様の思いがあってこそです。
伝統工芸が未来へつなぐもの
びんがたは、技術と感性の結晶であると同時に、何世代にもわたって受け継がれてきた歴史の証でもあります。
- コロナ禍を乗り越えて: 社会が大きく変化する中でも、琉球文化の根幹となるびんがたの美しさや精神性は変わることなく、多くの方に感動を与え続けると信じています。
- 職人育成と未来への橋渡し: 若い世代の職人が育ち、新たな感性やアイデアを取り込むことで、びんがたはさらに豊かな可能性を見出すでしょう。
まとめ──びんがたの世界をより身近に
ここまでお読みくださり、誠にありがとうございます。
ハンカチという日常生活に密着したアイテムを通して、びんがたの奥深い世界観や琉球文化に触れていただければ幸いです。先代の想いを引き継いだ私たち城間びんがた工房は、これからも伝統と新しい発想を結び合わせながら、琉球の豊かな歴史と心を幅広い方々に届けたいと考えています。
どうぞ今後とも、城間びんがた工房の活動にご注目いただき、びんがたの魅力を存分に楽しんでいただければ嬉しく思います。皆様の応援と関心が、私たち職人にとって何よりの励みです。






公式ホームページでは、紅型の歴史や伝統、私自身の制作にかける思いなどを、やや丁寧に、文化的な視点も交えながら発信しています。一方でInstagramでは、職人の日常や工房のちょっとした風景、沖縄の光や緑の中に息づく“暮らしに根ざした紅型”の表情を気軽に紹介しています。たとえば、朝の染料作りの様子や、工房の裏庭で揺れる福木の葉っぱ、時には染めたての布を空にかざした一瞬の写真など、ものづくりの空気感を身近に感じていただける内容を心がけています。
紅型は決して遠い伝統ではなく、今を生きる私たちの日々とともにあるものです。これからも新しい挑戦と日々の積み重ねを大切にしながら、沖縄の染め物文化の魅力を発信し続けていきたいと思います。ぜひInstagramものぞいていただき、工房の日常や沖縄の彩りを一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。

城間栄市 プロフィール昭和52年(1977年)、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育つ。
学歴・海外研修
- 平成15年(2003年)より2年間、インドネシア・ジョグジャカルタ特別州に滞在し、バティック(ろうけつ染)を学ぶ。
- 帰国後は城間びんがた工房にて、琉球びんがたの制作・指導に専念。
受賞・展覧会歴
- 平成24年:西部工芸展 福岡市長賞 受賞
- 平成25年:沖展 正会員に推挙
- 平成26年:西部工芸展 奨励賞 受賞
- 平成27年:日本工芸会 新人賞を受賞し、正会員に推挙
- 令和3年:西部工芸展 沖縄タイムス社賞 受賞
- 令和4年:MOA美術館 岡田茂吉賞 大賞 受賞
- 令和5年:西部工芸展 西部支部長賞 受賞
主な出展
- 「ポケモン工芸展」に出展
- 文化庁主催「日中韓芸術祭」に出展
- 令和6年:文化庁「技を極める」展に出展
現在の役職・活動
- 城間びんがた工房 十六代 代表
- 日本工芸会 正会員
- 沖展(沖縄タイムス社主催公募展)染色部門 審査員
- 沖縄県立芸術大学 非常勤講師
プロフィール概要
はじめまして。城間びんがた工房16代目の城間栄市です。私は1977年、十五代・城間栄順の長男として沖縄に生まれ、幼いころから紅型の仕事に親しみながら育ちました。工房に入った後は父のもとで修行を重ねつつ、沖縄県芸術祭「沖展」に初入選したことをきっかけに本格的に紅型作家として歩み始めました。
これまでの道のりの中で、沖展賞や日本工芸会の新人賞、西部伝統工芸展での沖縄タイムス社賞・西部支部長賞、そしてMOA美術館の岡田茂吉賞大賞など、さまざまな賞をいただくことができました。また、沖展の正会員や日本工芸会の正会員として活動しながら、審査員として後進の作品にも向き合う立場も経験しています。
私自身の制作で特に印象に残っているのは、「波の歌」という紅型着物の作品です。これは沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、藍型を基調とした布に躍動感をもって表現したものです。伝統の技法を守りつつ、そこに自分なりの視点や工夫を重ねることで、新しい紅型の可能性を切り拓きたいという思いが込められています。こうした活動を通して、紅型が沖縄の誇る伝統工芸であるだけでなく、日本、そして世界に発信できるアートであると感じています。
20代の頃にはアジア各地を巡り、2003年から2年間はインドネシア・ジョグジャカルタでバティック(ろうけつ染)を学びました。現地での生活や工芸の現場を通して、異文化の技術や感性にふれ、自分自身の紅型への向き合い方にも大きな影響を受けました。伝統を守るだけでなく、常に新しい刺激や発見を大切にしています。
最近では、「ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―」など、世界を巡回する企画展にも参加する機会が増えてきました。紅型の技法でポケモンを表現するというチャレンジは、私自身にとっても大きな刺激となりましたし、沖縄の紅型が海外のお客様にも響く可能性を感じています。
メディアにも多く取り上げていただくようになりました。テレビや新聞、ウェブメディアで工房の日常や制作現場が紹介されるたびに、「300年前と変わらない手仕事」に込めた想いを、多くの方に伝えたいと強く思います。