変わりゆく季節と、変わらない沖縄の空

「夏の雲と紅型 — 日常から生まれる沖縄の物語」

皆さん、こんにちは。
そして、いつも城間びんがた工房に興味を持っていただき、本当にありがとうございます。
私たちが日々向き合っている「紅型(びんがた)」という染め物は、琉球王国時代から数百年続く文化であり、今も多くの人々の手と心を通して生き続けています。その過程で、皆さまが紅型や琉球文化に興味を持ち、見て、知って、時には手に取ってくださることは、私たちにとって何よりの励みです。

「一隅を照らす」という言葉があります。自分の持ち場で小さくとも光を放ち、周囲を照らすという意味ですが、皆さまが紅型や琉球文化に興味を持ってくださることも、その“光”のひとつだと思っています。工房での制作活動や文化の継承は、職人や作家だけの力では成り立ちません。見守ってくださる方、関心を寄せてくださる方がいて、初めて「文化は息をし続けられる」と感じています。


夏の空、沖縄の空

さて、最近の沖縄は、ようやく「沖縄らしい夏の天気」になってきました。
今年の夏の初めは、台風の発生場所や進路が例年とは違い、季節感が少しズレているような印象がありました。しかし、この1週間ほどは、太陽が顔を出し、時折厚い雲が流れる…そんな、沖縄らしい夏の空が広がっています。

天気予報を見ても、1週間先、2週間先まで「曇り時々晴れ」。まさに、雲の多い夏の景色です。沖縄というと「青空と太陽」のイメージを持たれる方も多いかもしれませんが、実際には雲の存在感がとても大きい。特に夏場は入道雲がもくもくと立ち上がり、その表情は刻一刻と変わります。


雲を眺める時間

私は昔から雲を眺めるのが好きです。特に制作の合間、ふと外を見上げたときに広がる空は、何とも言えない癒しと刺激をくれます。雲は、日常的に目にしているのに、同じ形は二度と現れません。その儚さと力強さが、紅型の図案づくりにも深く影響しています。

実際、工房でも「雲」をモチーフにした作品をいくつも制作してきました。例えば、入道雲を背景にハイビスカスやブーゲンビレアを描いた作品、あるいは海の青と雲の表情を対比させた作品など。こうした空模様は、沖縄で暮らしているからこそ日常的に触れられるモチーフです。

城間びんがた工房のお庭の風景

日常の観察が生む図案

紅型は、植物や動物、風景など、沖縄の身近な自然を題材にすることが多いのですが、その選び方はとても個人的で、感覚的です。
今回、改めて周りを見回してみると、「当たり前だと思っていた景色」が、実はとても豊かな表情を持っていることに気づきました。

例えば、昼過ぎの光を浴びた雲は、白だけではなく淡い黄色やグレーを帯びています。夕方の西日が射すと、雲はオレンジや紫に染まり、ほんの数分で全く違う色合いに変化します。この微妙な色の移ろいは、紅型の色差しにも通じます。顔料と水の量、刷毛の運び方、布の湿り具合によって、同じ色でも印象が変わる。自然の色の変化を知っていると、その表現の幅がぐんと広がるのです。


写真に残すということ

今回は、自分が日常の中で見ている空や雲を、意識的に写真に収めてみました。
普段は無意識に見過ごしてしまう景色も、カメラを通すことで「形」として残り、図案づくりの新たな参考資料になります。写真を見返すと、「このときは海風が強くて雲が低かったな」「あの日は夕立の前で湿度が高かった」と、記憶も蘇ってきます。

紅型の図案は、一朝一夕で生まれるものではありません。何年もかけて集めたスケッチや写真、記憶の断片が、ある日ひとつの作品として形になるのです。


沖縄の空と紅型の未来

私たちが描く紅型は、単なる装飾ではなく「沖縄の記憶と物語」を布の上に写し取るものです。
空や雲、花や海の色は、これから先も変わり続けます。それは地球温暖化や気候変動の影響も受けるでしょう。その中で、今の沖縄の空や風景を記録し、作品として残すことは、未来への贈り物になると信じています。

皆さまがこのコラムを通して、少しでも沖縄の夏の空や雲を身近に感じていただけたら嬉しいです。そして、紅型の中に隠された自然の表情を探しながら作品を楽しんでいただければ、作り手としてこれほど幸せなことはありません。


最後に

この夏、もし沖縄にいらっしゃる機会があれば、ぜひ空を見上げてみてください。
晴れの日も、曇りの日も、雨の前の重たい雲も、それぞれに表情があります。
その一瞬の景色が、きっとどこかで紅型の柄として生まれ変わり、あなたの手に届くかもしれません。

これからも、沖縄の空の下で、日常の中から生まれる紅型を作り続けていきます。
また工房で、あるいは作品を通してお会いできる日を楽しみにしています。


工房の庭のヘルコニアを移動しました
工房の門
藍染めした 帯を干しています

公式ホームページでは、紅型の歴史や伝統、私自身の制作にかける思いなどを、やや丁寧に、文化的な視点も交えながら発信しています。一方でInstagramでは、職人の日常や工房のちょっとした風景、沖縄の光や緑の中に息づく“暮らしに根ざした紅型”の表情を気軽に紹介しています。たとえば、朝の染料作りの様子や、工房の裏庭で揺れる福木の葉っぱ、時には染めたての布を空にかざした一瞬の写真など、ものづくりの空気感を身近に感じていただける内容を心がけています。

紅型は決して遠い伝統ではなく、今を生きる私たちの日々とともにあるものです。これからも新しい挑戦と日々の積み重ねを大切にしながら、沖縄の染め物文化の魅力を発信し続けていきたいと思います。ぜひInstagramものぞいていただき、工房の日常や沖縄の彩りを一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。

城間栄市 プロフィール昭和52年(1977年)、沖縄県生まれ。

城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育つ。

学歴・海外研修

  • 平成15年(2003年)より2年間、インドネシア・ジョグジャカルタ特別州に滞在し、バティック(ろうけつ染)を学ぶ。
  • 帰国後は城間びんがた工房にて、琉球びんがたの制作・指導に専念。

受賞・展覧会歴

  • 平成24年:西部工芸展 福岡市長賞 受賞
  • 平成25年:沖展 正会員に推挙
  • 平成26年:西部工芸展 奨励賞 受賞
  • 平成27年:日本工芸会 新人賞を受賞し、正会員に推挙
  • 令和3年:西部工芸展 沖縄タイムス社賞 受賞
  • 令和4年:MOA美術館 岡田茂吉賞 大賞 受賞
  • 令和5年:西部工芸展 西部支部長賞 受賞

主な出展

  • 「ポケモン工芸展」に出展
  • 文化庁主催「日中韓芸術祭」に出展
  • 令和6年:文化庁「技を極める」展に出展

現在の役職・活動

  • 城間びんがた工房 十六代 代表
  • 日本工芸会 正会員
  • 沖展(沖縄タイムス社主催公募展)染色部門 審査員
  • 沖縄県立芸術大学 非常勤講師

プロフィール概要

はじめまして。城間びんがた工房16代目の城間栄市です。私は1977年、十五代・城間栄順の長男として沖縄に生まれ、幼いころから紅型の仕事に親しみながら育ちました。工房に入った後は父のもとで修行を重ねつつ、沖縄県芸術祭「沖展」に初入選したことをきっかけに本格的に紅型作家として歩み始めました。

これまでの道のりの中で、沖展賞や日本工芸会の新人賞、西部伝統工芸展での沖縄タイムス社賞・西部支部長賞、そしてMOA美術館の岡田茂吉賞大賞など、さまざまな賞をいただくことができました。また、沖展の正会員や日本工芸会の正会員として活動しながら、審査員として後進の作品にも向き合う立場も経験しています。

私自身の制作で特に印象に残っているのは、「波の歌」という紅型着物の作品です。これは沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、藍型を基調とした布に躍動感をもって表現したものです。伝統の技法を守りつつ、そこに自分なりの視点や工夫を重ねることで、新しい紅型の可能性を切り拓きたいという思いが込められています。こうした活動を通して、紅型が沖縄の誇る伝統工芸であるだけでなく、日本、そして世界に発信できるアートであると感じています。

20代の頃にはアジア各地を巡り、2003年から2年間はインドネシア・ジョグジャカルタでバティック(ろうけつ染)を学びました。現地での生活や工芸の現場を通して、異文化の技術や感性にふれ、自分自身の紅型への向き合い方にも大きな影響を受けました。伝統を守るだけでなく、常に新しい刺激や発見を大切にしています。

最近では、「ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―」など、世界を巡回する企画展にも参加する機会が増えてきました。紅型の技法でポケモンを表現するというチャレンジは、私自身にとっても大きな刺激となりましたし、沖縄の紅型が海外のお客様にも響く可能性を感じています。

メディアにも多く取り上げていただくようになりました。テレビや新聞、ウェブメディアで工房の日常や制作現場が紹介されるたびに、「300年前と変わらない手仕事」に込めた想いを、多くの方に伝えたいと強く思います。