『びんがたを支える陰の主役〜糊伏せの技と心』【工程説明】

おはようございます。 いつも琉球文化に関心を寄せてくださり、本当にありがとうございます。

私は城間びんがた工房の職人として、また工房の代表として、この美しい島で続けられてきた鮮やかなものづくりの魅力を日々お伝えしたいと願っています。皆さまが私たちの伝える琉球文化に興味を持ち続けてくださること、その好奇心こそが、私たちが日々挑戦を続けられる原動力です。心から感謝申し上げます。

さて、本日は琉球びんがたの制作工程(全10工程)の中から「糊伏せ(のりふせ)」という作業についてお話ししたいと思います。

現在、私たちの工房では春と秋に定期的な面談を設けており、私が16代目を継承して以来、8年間継続してきました。面談の目的は、工房の進むべき道を見失わず、先人たちが命をかけて守ってきた大切な技術や想いをしっかりと受け継ぐためです。この面談では、職人一人ひとりが何を大切に仕事と向き合っているのかを深く知る、大変貴重な時間となっています。

そして今回、「糊伏せ」をテーマとして取り上げたのには理由があります。

びんがたはかつて琉球王族を彩った特別な衣装であり、現在では日本の着物として徐々に認知が広がっています。びんがたの美しさは、鮮やかな色彩が沖縄の自然と調和し、個性的で際立った魅力を放つ点にあります。しかし、その美しさの裏側で支えている重要な作業が「糊伏せ」なのです。

糊伏せは、柄に糊を置くことで色を染める際に柄を守る工程です。地染めをするとき、糊伏せをした柄部分だけが色から守られます。この工程はとても繊細で、僅かなミスがあると完成品で目立ってしまいます。そのため職人は非常に高い集中力で柄の縁をきっちりと伏せていきます。混色を防ぐため、際まで正確に糊を置く必要がある柄も多く、13メートルの布であれば、その精密さの差が作業時間を大きく左右します。

実はこの糊伏せの作業は、成功しても表立って賞賛されることは少なく、ミスをしたときだけ目立ってしまうという、責任の大きい仕事でもあります。色を担当する職人は、美しい色合いが完成すると喜びや達成感がありますが、糊伏せを担当する職人は、見えない部分での責任を黙々と背負い続けているのです。

普段はあまり目に触れることのない、けれども大切な工程を担う職人たちの努力と技術に、ぜひ思いを馳せていただけたら嬉しく思います。

こうした琉球びんがたの奥深い魅力をこれからもお伝えし続けてまいります。皆さまの好奇心と温かい応援が、私たちの日々の励みです。

300年の時を経ても変わらぬリズムで続く、ここ沖縄のものづくりに感謝を込めて。

本日も、ありがとうございます。

八重桜

紅型に、時間と祈りを宿す

私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。

布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。


城間栄市プロフィール 生い立ちと紅型との距離

1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。

幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。

本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。


外の世界で学んだこと

2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。

異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。

この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。


受賞・出展についての考え方

これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。

こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。

一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。


制作について

制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。

代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。

新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。


今、そしてこれから

現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。

これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。

これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。


おわりに

公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。

Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。

どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。

この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

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