「紅型コラム、50歩目の節目――“身内話”から“一歩先”へ」

こんにちは。昨年から始めた公式ホームページのコラム〈お知らせ〉は、きょうで 50 本目 の投稿となりました。いつもご覧くださる皆さまに、心より感謝申し上げます。

城間びんがた工房は、琉球王国時代から三百年続く紅型(びんがた)の系譜を受け継ぎ、ここ首里の地で染め物に向き合ってまいりました。私はその 16 代目にあたります。沖縄にはこうした伝統工芸が息づいていることを、もっと多くの方に知っていただきたい――それがコラムを続ける大きな理由です。

これまでの 50 本はどちらかと言えば “身内向け” の内容でした。父や祖父、私自身のエピソードなど、パーソナルな話題を多く綴ってきたと思います。今後は制作工程や作品そのもの、使う材料のことなどにも焦点を当て、紅型を初めて知る方にも楽しんでいただける内容に広げていきたいと考えています。

そもそも紅型は、王族や士族だけが身にまとうことを許された格式高い染物で、かつては限られた家系の男性職人のみが技を守っていました。戦後、38 歳で被災した祖父は「このままでは途絶えてしまう」と門戸を開き、女性職人も育成。こうして今日まで受け継がれてきた歴史を思うと、紅型がいかに大切に守られてきた文化かを痛感します。

一方で、工房では今も「ものづくりに集中できる環境」を最優先しており、日常的な見学はお受けしておりません。だからこそ、Instagram や公式サイトを通じて手仕事の魅力をお伝えすることは、私たちにとって切実な願いでもあります。

次は 100 本、そして 300 本を目指して――。紅型の息づかいを皆さまに届け続けてまいります。いつも温かい関心を寄せてくださり、本当にありがとうございます。皆さまの工芸への好奇心こそが、私たちの挑戦を支える原動力です。

糊伏せをしたところが守られます
型紙と型置き後の着尺です
色つけ用の筆
両面筒書きの作品「祝」
水元をして 洗い立ての 帯 着物

公式ホームページでは、紅型の歴史や伝統、私自身の制作にかける思いなどを、やや丁寧に、文化的な視点も交えながら発信しています。一方でInstagramでは、職人の日常や工房のちょっとした風景、沖縄の光や緑の中に息づく“暮らしに根ざした紅型”の表情を気軽に紹介しています。たとえば、朝の染料作りの様子や、工房の裏庭で揺れる福木の葉っぱ、時には染めたての布を空にかざした一瞬の写真など、ものづくりの空気感を身近に感じていただける内容を心がけています。

紅型は決して遠い伝統ではなく、今を生きる私たちの日々とともにあるものです。これからも新しい挑戦と日々の積み重ねを大切にしながら、沖縄の染め物文化の魅力を発信し続けていきたいと思います。ぜひInstagramものぞいていただき、工房の日常や沖縄の彩りを一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。

城間栄市 プロフィール昭和52年(1977年)、沖縄県生まれ。

城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育つ。

学歴・海外研修

  • 平成15年(2003年)より2年間、インドネシア・ジョグジャカルタ特別州に滞在し、バティック(ろうけつ染)を学ぶ。
  • 帰国後は城間びんがた工房にて、琉球びんがたの制作・指導に専念。

受賞・展覧会歴

  • 平成24年:西部工芸展 福岡市長賞 受賞
  • 平成25年:沖展 正会員に推挙
  • 平成26年:西部工芸展 奨励賞 受賞
  • 平成27年:日本工芸会 新人賞を受賞し、正会員に推挙
  • 令和3年:西部工芸展 沖縄タイムス社賞 受賞
  • 令和4年:MOA美術館 岡田茂吉賞 大賞 受賞
  • 令和5年:西部工芸展 西部支部長賞 受賞

主な出展

  • 「ポケモン工芸展」に出展
  • 文化庁主催「日中韓芸術祭」に出展
  • 令和6年:文化庁「技を極める」展に出展

現在の役職・活動

  • 城間びんがた工房 十六代 代表
  • 日本工芸会 正会員
  • 沖展(沖縄タイムス社主催公募展)染色部門 審査員
  • 沖縄県立芸術大学 非常勤講師

プロフィール概要

はじめまして。城間びんがた工房16代目の城間栄市です。私は1977年、十五代・城間栄順の長男として沖縄に生まれ、幼いころから紅型の仕事に親しみながら育ちました。工房に入った後は父のもとで修行を重ねつつ、沖縄県芸術祭「沖展」に初入選したことをきっかけに本格的に紅型作家として歩み始めました。

これまでの道のりの中で、沖展賞や日本工芸会の新人賞、西部伝統工芸展での沖縄タイムス社賞・西部支部長賞、そしてMOA美術館の岡田茂吉賞大賞など、さまざまな賞をいただくことができました。また、沖展の正会員や日本工芸会の正会員として活動しながら、審査員として後進の作品にも向き合う立場も経験しています。

私自身の制作で特に印象に残っているのは、「波の歌」という紅型着物の作品です。これは沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、藍型を基調とした布に躍動感をもって表現したものです。伝統の技法を守りつつ、そこに自分なりの視点や工夫を重ねることで、新しい紅型の可能性を切り拓きたいという思いが込められています。こうした活動を通して、紅型が沖縄の誇る伝統工芸であるだけでなく、日本、そして世界に発信できるアートであると感じています。

20代の頃にはアジア各地を巡り、2003年から2年間はインドネシア・ジョグジャカルタでバティック(ろうけつ染)を学びました。現地での生活や工芸の現場を通して、異文化の技術や感性にふれ、自分自身の紅型への向き合い方にも大きな影響を受けました。伝統を守るだけでなく、常に新しい刺激や発見を大切にしています。

最近では、「ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―」など、世界を巡回する企画展にも参加する機会が増えてきました。紅型の技法でポケモンを表現するというチャレンジは、私自身にとっても大きな刺激となりましたし、沖縄の紅型が海外のお客様にも響く可能性を感じています。

メディアにも多く取り上げていただくようになりました。テレビや新聞、ウェブメディアで工房の日常や制作現場が紹介されるたびに、「300年前と変わらない手仕事」に込めた想いを、多くの方に伝えたいと強く思います。