「琉球の思い」を未来へ紡ぐ ー ものづくりがつなぐ過去・現在・未来
2025.02.25
【琉球びんがたの未来をつなぐ】──過去・現在・未来を見据えた工房の理念
いつも紅型(びんがた)に対して温かいご関心を寄せていただき、誠にありがとうございます。私たち城間びんがた工房では、「ものづくりを通して琉球の思いを守り、仕事を通じて心と財布を豊かにし、未来の沖縄を守る」という経営理念を掲げ、日々制作に励んでおります。本記事では、過去・現在・未来という3つの時間軸を通じて、紅型に込められた想いや工房としての取り組みをご紹介いたします。
過去:「ものづくりを通して琉球の思いを守る」
琉球王国時代から受け継がれてきた伝統工芸
沖縄はかつて琉球王国と呼ばれ、中国や日本など大国に挟まれながらも独自の文化を育んできました。紅型のルーツをたどると、14~15世紀頃にインド更紗やジャワ更紗の技法が伝わり、それが琉球独自の気候・風土、そして美意識と融合し、現在の紅型へと発展したとされています。つまり紅型は外からの影響を取り入れつつ、琉球の魂を宿し続けてきた染色文化なのです。
戦後の荒廃から立ち上がった祖父の想い
祖父・城間栄喜は、終戦を38歳で迎えました。焦土と化した沖縄でわずか2年後に紅型の制作を再開したのは、「生活の糧を得る」という以上に、琉球文化を断絶させてはならないという強い使命感によるものだったのではないかと思います。祖父のその思いは父・城間栄順へ、そして現代を生きる私たちへと脈々と受け継がれています。





ものづくりを通して琉球の思いを守る
──この言葉は、紅型が辿ってきた歴史をもう一度見直し、将来へ続く大切な文化財を守り抜くための出発点でもあります。
現在:「仕事を通して心と財布を豊かにする」
職人が安心して技を磨き続けるために
紅型の美しさを次代へと受け継ぐには、技術の継承だけでなく、安定した職人の暮らしを確保することが不可欠です。人々に必要とされる作品を生み出し、市場を通して適正な対価を得る。それによって、職人が専心して技を磨き、新しい挑戦にも取り組める環境を整えたいと考えています。
日本の伝統工芸と世界文化の交流



- スミソニアン博物館への訪問
40年前に制作された紅型作品を、当時の職人から若手職人まで一堂に会して見つめ直す機会がありました。作品にこめられた歴史を感じ取り、現代の感性と重ね合わせることで、紅型の新たな可能性を見いだすことができたのです。 - 台湾への旅・東南アジアとの縁
かつて琉球王国は東南アジア各地と交易を行い、多様な文化を吸収しながら独自の表現を発展させました。私たちも海外へ足を運び、伝統的な織物や染色技法と触れ合うことで、多文化との共鳴が新たな作品づくりに活かされると実感しています。
こうした国際的な視野を取り入れながらも、私たちはあくまで沖縄に根ざして仕事を続けています。外の風を取り込みながら、琉球の地と職人たちの手仕事が生み出す豊かさを大切にしているのです。
仕事を通して心と財布を豊かにする
──紅型を世界に発信し、職人の技術と精神を継承するためには、持続可能な経営基盤が何より重要だと考えています。
未来:「未来の沖縄を守る」
紅型を時代に合わせて進化させる
伝統工芸だからといって、そのままの形を固定的に残すことが唯一の道とは限りません。私たちは紅型本来の美意識や技術を大切にしつつ、時代に合った進化を遂げることが、琉球文化をより豊かな形で次の世代へつなぐ手段だと信じています。
- 新しいデザインや技法の研究
「未来の古典柄」といえる新作を生み出すには、昔ながらの工程だけでなく、新素材や新技術を柔軟に取り入れる視点も欠かせません。 - 若い世代が紡ぐ新時代の紅型
若手職人たちには、自分の感性や価値観を存分に活かし、**「自分らしい紅型」**を追求してほしいと考えています。
コロナ禍で培った強い意志
現代社会の激しい変化の中、私たちはコロナ禍を経験し、「どんな状況でも紅型の灯を絶やさない」という決意を新たにしました。伝統工芸として、いかに時代の課題を乗り越え、未来の暮らしに寄り添っていけるのか。試行錯誤を重ねるうちに、過去から継いできたものを大切にしながらも、未来へと革新を遂げるという理念がさらに強固になったのです。
未来の沖縄を守る
──祖父や父が繋いできた紅型の精神を、現代の私たちが新しい価値へと昇華し、次の世代へとバトンを渡す。それこそが私たちの責務であり、喜びでもあります。
まとめ:紅型の過去・現在・未来を紡ぐ
ここまでお読みいただき、心より感謝申し上げます。
紅型は琉球王国時代から現代に至るまで、職人たちの思いと技術が重なり合って育まれてきた伝統工芸です。その美しさや意味は、ただ古いものを守るのではなく、過去の尊敬・現在の努力・未来への挑戦があってこそ輝き続けます。
私たち城間びんがた工房は、過去・現在・未来を見据えた経営理念のもと、**「ものづくりを通して琉球の思いを守り、心も財布も豊かにし、未来の沖縄を支える」**というビジョンを共有しています。これからも新たな表現や技術を探求しながら、紅型の可能性を広げていきたいと考えています。
どうか引き続き、琉球びんがたの世界を楽しんでいただけますと幸いです。皆様の応援とご協力が、私たちの活動を支える大きな力となります。これからもよろしくお願いいたします。











城間栄市 (しろま・えいいち) プロフィール
生年・出身
昭和52年(1977年)、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ち、幼少期より琉球びんがたに親しむ。
学歴・海外研修
- 平成15年(2003年)から2年間、インドネシア・ジョグジャカルタ特別州に滞在し、バティック(ろうけつ染)を学ぶ。
- 帰国後は城間びんがた工房にて琉球びんがたの制作・指導に専念。
経歴・受賞・展覧会歴
沖展(沖縄タイムス社主催公募展)
- 2000年(第52回):初入選
- 2003年(第55回):奨励賞
- 2008年(第60回):奨励賞(「ゴマアイゴ紋様」)
- 2010年(第62回):奨励賞(「上昇波(ジョウショウハ)」)
- 2011年(第63回):沖展賞(「イナズマ ガンガゼ」)、準会員推挙
- 2012年(第64回):準会員賞(「すくゆい」)
- 2013年(第65回):準会員賞(「紅型着物『雲を読む』」)、会員推挙
西部工芸展
- 平成24年(2012年):第47回 西部伝統工芸展 福岡市長賞
- 平成26年(2014年):第49回 西部伝統工芸展 奨励賞
- 令和3年(2021年):沖縄タイムス社賞
- 令和5年(2023年):西部支部長賞
日本伝統工芸会
- 平成25年(2013年):沖展 正会員に推挙
- 平成27年(2015年):日本伝統工芸展 新人賞受賞、日本工芸会 正会員に推挙
その他の活動・受賞
- 令和4年(2022年):MOA美術館 岡田茂吉賞 大賞
- 「ポケモン工芸展」に出展
- 文化庁主催「日中韓芸術祭」に出展
- 令和6年(2024年):文化庁「技を極める」展に出展
- 2014年:城間びんがた工房 十六代継承
現在の役職・活動
- 城間びんがた工房 十六代 代表
- 日本工芸会 正会員
- 沖展(沖縄タイムス社主催公募展)染色部門 審査員
- 沖縄県立芸術大学 非常勤講師
プロフィール概要
城間 栄市(しろま・えいいち)は、昭和52年(1977年)生まれの琉球びんがた作家。城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として生まれ育ち、幼少期から伝統工芸の世界に馴染む。
平成15年(2003年)から2年間、インドネシアでバティック(ろうけつ染)を学び、帰国後は琉球びんがたの技法を継承しながら、海外の経験を活かした新しい表現を追求し続けている。
数々の受賞歴を有し、日本工芸会 正会員や沖展染色部門の審査員など、多方面で活躍。文化庁やMOA美術館主催の展覧会にも出展を重ね、琉球びんがたの魅力を国内外へ発信している。現在は城間びんがた工房の十六代代表として制作・指導にあたりつつ、沖縄県立芸術大学の非常勤講師として後進の育成にも努めている。