「“地味”の中に光るもの――沖縄びんがた職人が伝えたいこと」
2025.06.25
「城間びんがた工房――300年の手しごとが紡ぐ、“沖縄のリズム”と私たちの物語」
皆さま、おはようございます。
こうして朝の空気とともに、私たち城間びんがた工房の営みや思いに目を留めていただき、本当にありがとうございます。工房代表・16代目として、まずはこの場を借りて心からの感謝をお伝えしたいと思います。
私たちの仕事――それは、とても派手なものではありません。日々の作業は、驚くほど地味で素朴なものです。しかしその一つひとつの積み重ねこそが、300年続くびんがたの“命”を守り、次世代に手渡していくことにつながっています。
■ 祖父の時代から受け継ぐ「手しごとの深み」
戦後、沖縄が焼け野原となった時代から、工房には常に20名前後の職人たちが集い、それぞれが自分の役割を全うし、技と心を重ねてきました。私の祖父の代から数えれば、約70年。戦後の厳しい時代にあっても、職人たちは皆、途切れることなく手を動かし、知恵を持ち寄り、励まし合いながら工房を守ってきました。
ありがたいことに、今もベテランの職人が現役で工房にいてくれます。先輩方の中には、「もうちょっと強く」とか「もう少し“色っぽく”」など、一見、曖昧とも思えるニュアンスで色や形を伝えてくれる方もいます。その一言一言には、言葉以上の重みと、琉球の美意識が込められています。
こうした感覚を“感じ取る力”を身につけるのは簡単ではありません。ですが、沖縄という土地の持つゆったりとしたリズム、人と人との距離が近い空気感の中で、先輩から後輩へ、そしてまた次の世代へと、言葉を超えた学びが自然と工房に流れています。この環境そのものが、私たちの何よりの財産だと感じています。
■ 変わらないもの、変わりゆくもの
私たちの工房があるこの場所は、私自身が3歳の頃に建てられました。1階と3階が仕事場、2階が住まいという、家族も職人も一つ屋根の下で暮らすような環境でした。私は「いつから仕事場にいたのか」さえ曖昧になるほど、幼い頃からびんがたの世界に身を置いてきました。
10代の後半、初めて「水洗い」という仕事を与えられたことを今もよく覚えています。水の中で揺れる顔料の美しさ、あの瞬間が、私の中での「原風景」となりました。ベテラン職人の仕事を間近に見ながら、一番色が冴える瞬間を肌で感じたことは、今の自分にとって何よりの宝物です。




古典柄のびんがたは、何度見ても飽きることがありません。その迫力、美しさ、バランス。型紙一つ、色一つとっても、何世代もの職人たちが工夫と試行錯誤を重ねてきた“知恵の結晶”です。時代が変わっても、その芯の強さ、揺るぎなさは失われません。
■ 作り手としての「誇り」と「問い」
20年前、びんがたの世界では「古典柄を守る」ことが最も重要視されていました。もともと王族や貴族の衣装として伝えられたびんがたは、「変えないこと」に価値がありました。当時は、職人が自分自身のオリジナリティを出すことに、慎重だったように思います。
ですが、時代とともに作家としての個性や自由な発想を表現する風潮も少しずつ生まれてきました。
私自身、今でも「びんがたのどこに自分は心を惹かれるのか」「自分の表現の根っこに何があるのか」を繰り返し問い直しています。過去の職人や、親世代、そしてお客様がびんがたのどんなところに“誇り”や“美”を感じてきたのか。その思いを受けとめながら、私なりの表現を模索する日々です。


実際に、今でも古い柄を何度も見返し、必要ならば一から図案を描き直します。同じ型を見ていても、感じる魅力や“気づき”は人それぞれ違う。だからこそ、「今、この時代の自分にしか出せない表現」がどこかにあるはずだと信じています。
■ 沖縄の「リズム」に生きる
沖縄という土地は、南風がそよぎ、島の人々はみんな“人懐っこい”性格です。小さなコミュニティで暮らしているからこそ、お互いに助け合い、時には言葉を選ばず突っかかってくることもあります。でも、それが沖縄の温かさであり、素朴さであり、地道にものづくりを続ける原動力でもあるのです。
世の中が大きく変化し、沖縄の暮らしもどんどん便利になっていく一方で、「変わらないリズム」を守ることは決して簡単ではありません。それでも、今もこうして皆さんがびんがたに関心を寄せ、応援してくださること――それが私たちの日々の励みとなり、ものづくりを続ける支えになっています。
■ 地味で素朴な日々の「喜び」と「深み」
びんがた作りの日常は、一見すると単調に思えるかもしれません。朝早くから黙々と型を置き、色を重ね、水で洗う。時には失敗し、また一からやり直す。それでも、型紙に染み込んだ先人たちの“知恵”に学び、何百回、何千回と同じ作業を繰り返す中で、はっと息をのむほど美しい瞬間が訪れます。
“派手な達成”や“一発逆転”はありません。けれども、地味でコツコツとした日々の中にこそ、深い喜びと職人としての誇りがあります。
私は、この小さな営みを「すごい」と感じていただけたら、こんなに嬉しいことはありません。
■ 皆さまの好奇心が、私たちの原動力です
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
びんがたがここまで続いてこられたのは、皆さま一人ひとりの“好奇心”と“応援”があったからこそです。沖縄の離れ島で続くこの営みが、誰かの心にほんの少しでも響いてくれたなら、これ以上の幸せはありません。
これからも、島のリズムを大切に、コツコツと、そして時に大きな挑戦も忘れずに、びんがたの灯りを次の世代に繋いでいきたいと思います。
どうぞ、これからも温かく見守っていただけましたら幸いです。
そしてびんがたの世界に、ぜひ一度足を運んでいただければ嬉しいです。


紅型に、時間と祈りを宿す
私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。
布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。

城間栄市プロフィール 生い立ちと紅型との距離
1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。
幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。
本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。
外の世界で学んだこと
2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。
異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。
この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。
受賞・出展についての考え方
これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。
こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。
一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。
制作について
制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。
代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。
新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。
今、そしてこれから
現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。
これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。
これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。
おわりに
公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。
Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。
どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。
この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

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