「伝統の中に未来を見る:紅型イベントを終えて」
2024.12.12
イベントを振り返って ~「祝いの布展」とその余韻~
イベント「祝いの布展」が終わり、あれから約2週間が経ちました。工房も日常のペースを取り戻し、私自身も改めて「やはり物づくりと静かに向き合う時間が何より好きだ」と実感しています。しかし、この2週間で振り返るたびに、イベント中にいただいた多くの視点や意見、参加者の皆さまと交わしたコミュニケーションがどれほど貴重だったかを痛感しています。

工房見学と琉球舞踊で伝えたもの
今回のイベントでは、工房見学、琉球舞踊の鑑賞、そしてギャラリーでの作品紹介という流れで進行しました。特に工房見学では、職人たちが実際に作業している様子を見ていただきながら、紅型の制作工程を直接解説しました。参加者の皆さまが職人の一挙手一投足を真剣に見つめ、時に感嘆の声を上げながら質問を重ねてくださる姿に、私たちも非常に励まされました。
沖縄に自生する竹と女性の髪の毛で作られた筆を使い、「これで色を塗ります」と説明しただけでも、「こんなふうに色を差していくんですね!」と驚きの反応をいただけたことは、とても印象的でした。工房の代表で紅型の制作工程を20年以上説明してきた私にとっても、こうした新鮮な反応に触れることができたのは大きな喜びです。



手仕事を目の当たりにする価値
その一方で、こうした驚きや感動が今の時代だからこそ生まれるのかもしれないとも感じました。かつて手仕事を見る機会は特別なものではありませんでしたが、現代ではその機会が減り、非日常的な体験として受け止められているのだと実感しました。この状況は、私たちにとっては新たなチャンスであると同時に、「手仕事の価値をどう伝え、次の世代にどう繋いでいくか」という課題を突きつけられた瞬間でもありました。
紅型が持つ特別な背景と伝える使命
紅型は琉球王国時代に、王族や貴族の衣装として、また中国や日本への交易品として発展してきた工芸です。そのため、生活の中から自然発生的に生まれた他の工芸とは異なり、強いメッセージ性が込められています。紅型の文様は、琉球の文化や誇りを象徴し、外部の世界に向けた「自己表現」だったのです。

そのため、私たち作り手自身も時に「独りよがり」になってしまうことがあります。今回のイベントで参加者の方々から直接意見や感想をいただけたことは、紅型が現代にどう映るのかを知る貴重な機会であり、制作への姿勢を見つめ直すきっかけとなりました。
初めての挑戦がもたらした気づき
今回、琉球舞踊の鑑賞を取り入れたことや、普段見せることのない制作現場を公開したことは、私たちにとっても新たな試みでした。準備段階から「本当に楽しんでいただけるだろうか」「満足してもらえるだろうか」という不安が常にありました。それでもイベント終了後、参加者の皆さまから「また来たい」「紅型の魅力がよく分かった」と直接感想をいただけたことで、その不安は大きな達成感と感謝の気持ちに変わりました。
次の一歩に向けて
今回のイベントを通して得た気づきは、紅型という手仕事が持つ可能性や、その価値を再認識させてくれるものでした。次の取り組みに向けて、得られた反応や意見をしっかりと活かしながら、紅型の魅力をさらに広げていきたいと思います。参加してくださった皆さま、そして私たちの活動に興味を持ち、関心を寄せてくださる全ての方々に、改めて心から感謝申し上げます。
この1週間、イベントの余韻とともに歩んだ時間は、私たちにとって新たなスタートラインとなりました。これからも紅型が伝えるべき物語を大切にしながら、未来へ繋げていきたいと思っています。


公式ホームページでは、紅型の歴史や伝統、私自身の制作にかける思いなどを、やや丁寧に、文化的な視点も交えながら発信しています。一方でInstagramでは、職人の日常や工房のちょっとした風景、沖縄の光や緑の中に息づく“暮らしに根ざした紅型”の表情を気軽に紹介しています。たとえば、朝の染料作りの様子や、工房の裏庭で揺れる福木の葉っぱ、時には染めたての布を空にかざした一瞬の写真など、ものづくりの空気感を身近に感じていただける内容を心がけています。
紅型は決して遠い伝統ではなく、今を生きる私たちの日々とともにあるものです。これからも新しい挑戦と日々の積み重ねを大切にしながら、沖縄の染め物文化の魅力を発信し続けていきたいと思います。ぜひInstagramものぞいていただき、工房の日常や沖縄の彩りを一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。

城間栄市 プロフィール昭和52年(1977年)、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育つ。
学歴・海外研修
- 平成15年(2003年)より2年間、インドネシア・ジョグジャカルタ特別州に滞在し、バティック(ろうけつ染)を学ぶ。
- 帰国後は城間びんがた工房にて、琉球びんがたの制作・指導に専念。
受賞・展覧会歴
- 平成24年:西部工芸展 福岡市長賞 受賞
- 平成25年:沖展 正会員に推挙
- 平成26年:西部工芸展 奨励賞 受賞
- 平成27年:日本工芸会 新人賞を受賞し、正会員に推挙
- 令和3年:西部工芸展 沖縄タイムス社賞 受賞
- 令和4年:MOA美術館 岡田茂吉賞 大賞 受賞
- 令和5年:西部工芸展 西部支部長賞 受賞
主な出展
- 「ポケモン工芸展」に出展
- 文化庁主催「日中韓芸術祭」に出展
- 令和6年:文化庁「技を極める」展に出展
現在の役職・活動
- 城間びんがた工房 十六代 代表
- 日本工芸会 正会員
- 沖展(沖縄タイムス社主催公募展)染色部門 審査員
- 沖縄県立芸術大学 非常勤講師
プロフィール概要
はじめまして。城間びんがた工房16代目の城間栄市です。私は1977年、十五代・城間栄順の長男として沖縄に生まれ、幼いころから紅型の仕事に親しみながら育ちました。工房に入った後は父のもとで修行を重ねつつ、沖縄県芸術祭「沖展」に初入選したことをきっかけに本格的に紅型作家として歩み始めました。
これまでの道のりの中で、沖展賞や日本工芸会の新人賞、西部伝統工芸展での沖縄タイムス社賞・西部支部長賞、そしてMOA美術館の岡田茂吉賞大賞など、さまざまな賞をいただくことができました。また、沖展の正会員や日本工芸会の正会員として活動しながら、審査員として後進の作品にも向き合う立場も経験しています。
私自身の制作で特に印象に残っているのは、「波の歌」という紅型着物の作品です。これは沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、藍型を基調とした布に躍動感をもって表現したものです。伝統の技法を守りつつ、そこに自分なりの視点や工夫を重ねることで、新しい紅型の可能性を切り拓きたいという思いが込められています。こうした活動を通して、紅型が沖縄の誇る伝統工芸であるだけでなく、日本、そして世界に発信できるアートであると感じています。
20代の頃にはアジア各地を巡り、2003年から2年間はインドネシア・ジョグジャカルタでバティック(ろうけつ染)を学びました。現地での生活や工芸の現場を通して、異文化の技術や感性にふれ、自分自身の紅型への向き合い方にも大きな影響を受けました。伝統を守るだけでなく、常に新しい刺激や発見を大切にしています。
最近では、「ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―」など、世界を巡回する企画展にも参加する機会が増えてきました。紅型の技法でポケモンを表現するというチャレンジは、私自身にとっても大きな刺激となりましたし、沖縄の紅型が海外のお客様にも響く可能性を感じています。
メディアにも多く取り上げていただくようになりました。テレビや新聞、ウェブメディアで工房の日常や制作現場が紹介されるたびに、「300年前と変わらない手仕事」に込めた想いを、多くの方に伝えたいと強く思います。