紅型の歴史と職人の想い—「祝いの布」展で体感する沖縄の工芸
2024.11.10
皆さん、こんにちは。いつも投稿をご覧いただき、ありがとうございます。今日はあいにくの天気の沖縄ですが、工房では今月末のイベント「祝いの布」展に向けて準備を進めています!
「祝いの布」展は、11月29日(金)と30日(土)に開催予定で、内容は30分の工房見学、琉球舞踊の鑑賞、そしてギャラリーでの展示鑑賞の3部構成を予定しています。前回の6月には「つなぐ想い」というタイトルで開催し、その際はスライドを使って琉球や紅型、城間家について30分ほどお話しました。今回は2回目ということで、前回の内容をさらに微調整し、いくつか新しい試みも取り入れています。紅型工房の雰囲気を感じていただきながら、沖縄の伝統と歴史に触れていただく時間にしたいと思っています。
今回の投稿で掲載しているのは、普段の工房のスナップ写真です。紅型は、琉球王朝に守られていた時代から戦後復興、そして民族衣装から和服への転換と、ここ100年でさまざまな変遷をたどってきましたが、製作方法自体はほとんど変わっていません。琉球の王様のための一点ものとして作られていたため、紅型には大量生産のプロセスが存在せず、それが今も続いているユニークさの理由かもしれません。また、沖縄の人々のゆったりした気質も手伝って、大量生産を求めない製作のリズムが受け継がれてきたように感じます。
このイベントを通して、紅型の歴史や工房の空気感を感じていただき、沖縄ならではのものづくりのリズムに触れていただけるひとときになればと願っています。皆さんにお会いできるのを楽しみにしています!






プロフィール|城間栄市
紅型に、時間と祈りを宿す
私は紅型を、単なる染色技法ではなく、
沖縄という土地で積み重ねられてきた時間や祈り、
そして暮らしの感覚を受け止める「文化の器」だと捉えています。
布に色を置くという行為の奥には、
自然へのまなざし、人への想い、
そして生き方そのものが静かに重なっています。
その感覚を、できるだけ正直に、今の時代の言葉と形で手渡していくこと。
それが、私が紅型と向き合い続ける理由です。

生い立ちと紅型との距離
1977年、沖縄県生まれ。
城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育ちました。
幼い頃から、工房は日常の延長線上にありました。
染料の匂い、布を干す風景、
職人たちの背中や交わされる何気ない会話。
それらは特別なものというより、生活の一部として、自然に身の回りにありました。
本格的に工房に入り、父のもとで修行を始めたのは、
沖縄県芸術祭「沖展」への初入選をきっかけとしています。
紅型を「受け継ぐもの」としてではなく、
自分自身の人生として引き受ける覚悟が、
そのとき初めて定まったように思います。
外の世界で学んだこと
2003年からの約2年間、
インドネシア・ジョグジャカルタに滞在し、
バティック(ろうけつ染)を学びました。
異なる気候、異なる宗教観、異なる生活のリズム。
その中で工芸がどのように根づき、人々の暮らしと結びついているのかを、
現地での生活を通して体感しました。
この経験は、
「伝統を守ること」と「変化を受け入れること」は、
決して相反するものではない、
という確信を私にもたらしました。
受賞・出展についての考え方
これまで、沖展、日本工芸会、西部伝統工芸展、
MOA美術館岡田茂吉賞など、
いくつかの評価や賞をいただいてきました。
また、文化庁主催の展覧会や、
「ポケモン工芸展」など、国内外に向けた企画展にも参加する機会を得ています。
こうした節目を迎えるたびに、
私自身の評価以上に、
紅型という存在を知ってもらう機会が広がっていくことに、
大きな喜びを感じています。
一つの作品が、
「沖縄にはこういう染め物があるのですね」
という小さな気づきにつながる。
その積み重ねこそが、紅型の未来を静かに支えていくのだと感じています。
制作について
制作では、伝統的な技法を大切にしながらも、
その時代、その感覚にしか生まれない表現を探り続けています。
代表作の一つである紅型着物《波の歌》では、
沖縄の海を泳ぐ生き物たちの姿を、
藍色を基調に、リズムと奥行きを意識して表現しました。
新しさを声高に主張するのではなく、
布に触れた人が、
どこか懐かしさや安心感を覚えるような仕事を目指しています。
今、そしてこれから
現在は、
城間びんがた工房十六代代表として制作を行いながら、
日本工芸会正会員、沖展染色部門審査員、
沖縄県立芸術大学非常勤講師としても活動しています。
これらの役割もまた、
紅型を「閉じた世界」に留めず、
次の世代や、まだ出会っていない人たちへと
静かにつないでいくための一つの手段だと考えています。
これからも、
展覧会やさまざまな協働を通して、
紅型という文化に触れる“入り口”を、少しずつ増やしていきたい。
それは広げるためというより、
必要な場所に、必要なかたちで、そっと灯りを置いていく
そんな感覚に近いものです。
おわりに
公式ホームページでは、
紅型の歴史や背景、制作に込めた考えを、
少し丁寧に言葉にして残しています。
Instagramでは、
職人の日常や工房の空気、
沖縄の光や緑の中で息づく紅型の表情を、
より身近な距離感でお伝えしています。
どちらも、紅型を「特別なもの」にするためではなく、
今を生きる私たちの暮らしと、
静かにつながる存在として感じていただくためのものです。
この場所を訪れてくださったことが、
紅型との、ささやかな出会いとなれば幸いです。

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