祈りと挑戦の染め日記

おはようございます。いつも紅型に関心を寄せてくださり、本当にありがとうございます。紅型を通じて琉球文化が広がっていくことに、私たちは深い感謝を抱いています。皆さんの関心と好奇心は、私たちの挑戦を支える大きな原動力です。

城間びんがた工房では、三百年前とほとんど変わらないリズムで、今日もものづくりに向き合っています。激しく価値観が揺れ動く時代の中で、「この仕事はいつまで続けられるのだろう」と不安が頭をよぎることもありますが、私たちは目の前の作業に心を集中させ、祖先が積み重ねてきた仕事を一つ一つ丁寧にこなしています。そこに、少しでも工夫や発見を重ねられたらと願いながら――まるで祈るような気持ちで、毎日手を動かしています。

私たちが掲げる理念は「ものづくりを通して琉球の思いを守る」です。これは「すでに守れている」という宣言ではなく、「この方向へ進もう」という掛け声のようなもの。霧の中でかすかに光る道標を確かめながら歩いている――そんな感覚に近いかもしれません。

祖父の時代、工芸を残すことは言葉にしなくても当然の使命だったのでしょう。戦争で多くを失った沖縄、とりわけ首里の焼け野原を目にした祖父は、「琉球の文化を絶やしてはならない」という情熱を腹の底にたぎらせ、どんな苦難にも屈しませんでした。その背中を見ていた父は、紅型を着物の世界へ押し上げようと挑戦を重ねました。そうして受け継がれてきた思いに、私は十二年前、言葉という形を与えようと決めたのです。

急速に価値観が変わる時代に、何を守り、何を変えるべきか――答えを探すために父母への聞き取りを重ね、年二回の職人面談で現場の声を拾い集めました。さらに自分自身のインドネシアでの経験や、琉球が日本・中国・東南アジアから受けた影響を重ね合わせ、「城間びんがた工房を文化の拠点に」という言葉を掲げました。しかし六年後、コロナ禍に直面し、工房は深刻な状況へ。祖父が瓦礫の首里で紅型のポストカードを紅型の技術で作り、米兵に売った逸話や、父が着物の世界に挑み続けた姿が支えとなり、理念をより明確に整え直しました。

ものづくりを通して琉球の思いを守り、
仕事を通して心と財布を豊かにして、
未来の沖縄を守ります。

私たちは紅型という手仕事を通じて琉球の思いを守りながら、今を生きる自分たちの生活も豊かにしなければ未来は守れない――そう信じています。そして今、日本の着物文化の中に紅型が確かな居場所を築くことを目指しています。海の香りや南国の光を思わせる自由闊達な色彩、手作業でしか生み出せない風合い――それらをはっきりと示すことで、祖父の時代の「失われられまいとする熱」と、現代の私たちの「つなぎたい願い」とが重なり合い、日本文化の一角に紅型が輝く未来へ続いていくと信じています。

城間栄市 プロフィール昭和52年(1977年)、沖縄県生まれ。

城間びんがた工房十五代・城間栄順の長男として育つ。

学歴・海外研修

  • 平成15年(2003年)より2年間、インドネシア・ジョグジャカルタ特別州に滞在し、バティック(ろうけつ染)を学ぶ。
  • 帰国後は城間びんがた工房にて、琉球びんがたの制作・指導に専念。

受賞・展覧会歴

  • 平成24年:西部工芸展 福岡市長賞 受賞
  • 平成25年:沖展 正会員に推挙
  • 平成26年:西部工芸展 奨励賞 受賞
  • 平成27年:日本工芸会 新人賞を受賞し、正会員に推挙
  • 令和3年:西部工芸展 沖縄タイムス社賞 受賞
  • 令和4年:MOA美術館 岡田茂吉賞 大賞 受賞
  • 令和5年:西部工芸展 西部支部長賞 受賞

主な出展

  • 「ポケモン工芸展」に出展
  • 文化庁主催「日中韓芸術祭」に出展
  • 令和6年:文化庁「技を極める」展に出展

現在の役職・活動

  • 城間びんがた工房 十六代 代表
  • 日本工芸会 正会員
  • 沖展(沖縄タイムス社主催公募展)染色部門 審査員
  • 沖縄県立芸術大学 非常勤講師
  • 沖縄大学 非常勤講師

プロフィール概要

城間 栄市(しろま・えいいち)は、昭和52年(1977年)生まれの琉球びんがた作家・城間びんがた工房代表  十五代・城間栄順の長男として、幼少期より琉球びんがたに親しむ。平成15年(2003年)から2年間インドネシアに滞在し、バティック(ろうけつ染)の技法を学んだ後、沖縄に帰国。以来、伝統的なびんがた技法を継承しつつ、海外での経験を活かした独自の表現を追求している。

数々の受賞歴を持ち、日本工芸会正会員・沖展染色部門審査員など、多方面で活躍。文化庁やMOA美術館主催の展覧会にも出展を重ね、琉球びんがたの魅力を国内外に発信している。現在は城間びんがた工房十六代の代表として制作・指導にあたりながら、沖縄県立芸術大学の非常勤講師として後進の育成にも尽力。