昨日を越えるための手
2024.11.29
「耳をそば立てる」という言葉がありますね。私たち手仕事の職人にとって、それを「指先をそば立てる」と言い換えても良いかもしれません。仕事をするとき、それぞれの指先がセンサーのようになり、細かな感覚をキャッチしている――そう無理矢理言葉にすれば、そんな風に表現できるでしょうか。
私の先輩が、ふとこんなことを言いました。
「いつになったら、仕事がうまくなるかね。」
50年近いキャリアを持つ大ベテランの言葉です。その言葉を聞くたびに、私は自然と謙虚にならざるを得ません。こんなにも長く仕事に向き合い続けた人がなお、そう感じているのだと知ると、自分なんてまだまだだと思わずにはいられないのです。
でも、だからこそ、少しでも良いものを作りたい。昨日の失敗を越えて、今日もっと良いものを生み出せるかもしれない。その繰り返しが、仕事というものの本質なのではないでしょうか。そんな思いで取り組むと、胸の奥、へそのあたりがぎゅっと力が入るような感覚になります。大げさに言えば、お腹を壊してしまいそうなくらい。でも、大げさにならずとも、一つ一つの仕事に丁寧に向き合うこと。そして、仕事に惚れること――これこそが、仕事を上達させる最良の道なのかもしれません。
職人たちの手元を見ていると、そこにはたくさんの人生が凝縮されているように感じます。年輪のように重ねられた経験、ひとつひとつ積み重ねられた挑戦。それらが彼らの指先に、動きに、そして作品に刻み込まれています。
長々と話してしまいましたが、私にとって「職人の手元」というのは、ただ作業をしているだけではない、特別な意味を持ったものなのです。それは言葉では説明しきれない魅力が詰まった、まるで物語を読むような感覚にさせてくれるもの。私が惹きつけられてやまないのは、そんな手元に秘められた静かなエネルギーなのだと思います。







城間栄市 プロフィール
- 昭和52年 沖縄県に生まれる。城間びんがた工房15代 城間栄順の長男。
- 平成15年(2003年) インドネシア・ジョグジャカルタ特別州にて2年間バティックを学ぶ。
- 平成25年 沖展正会員に推挙。
- 平成24年 西部工芸展 福岡市長賞 受賞。
- 平成26年 西部工芸展 奨励賞 受賞。
- 平成27年 日本工芸会新人賞を受賞し、正会員に推挙される。
- 令和3年 西部工芸展 沖縄タイムス社賞 受賞。
- 令和4年 MOA美術館岡田茂吉賞 大賞を受賞。
- 令和5年 西部工芸展 西部支部長賞 受賞。
- 「ポケモン工芸展」に出展。
- 文化庁「日中韓芸術祭」に出展。
- 令和6年 文化庁「技を極める」展に出展。
現在の役職
- 城間びんがた工房 16代 代表
- 日本工芸会 正会員
- 沖展(沖縄タイムス社主催公募展)染色部門審査員
- 沖縄県立芸術大学 非常勤講師
- 沖縄大学 非常勤講師