「染めの季節がやってくる – うりずんと藍の香り」
2025.03.03
沖縄は「うりずん」と呼ばれる季節になりつつあります。南風が吹き、日本全体でいうと春にあたる時期でしょうか。
うりずんは、北風から南風へと変わり、湿った空気が暖かさを運んでくるとともに、さまざまな生き物が生き生きと活動し始める季節です。「うるおいの多い」という意味合いからこの言葉が生まれたのかどうかは定かではありませんが、昔からこの時期ならではの植物や風景が沖縄にはあります。冬の乾いた空気から一変し、しっとりとした湿気が増し、まるで大地が新たな息吹を取り戻すかのように、草木が生き生きとし始めるのが特徴です。


沖縄は一年中、植物や花が咲き誇る温暖な気候ですが、それでも季節ごとの表情が感じられます。例えば、うりずんの時期には、デイゴの花が咲き始め、鮮やかな赤やピンクの花が青空に映えます。特にデイゴは沖縄を象徴する花の一つで、その力強い赤色は、まるで生命力を象徴しているかのようです。また、この時期には海辺のグンバイヒルガオが砂浜を彩り始め、淡い紫色の花が海風に揺れる様子が見られます。これに対し、一年中咲いているハイビスカスやブーゲンビリアもありますが、うりずんの湿った空気の中では、いつもより鮮やかに映るような気がします。

こうした自然環境は、私たちの紅型のものづくりにも少なからず影響を与えています。特に、色使いや作品の発想、図案の構成などは、沖縄の空気感や湿度、そして南の島ならではの光や風を感じさせるものが多いです。紅型の鮮やかな色彩は、沖縄の自然そのものを反映しているとも言えます。例えば、藍色は沖縄の澄んだ海を思わせ、深い緑は亜熱帯の豊かな森を連想させます。また、赤や黄色の使い方は、デイゴやブーゲンビリア、琉球松の夕陽に染まるシルエットから着想を得ていることが多いです。
個人的にも、私はこの「うりずん」の季節が一番好きです。南風が吹くと、「藍染めの時期が始まった!」というワクワク感が湧いてきます。子どもの頃から、暑い季節になると藍の発酵した香りが漂い、それだけで心が高揚したものです。工房では、400リットルの甕(かめ)の中で藍がゆっくりと発酵し、南風が吹き抜けると、その独特の香りが広がります。この香りを嗅ぐと、「ああ、夏になったな」と感じるのです。発酵した藍液はまるで生き物のように呼吸し、私達職人はその変化を見極めながら染め作業を進めます。
また、うりずんの季節は、畑や市場にも色とりどりの恵みをもたらします。パパイヤやマンゴーが実り始め、島バナナも少しずつ市場に並びます。野菜では、島ニンジンやゴーヤーが特に元気よく育ち、旬の食材として料理に登場することが増えます。こうした食材の色彩も、紅型の鮮やかな色づかいに通じるものがあります。自然と共に生きる沖縄の文化は、食と工芸のどちらにも深く根付いていると感じます。
冬の時期と比べると、気持ちが2割増しくらいでテンションが上がる、そんな感覚でしょうか。風の匂い、湿度、草花の色彩、そして藍染めの香り——うりずんの訪れとともに、沖縄はより一層、命が輝く季節へと移り変わっていくのです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。紅型を通して琉球文化が広がっていくことに、心から感謝しています。普段は工房の様子やものづくりの過程などをお伝えしているこの公式ホームページのお知らせコラムですが、今回は季節についてお話ししました。
伝統工芸である以上、その背景にある環境や自然はとても大きな影響を与えています。特に沖縄は、日本最南端の離島でありながら、アジアの玄関口として、さまざまな南の島々の文化が交差する地でもあります。南風が吹くと私の心がワクワクするのは、もしかすると私のDNAが反応しているからなのかもしれません。
20代の頃、インドネシアを訪れた際、「チャンプルー」という言葉に出会いました。それは「混ぜる」という意味を持ち、沖縄の「ゴーヤーチャンプルー」に使われる「チャンプルー」と同じ発音、同じ意味だったのです。この5000キロも離れたジャワ島で共通する言葉が存在することに驚きましたが、さらに驚いたのは、そこに住む人々の暮らしぶりでした。彼らは沖縄の人々と同じように穏やかで、せかせかと走ることなく、ゆったりとのんびりと過ごしていました。
こうした文化のつながりや影響を、私たちはこの自然環境からも受け取っているのではないでしょうか。今回は、そんな沖縄でも特別な季節「うりずん」について語らせていただきました。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。皆様の好奇心が、私たちの挑戦を支えてくれています。いつも応援してくださることに、心から感謝いたします。











城間栄市 プロフィール
- 昭和52年 沖縄県に生まれる。城間びんがた工房15代 城間栄順の長男。
- 平成15年(2003年) インドネシア・ジョグジャカルタ特別州にて2年間バティックを学ぶ。
- 平成25年 沖展正会員に推挙。
- 平成24年 西部工芸展 福岡市長賞 受賞。
- 平成26年 西部工芸展 奨励賞 受賞。
- 平成27年 日本工芸会新人賞を受賞し、正会員に推挙される。
- 令和3年 西部工芸展 沖縄タイムス社賞 受賞。
- 令和4年 MOA美術館岡田茂吉賞 大賞を受賞。
- 令和5年 西部工芸展 西部支部長賞 受賞。
- 「ポケモン工芸展」に出展。
- 文化庁「日中韓芸術祭」に出展。
- 令和6年 文化庁「技を極める」展に出展。
現在の役職
- 城間びんがた工房 16代 代表
- 日本工芸会 正会員
- 沖展(沖縄タイムス社主催公募展)染色部門審査員
- 沖縄県立芸術大学 非常勤講師
- 沖縄大学 非常勤講師